パート1では展示会の全体像を、パート2では注目セッションをお伝えした。パート3では、550社以上が出展する展示フロアの「見どころ」に焦点を当てる。広大な会場を効率よく回るには、事前に押さえておくべきブースを把握しておくことが不可欠だ。見逃してしまえば、今年最大のストーリーを取り逃がすことになりかねない。本稿では、AMIAが厳選した最低限押さえておきたい注目TCT Asia 2026出展企業とその理由をお伝えする。ただし、これはあくまでも出発点に過ぎない。550社の中には、まだ誰も気づいていない隠れた逸材が必ずいるはずだ。それを発見する楽しみも、この展示会の醍醐味である。欧米の確立されたブランドと中国発の革新的な企業が同じフロアに立つこの展示会は、AM業界のグローバルな勢力図を読み解く絶好の機会だ。
Hall 7.1 注目のTCT Asia 2026 出展企業:金属AMと直接比較が生む価値
Hall 7.1は金属AMの主戦場だ。中国メーカーが数・存在感ともに圧倒する一方、欧米のソフトウェア・デジタル企業も出展する。双方と同じフロアで直接対話できる機会は、世界でも数少ない。
プリンターメーカー
BLT 中国の金属AMを代表するフラッグシップ企業。上海証券取引所上場(688333.SH)、顧客数2,800社以上。26レーザー構成のBLT-S1500や最大12レーザーのBLT-S1000(ビルドボリューム:1200×600×1500mm)など、大型マルチレーザー技術で業界をリードする。年間生産能力は50,000部品超。Airbusを含む航空宇宙顧客にも部品を供給し、売上高の15%以上をR&Dに継続投資。第4工場(163,200㎡)も建設中だ。TCT Introducing(3月18日 10:00〜)での発表が予定されている。
Farsoon SLSとSLMの両方に対応するフルラインを持つ数少ないメーカーの一つ。今回はHall 7.1への出展となる。ポリマーと金属の両ソリューションを一つの屋根の下で評価したいバイヤーにとって、立ち寄る価値のあるブースだ。
Eplus3D EP-M2050システムは最大64レーザー構成に拡張可能で、ビルドサイズ2050×2050×1100mmは世界最大級の金属3Dプリンターの一つ。Honor Magic V2折りたたみスマートフォン向けチタン合金シャフトカバーの製造実績を持ち、航空宇宙分野には「超メートル級」システムを100台以上納入済みだ。TCT Introducing(3月17日 13:20〜)での発表が予定されている。
UnionTech 2000年創業、中国で最も歴史ある産業用SLAメーカーの一つ。累計グローバル販売台数は10,000台超。中核的な強みはタイヤ金型製造で、RA600 SLAプリンターは表面粗さRa<4µm、真円度偏差<0.05mm、寸法精度±0.1mmを実現する。タイヤメーカーがグリップ性能・耐摩耗性・安全性のために求める精度水準だ。タイヤ金型プリンターの世界累計設置台数は130台以上。TCT Asiaへのリピート出展となり、Hall 7.1に出展する。
Enigma LPBF主流のホールに出展するWAAM(Wire Arc Additive Manufacturing)専門メーカー。大型部品の低コスト金属造形において、WAAMは根本的に異なるアプローチを提示する。このフロアでそのケースを提示できる数少ない企業の一つだ。
Addireen Technologies 2023年創業。中国初のグリーンレーザー金属AM企業として、銅や高反射材料の積層造形に特化している。グリーンレーザーは銅などの高反射材料に対して従来の赤外線レーザーの約10倍の吸収率を持つ。フラッグシップシステムADDIREEN 400G(4グリーンレーザー、400×400×400mm)は、純銅密度99.8%以上、電気伝導率101% IACS、熱伝導率390 W/(m·K)を実現する。TCT Introducing(3月17日 15:40〜)での発表が予定されている。
ソフトウェア・デジタル(参考)
Materialise と Siemens がともにHall 7.1に出展する。CO-AMソフトウェアエコシステムとAM対応デジタル製造統合ソリューションをそれぞれ持ち込む形だ。欧米のソフトウェア・デジタルプレイヤーが中国のハードウェアメーカーと同じフロアに立つという事実そのものが、業界の現状を映し出している。
材料(参考)
Hall 7.1に出展する金属AM材料サプライヤーとして、Jinsanwei、Vilory、Zhongyuan New Materials、Ningbo Zhongyuan、AVIC Maiteなどが名を連ねる。欧米の展示会にはほぼ登場しない中国系粉末サプライヤーと直接対話できる機会として、調達担当者には見逃せないセクションだ。
Hall 8.1:ポリマー・AIツール・3Dスキャナーが交差する場
Hall 8.1はポリマーAMを軸に、AIツール、3Dスキャナー、材料サプライヤーまでが集まる複合ゾーンだ。今回のTCT Asiaでとりわけ注目しているのは、この領域の「広がり方」である。
プリンターメーカー
Bambu Lab デスクトップFDMの速度と品質に対する消費者の期待値をリセットしたブランド。TCT Asia 2026では新製品発表が期待される。また2026年1月30日にSCANTECHと消費者向け3Dスキャナーの共同開発協定を締結しており、より統合されたハードウェアエコシステムへの動きを示している。
BMF シングルデジットミクロン精度のマイクロスケール3Dプリンティングに特化した専門企業。医療機器、光学、マイクロエレクトロニクスという、ほとんどのAM企業が参入していない領域を占有しており、中国AMが精度の階段を上っていることを示す最もわかりやすい事例の一つだ。
PollyPolymer HALS(ヒンダードアミン系光安定剤)技術とフットウェア・ロボティクス向け用途を組み合わせた異色の出展企業。高度なポリマー化学とウェアラブル・ロボット向けエンドユースの交差点は、見落とされやすいが理解する価値のあるニッチだ。
