LAPIS:南洋工科大学のシートベース金属3Dプリンティングが、RAPID+TCT 2026で世界的注目を集める

4月 17, 2026

Successful trial of lattice printing with uniformity even at small sizes

北米最大の積層造形イベント「RAPID+TCT 2026」が今週ボストンで閉幕した。そのタイミングに合わせ、シンガポール発のシートベース金属3Dプリンティング技術が静かに、しかし確かな存在感を世界へ示した。南洋工科大学(NTU)が開発した「LAPIS」が、2026年TCT AwardsのHardwareカテゴリーのファイナリストに選出され、General MotorsやNASAをはじめとする世界の主要産業プレイヤーと並び立った。NTUは4月16日——イベント最終日——にLAPISの特集記事を公開。世界が注目するタイミングに合わせた、意図的な発信といえる。

LAPISとは何か

LAPISは「Laser Pulse Integration of Sheets」の略称で、NTU機械航空宇宙工学部のNanyang Assistant Professor Lai Chang Quanが開発した、金属3Dプリンティングの新しいアプローチだ。従来の金属3Dプリンティングが使用する金属粉末の代わりに、金属シートを原料として使用する点が最大の特徴である。レーザーでシートを溶接・切断しながら層を積み重ねることで、高密度かつ高精度の金属部品を造形する。スピンオフ企業「LAPIS Innovations Pte Ltd」として事業化が進んでおり、2026年末のグローバル商業展開を予定している。

Production method using LAPIS’s sheet-based approach
LAPISのシートベース製造プロセス | Image: LAPIS

従来の金属3Dプリンティングが解決できなかった問題

金属積層造形は長年、複雑部品の製造を変革する技術として期待されてきた。しかし実際には、その中核材料である「金属粉末」の制約に縛られてきた。粉末は毒性があり、可燃性が高く、適切に処理しなければ脆い部品しか生まれない。

この限界が最も顕著に現れるのが、「クローズドセル格子構造」——完全に密閉された内部空洞を持つ部品——の製造だ。粉末ベースのシステムではこれを安定的に製造できない。構造を形成する際に使った粉末が空洞内に閉じ込められ、取り出せなくなるためだ。これまでエンジニアたちは、部品を2つに分けて加工・接合するという回避策を取ってきたが、それは品質のばらつきと設計自由度の低下を招いていた。

A titanium alloy lattice fabricated from powder, fracturing randomly at different locations
粉末で製造されたチタン合金格子構造。破断箇所がランダムに発生している | Photo: LAPIS

Lai教授がこの課題に取り組む中、解決策は2021年のワクチン接種の場で突然降ってきた。「金属粉末をシートに置き換える」——シンプルな発想だが、その意味は大きかった。「あまりに興奮して、すぐに共同研究者に電話しました」と彼は振り返る。「注射部位を綿で押さえながら、もう一方の手で電話を持っていたと思います。かなり滑稽な姿だったでしょう。」

シートベース金属3Dプリンティングが変えるもの

LAPISは、従来の粉末に代えてパターン加工された金属シートを原料として使用する。発想は単純だが、その効果は多岐にわたる。

初期の実験結果はチームの予想を超えた。シートベース方式で製造したステンレス鋼部品は、従来製法と比べて1.5倍の強度を示した。さらに重要な発見として、LAPISはチタン合金を通常の大気環境下で加工できることが判明した。粉末ベースのシステムでは、チタン粉末の発火リスクを避けるためにアルゴンガスで満たした密閉チャンバーが必須だ。しかしLAPISは固体シートを使うため、そのリスク自体が生じない。専用インフラが不要になることは、コストと運用上の複雑さを大幅に削減することを意味する。

シートベースの原料はもう一つの課題も解決する——部品間の品質ばらつきだ。粉末ベースでは、粒径分布・充填密度・表面化学特性の差異がビルドごとのばらつきを生む。LAPISでは材料特性が安定しており、異なるビルド間でも高い再現性が得られる。

Lai教授はこの技術の意義を、身近なたとえで表現する。「40年前、私たちは文書を印刷店に持ち込んで仕上がりを待っていた。オフィスプリンターの登場で、誰でも職場で即座に、確実に文書を印刷できるようになった。LAPISは金属部品において、まさにそれを実現する。今日設計して、明日には自分の工場で部品を手にできる。」

シンガポールの研究室からRAPID+TCT 2026の世界舞台へ

NTUが4月16日に特集記事を公開したタイミングは偶然ではない。RAPID+TCT 2026は4月13〜16日にボストンで開催され、世界の積層造形コミュニティが一堂に会した。TCT Awards授賞式は4月14日に行われ、LAPISはHardwareカテゴリーのファイナリストとしてGeneral Motors、NASAと肩を並べた。

Prof Lai (right) and his Gen 1 team (left to right): Cai Chenhui, Lim Guo Yao, Dominic Lim Kang Jueh, Jonathan Singham
Lai教授(右)と第1世代チーム(左から):Cai Chenhui、Lim Guo Yao、Dominic Lim Kang Jueh、Jonathan Singham | Photo: LAPIS

LAPISが引き寄せたコラボレーターは、技術の広がりを示している。生体医療分野ではTan Tock Seng HospitalおよびNational Dental Centre Singapore、国際学術連携ではTU MunichとTU Dublin、製造分野ではInfineonとFoxconn、米国ではZeda Inc.、GCTG、Autodesk。商業機は2026年末までに、NTUのスピンオフ企業「LAPIS Innovations Pte Ltd」を通じてグローバルに販売開始予定だ。すでにアーリーアダプターのパイプラインが形成されつつある。

AM Insight Asia の視点

LAPISの本質は、技術仕様よりも前にある。「粉末でなければならない理由はあるか」——既存の手法で業務を行っている人間にとって、その前提そのものを疑うのは難しい。日々の業務がその上に成り立っているからだ。Lai教授のチームがその問いを立てられたこと自体が、このプロジェクト最大の革新だった。

シンガポールはNAMICを中核に、航空宇宙・医療・海洋・防衛・建設・フードテックにまたがる高付加価値AMを国家戦略として明確に位置づけてきた。そしてその戦略を実現するうえで最も重要な要素として、優秀な人材の育成・誘致・活躍の場の提供に長期的に投資してきた。LAPISは、その戦略が着実に機能していることを示す、一つの具体的な証拠だ。