TCT Asia 2026 現地レポート【Part 4】:初めてのTCT Asia体験

3月 30, 2026

Tamu Furukawa (left) at the Qholia booth in the 3D Genius Hub zone at TCT Asia 2026, Shanghai.

大阪の小さな3Dプリンターメーカー・Qholiaはいかにして中国に挑んだか

日本には独自の3Dプリンターメーカーがほとんど存在しない。そんな中、大阪の金属加工会社・久宝金属製作所が開発した3DプリンターブランドQholiaが、2026年3月17〜19日に中国・上海で開催されたTCT Asia 2026に初出展した。欧米の主要ブランドがほぼ不在の中、中国のコンシューマー向けメーカーがフロアを席巻するTCT Asiaは、まさに戦場と呼ぶにふさわしい場所だ。代表取締役の古川多夢氏に、なぜQholiaをその中心地に持ち込んだのか、そして現地で何を目にしたのかを聞いた。

Qholiaとは何か——大阪の金属工場から生まれた3Dプリンターブランド

久宝金属製作所は大阪を拠点とする金属加工会社だ。代表取締役の古川多夢氏は、「まだ存在しないものを作る」をモットーに新たな事業を追求しながら、家業の4代目として会社を引き継いだ。

Qholiaが生まれたのは10年以上前のこと。古川氏が自身の製品開発のために3Dプリンターを購入したものの、満足できなかったことがきっかけだ。「存在しないものを作るのが仕事なら、自分が本当に必要な3Dプリンターを自分で作るべきだ」——そう考えた古川氏は、自らの手で作り始めた。なお、古川氏は日本の現行商業FDMプリンターラインの一つの基礎設計にも携わっており、そのエンジニアとしての実績が彼の設計思想に確かな裏付けを与えている。

開発はほぼ古川氏一人が担い、組み立てと出荷は会社スタッフが対応する。社員は約20名だが、Qholiaの業務に関わるのはそのうちのごく一部だ。ブランドの設計思想は、会社の製造業としてのルーツを直接反映している——金属筐体、国内でレーザーカットされフレームに直接取り付けられた部品、そして数十年の金属加工の経験から生まれる構造的な剛性。

The Qholia FFF 3D printer on display alongside printed samples at TCT Asia 2026.
TCT Asia 2026に展示されたQholia FFF 3Dプリンターと印刷サンプル。 | Photo: AM Insight Asia

なぜQholiaは売れ続けるのか——中国製マシンが市場を席巻する中で

約10年の販売期間を経て、Qholiaは国内で約600台を販売してきた。数を追うのではなく、設計者本人である古川氏自身による直接的なハンズオンサポートをビジネスモデルの中心に据えている。

顧客層は大学・研究機関・上場企業が中心——価格よりも精度と信頼性を優先する組織だ。用途は産業プロトタイピングや治具製作、材料テストから、個人ユーザーによる高精細なフィギュア造形まで多岐にわたる。

Qholiaの際立った特徴は、FFFマシンでありながらレイヤーラインがほぼ見えない表面仕上げを実現できることだ。Qholiaの出力物を手に取ると、レジンプリンターの出力品のように見える。フィラメントベースのマシンからこのレベルの仕上がりが得られることは、初めて目にする人を常に驚かせる。

販売後のサポートとアップグレードパスも重要な差別化要因だ。数年前に購入したマシンを今も使い続けているユーザーも多く、Qholiaは古い機種を現行の性能水準に引き上げるオーバーホール・アップグレードサービスを提供している。

中国のコンシューマー機の台頭について、古川氏は率直だ。「国家レベルの投資規模の差は圧倒的です」。しかし古川氏の反応は諦めではなく、集中だ。「自分に何ができるかを考えます」——それがQholiaを動かし続けるマインドセットだ。

Ultra-high-resolution figure prints by Qholia — the surface finish consistently stopped visitors in their tracks at TCT Asia 2026.
Qholiaによる超高解像度フィギュア印刷——その表面仕上げはTCT Asia 2026を通じて来場者を立ち止まらせ続けた。 | Photo: AM Insight Asia

なぜ中国へ?——TCT Asia 2026出展を決めた理由

日本には独自のマシンを開発・販売している3Dプリンターメーカーがほぼいない。TCT Asia 2026では欧米の主要ブランドもほとんど存在感を示せていなかった。他の日本メーカーは一社も出展していなかった。では、なぜ大阪の小さな会社がここに現れることにしたのか。

「以前から海外の展示会に出展したいと思っていました」と古川氏は語る。調達・開発・販売において、日本国内だけでは対応できない次元があった。海外とのつながりを築きたいという思いが積み重なっていた。

TCT Asia 2026を選んだ理由は2つ——距離とコストだ。3D Genius Hubの出展費用は比較的手頃で、他の海外オプションと比べて日本からの距離も現実的だった。RAPID+TCTやFormnextと比較しても、TCT Asia 2026は両面で最も合理的な選択だった。