Raise3D EV生産ラインへの導入実績を持つ産業用FDMの信頼されるブランド。2025年にRAPID+TCT Detroitで初のSLSシステムRMS220を発表し、TCT Asia 2025でも展示。ビルドボリューム220×220×350mm、PA12使用で1日最大5kgの出力が可能。FFF・DLP・SLSにまたがるマルチテクノロジー戦略にコミットしている。
Snapmaker 3Dプリンティング、レーザー彫刻、CNCを統合したマルチファンクション機プラットフォームで、忠実なユーザーベースを構築している。TCT Asiaへのリピート出展企業であり、新モデルの発表に注目したい。
AIツール — AMの展示フロアに3Dモデル生成が登場
TCT Asia 2026における最も注目すべき展開の一つが、AIを活用した3Dモデル生成プラットフォームの出展だ。Hall 8.1に出展する2社、Meshy AI と Tripo AI がこの変化を象徴している。
Meshy AI はシリコンバレー発のプラットフォームで、テキストや画像の入力から数分以内に高品質な3Dモデルを生成できる。ユーザー数は600万人を超え、生成モデル数は4,000万件以上に達する。MIT博士号を持ちTaichi GPU言語の開発者として知られるEthan Hu氏がCEOを務め、CES 2026ではAI Creative Labを発表。AIで生成した3Dデザインをワンクリックで印刷可能なファイルに変換するエンドツーエンドのプラットフォームだ。3Dプリンティングコミュニティは同社最大のユーザー層であり、物理製造を「コア戦略の柱」と位置づけている。Tech Stage(3月19日)での発表も予定されている。
Tripo AI は2023年創業、香港を拠点とする。プラットフォームのTripo Studioはテキスト→3D・画像→3D生成、AIテクスチャリング、自動リギングを一つのワークフローに統合している。Tripo 3.0のロールアウト以降、400万人以上のクリエイター、35,000人以上のデベロッパー、700社以上の企業顧客が利用。Bambu Lab、Tencent、HTC、Replitもユーザーに名を連ねる。Stability AIとの共同開発によるTripoSRを含む18件以上のオープンソースプロジェクトも公開している。
この2社の出展は、業界が注目すべき変化を示している。AMワークフローの上流の入口が変わりつつあるのだ。AMユーザーはCADの専門知識を持つことが前提とされてきた。その前提が崩れようとしている。テキストプロンプトや写真から誰でも3Dモデルを生成できるなら、「誰が」「何のために」AMを使うかという問いは、はるかに広い射程を持つことになる。
3Dスキャナー、 TCT Asiaで存在感を増すカテゴリー
3Dスキャニングは、TCT Asia 2026において独立したカテゴリーとして確立されつつある。アジアの製造業全体でリバースエンジニアリング、品質検査、デジタルアーカイブへの需要が拡大していることが背景だ。
Shining3D は工業用3Dスキャナーの中国トップブランドとして、Hall 8.1の幅広いラインナップを引き下げて出展する。
SCANTECH は2026年1月30日にBambu Labと消費者向け3Dスキャナーの共同開発協定を締結した。確立された産業用スキャニングの技術力を、スキャニング技術のユーザー層を大幅に拡大する可能性を持つパートナーシップに持ち込む形だ。
知象光電(Zhi Xiang Optoelectronics) は高精度光学3D計測に特化している。
Revopoint は西安・深圳に拠点を持つ中国系3Dスキャナーブランドで、150カ国以上のユーザーにサービスを提供している。2025年には、マルチラインブルーレーザーで精度0.01mmのMetroY・MetroY Pro、マーカー不要の細部産業スキャニングを実現するTrackkitなど5製品を発売。TCT Asiaへのリピート出展となり、ブース8F50に出展する。
材料(参考)
Polymaker はエンジニアリングフィラメントのグローバル基準として認知されており、Hall 8.1の材料セクションの核となる存在だ。フランス系特殊ポリマー大手 Arkema は、欧州の材料視点をほぼ中国勢一色のホールに持ち込む。多くの地域展示会には存在しない直接比較の機会だ。eSUN と中国最大の化学材料メーカー Wanhua Chemical が、汎用から特殊ポリマーまでの幅広い材料ニーズを補完する。
AM Insight Asia の視点
TCT Asia 2026のフロアが際立っているのは、規模だけではない。その構造にある。欧米のグローバル企業と中国のメーカーが、文字通り同じフロアに並んで立つ。Materialiseのソフトウェアエンジニアと、BLTのセールスエンジニアに同じ質問を投げかけ、その答えを比べることができる。Polymakerの材料担当者とWanhua Chemicalの担当者が同じ通路の両側に立つ。この構図はオンラインでは再現できない。
今回のフロアでとりわけ注目しているのはAIツール企業の出展だ。Meshy AIとTripo AIの登場は、AM業界の「入口」が変わりつつあることを示している。CADの専門知識がなくても3Dモデルを生成できる世界は、AM業界が従来想定してきたユーザー像を根本から問い直す。ハードウェアが進化を続ける一方で、形状を生み出す起点そのものが変わろうとしている。
そして、もう一つの問いがある。欧米のプレイヤーはアジア市場をどう攻略するつもりなのか。一方、中国企業は先行するグローバルプレイヤーにどう立ち向かうつもりなのか。これらはプレスリリースを読んでも、製品動画を見ても答えは出ない。フロアで、当事者と直接話すことでしか答えられない問いだ。それがTCT Asia 2026に足を運ぶ理由であり、率直に言えば、それを考えるだけでも十分に興奮する。
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