ダイドレ×Meltio、100年の鋳造技術にワイヤーDEDという新たな武器

5月 19, 2026

Vertical and horizontal deposition — the Meltio Robot Cell switching between two build axes

小ロット・カスタム・廃番部品、鋳造が苦手とする領域に挑む

排水器具・マンホールなど水回り機器の製造を手がけるダイドレ株式会社(大阪市)が、スペインの金属3DプリンターメーカーMeltioのワイヤーDEDシステムを導入した。創業100年を超える同社の製造基盤は鋳造だ。その鋳造技術を捨てたわけではない。鋳造では対応しきれない領域に、ワイヤーDEDという新たな製造手段を加えた。

鋳造では届かなかった領域

ダイドレが扱う排水器具・配管部品の多くは鋳造で製造される。鋳造は大量生産には強い。しかし弱点がある。金型を一度作ると形状変更のたびに新たな金型設計と製作が必要になる。コストが高く、時間もかかる。

その結果、以下のような領域では鋳造は現実的な選択肢にならなかった。

単品・小ロットのカスタム部品。特殊な配管レイアウトに対応した非標準品。金型も図面も残っていない廃番部品の復元。試作段階での形状検証。

こうした課題を解決できる技術として、ダイドレは金属積層造形(AM)に着目し、Meltio Robot Cellの導入を決断した。

ワイヤーDEDを選んだ理由

パウダーベッドフュージョン(PBF)やバインダージェットなど複数のAM技術を評価した結果、ダイドレが選んだのはMeltioのワイヤーDED方式だった。

決め手となったのは以下の点だ。

材料コストの大幅削減 Meltioによると、粉末方式と比べて材料コストを最大80〜90%削減できる。市販の溶接ワイヤーをそのまま使用できるため、調達コストも低い。

設備インフラの簡素さ 粉末方式に必要な防爆設備・焼結・脱脂装置が不要。既存の工場環境に導入しやすい。

大型造形への対応 Meltio Robot Cellは2m×1m×1mの造形エリアを確保。大型部品や複数部品の一括生産が可能だ。

複雑形状への対応 6軸ロボットアームと2軸回転テーブルの組み合わせにより、複雑な形状をサポート材なしで造形できる。

マルチマテリアル対応 同一部品内で最大2種類の金属材料を使用可能で、機能性の高いハイブリッド部品にも対応できる。

The Meltio Robot Cell adopted by Daidore
ダイドレが導入したMeltio Robot Cell | Photo: Meltio

ワイヤーDEDの実力:SUS316Lフランジ部品をサポート材ゼロで造形

導入後の技術検証として、ダイドレが取り組んだのは耐食性の高いステンレス鋼SUS316L(SS316L)を使った産業用フランジ部品の造形だ。特殊な配管レイアウトに対応するカスタム形状で、正確な流体経路の確保が求められる部品だった。

造形の詳細は以下の通りだ。

  • 部品サイズ: 165.7×107×174.7mm
  • 重量: 3.3kg
  • 造形時間: 16時間以内
  • 積層厚: 1mm
  • 材料: SUS316L(ステンレス鋼)

技術的な特徴は放射状積層戦略にある。6軸ロボットアームとカスタムツーリングを組み合わせることで、複雑な傾斜形状を従来のサポート材を一切使わずに造形することに成功した。さらにこの部品はロボット自動化による完全無人造形で製作されており、作業者への依存を大幅に削減している。

The SS316L flange component being printed with a Meltio head mounted on an ABB robotic arm
SUS316Lフランジ部品の造形中。ABBロボットアームにMeltioヘッドを搭載 | Photo: Meltio

技術検証から商業サービスへ:10ヶ月の軌跡

2025年6月3日、Meltioはダイドレの技術検証成功をケーススタディとして公式サイトで発表した。この時点ではまだ社内活用の段階だった。

そこから約10ヶ月後の2026年4月16日、ダイドレは国内の製造業向けプラットフォームで「金属3Dプリンターはじめました」と受託造形・特注試作サービスの開始を正式に発表した。

この10ヶ月でダイドレが取り組んでいたのは以下のステップだ。

技術の熟成。 3.3kgのフランジ部品の試作成功を起点に、顧客に提示できる品質のサンプルを製作するまで造形精度を高めた。

受託体制の整備。 自社専用の実験機から、顧客の3Dデータを預かって1個から製造する受託造形・特注試作サービスとしての体制を構築した。

サービスの強みとして同社が打ち出しているのは、金型レスで1個からの特注対応、最大2000×1000×1000mmの大型造形、廃番部品の復元、そしてSUS316Lをはじめとする高耐食合金への対応だ。排水器具製造で培った素材知識がここに活きている。

AM Insight Asia の視点

創業100年を超える企業が、長年培ってきた鋳造の知見を捨てることなく、その上にワイヤーDEDという新たな製造手段を積み上げた。変化への対応を迫られたわけではない。顧客が求める形を作り続けるために、自ら選んだ一歩だ。その姿勢こそが注目に値する。

日本においてワイヤーDEDは、既存部品の補修や肉盛り加工の文脈で語られることが多かった。しかしダイドレの事例は、補修にとどまらず「ゼロから部品を作る」という用途へのシフトを示している。金型も図面もない状態から、1個のカスタム部品を16時間以内に仕上げる。この実績が、日本の製造業においてワイヤーDEDの活用領域が補修から製造へと広がっていく流れを後押しするのではないか。

Source:

ダイドレ株式会社

Agile metal production by replacing molds and casts — Meltio (June 3, 2025)

Mold-free production of tailored metal parts — Meltio (July 22, 2025)

Meltio Use Case Study by Daidore — HDC

ダイドレ、金属3Dプリンターはじめました。 — Daidore Corporation via Ipros (April 16, 2026)