TCT Asia 2026の現場で——古川氏が見て感じたもの

ショーフロアに足を踏み入れた瞬間、古川氏がまず感じたのはエネルギーだった。出展者も来場者も熱気に満ちていた。中国の3Dプリンティング産業の規模と活力が、どんな記事やデータも伝えられない形で古川氏に伝わってきた。

「3Dプリンターがここでは単なる日常の一部なんだということが、肌で感じられました」と古川氏は言う。日本では3Dプリンティングはまだ「特別な機器」という感覚が残っている。中国では、日常の製造の中に溶け込んでいる。印刷された物体が普通の商業空間に当たり前のように存在し、誰もそれをことさら取り上げない。その普通さ——中国における3Dプリンティングの当たり前さ——が、故郷との最も鮮烈なコントラストだった。

Qholiaが出展した3D Genius Hubゾーンには、スタートアップや小規模出展者が集まっていた。古川氏はフロアの向こうに大手メーカーの巨大ブースを眺めながら、自分と同じくらいの規模の企業や個人たちが挑戦している姿を間近で見ていた。

Qholiaブースに来た人々——そして彼らが求めたもの

来場者の反応は力強かった。立ち寄って質問したのは個人のホビーイストだけではない——企業の担当者も足を止め、詳しい話を聞いていった。

価格が高いと指摘する来場者もいた。中国のコンシューマー機と比べると、Qholiaの価格帯は大きく異なる。しかしそれ以上に印象的だったのは、印刷品質への反応だった。来場者は次々と、このマシンが生み出せるものへの純粋な驚きを表した。「これは私たちにはまだできないことをやっています」——それが繰り返し聞かれた言葉であり、そこには否定ではなく関心があった。

ホールの端に近いところに設けられた小さなブースにもかかわらず、常に人が集まり、詳しい質問が飛び交っていた。その控えめな出展スペースで生まれた熱量は、誰の目にも明らかに際立っていた。

Visitors gather at the Qholia booth — a small stand that consistently drew crowds throughout the three-day show.
Qholiaブースに集まる来場者——3日間を通じて絶え間なく人を引きつけた小さなブース。 | Photo: AM Insight Asia

行った価値はあったか?——そしてこれから

古川氏にとって、TCT Asia 2026は自身の言葉を借りれば「多くの面で刺激的」だった。

具体的な成果はまだ評価中の段階だが——ショーが終わったばかりだ——新しい製品の方向性についてのアイデアはすでに生まれ始めていた。それ以上に意味深かったのは、それまで完全には考えていなかった可能性が開かれたことだ。いつか深圳で開発・製造することが理にかなうかもしれない、という可能性が。コスト削減のためではなく、戦略的な理由から——情報の流れの速さ、物流インフラ、品質と価格のバランス、そして東南アジア市場へのハブとしての深圳のポテンシャルのために。

「将来の方向性についてのヒントがあり、モチベーションが上がりました」と古川氏は振り返る。来年のTCT Asiaにも参加するつもりだ。

挑戦を考える企業へのアドバイス

中国での出展を考えている他の企業への古川氏のアドバイスはシンプルだ。「絶対に自分の目で中国を見るべきです。交通費と宿泊費をかけるなら、中国を体験することは日本の展示会に参加するより価値があるかもしれません」

中国の展示会環境で特に印象に残ったこととして、2つを挙げた。一つは、メーカーが商社を通さず直接出展していること——つまり情報がより新鮮で密度が高いということ。もう一つは、技術を評価中の人ではなく、実際に生産現場で使っている人に会えること。「実際に現場を動かしている人たちに出会えます」と古川氏は言う。「それが重要なんです」。

実務面では、言語について強く念を押した。中国語と英語の両方に堪能なスタッフの存在は不可欠だった。「出展するなら、中国語と英語が話せるスタッフが必要です。それが教訓です」。

製品開発についての幅広い考察も残してくれた。「一つの機能を追求すると、必ず何か別のものが落ちる」。自分が何を目指して作っているのか、何を犠牲にする覚悟があるのか——それが上海でより明確になったかもしれない。

AM Insight Asia の視点

AM Insight Asiaは一貫して、日本のAMユーザーとメーカーに外を向くことを勧めてきた——必ずしも海外展開が目標だからではなく、グローバルな景色と関わることでどんな企業も強くなれるからだ。世界は、自国市場の外でも知られるブランドを認め、報いる方向に動いている。

そのような背景の中で、小さなチームが——金属加工会社を本業とし、Qholiaに関わるのはほんの数人という規模で——世界で最も競争の激しい3Dプリンティングショーの一つに乗り込んだという事実は、驚きであると同時に、純粋に称賛に値する。国内の展示会に慣れた日本の企業にとって、中国の展示会は衝撃だ——ブースの規模、来場者のエネルギー、フロアのペース——すべてが異なる次元で動いている。

中国のやり方をコピーする必要はない。しかし慣れ親しんだ領域の外に出て、本当に異なる環境に身を置き、それが自分の方向性にとって何を意味するかを問うこと——それこそが海外展示会の意義だ。TCT Asia 2026でのQholiaのデビューは、そのような勇気がどのような形をしているかを示す、小さくも鮮明な一例だ。