LEAP 71とSindan、AI設計から量産までの一貫体制をUAEで構築

5月 5, 2026

Autonomous AI design meets integrated AM production. LEAP 71 and Sindan redefine aerospace development in the UAE.

個別検証フェーズを終え、航空宇宙開発の統合環境構築へ

2026年5月4日、アブダビで開催中の「Make it in the Emirates」展示会において、LEAP 71とSindanは戦略的提携を発表した。AI設計と金属積層造形を組み合わせた航空宇宙推進システムの共同開発・製造を目的とするこの提携は、LEAP 71がこれまで積み上げてきた個別の技術検証を超え、AI航空宇宙製造の統合環境を初めて確立するものだ。

LEAP 71とNoyronが変える設計プロセス

LEAP 71は2023年、航空宇宙エンジニアのJosefine LissnerとシリアルアントレプレナーのLin Kayserの二人が創業した。前身のHyperganic社でコードベース設計によるロケットエンジン開発に取り組む中で、「エンジニアリングそのものをコードで加速できる」という確信を得たことが出発点だ。UAEの政策に誘致されたわけではなく、ヨーロッパの規制や官僚主義から離れ「アイデアが生まれたらすぐ作る」という文化を求めて二人が主体的にドバイを選んだ。

LEAP 71の創業思想とUAEが国家戦略として掲げる「AI×先進製造業×宇宙主権」の一致は本物だ。しかしその一致は、創業の結果として生まれたものであり、政策が先にあったわけではない。

LEAP 71の中核はNoyronと呼ばれる独自モデルだ。Noyronは物理法則、工学的ロジック、製造上の制約をシステムに落とし込み、人間の介入なしに製造可能な設計を自律的に生成する。従来の航空宇宙エンジン開発では、設計から試作、検証、修正までのサイクルに数年を要することが常だった。Noyronはこのプロセスを根本から変える。同社はこれまで複数アーキテクチャの液体推進ロケットエンジンを数週間以内に設計からホットファイアテストまで完了しており、液体メタンエンジンでは20kN超の推力を達成している。設計変更も数分以内に新たなバリアントを生成できる。

なお、この全ての成果を生み出しているLEAP 71の従業員は創業者二人だけだ。チームを拡大する予定もないという。成長はアルゴリズムとコンピュートのスケールによって実現するという思想を貫いている。

この実績を積み上げる過程でLEAP 71は、Nikon SLM Solutions(ドイツ)との2,000kNエンジンインジェクターヘッドの製造検証、Farsoon(中国)との1.5メートル級極超音速プリクーラーの製造、HBD(中国)との200kNエアロスパイクエンジンの製造など、世界各地の大型金属AM機メーカーと連携しながら技術の幅を広げてきた。いずれも「Noyronが設計し、相手のマシンで製造する」という形式の、技術検証としての提携だった。

Sindanが持つ統合製造プラットフォーム

Sindanはアブダビを拠点とするAI駆動型先進製造企業で、単なるAMサービス企業とは性格が異なる。金属AM機(DMLS)40台以上、ポリマー製造システム300台以上、精密CNC加工に加え、独自の産業AI基盤「Sindan World Model」を有する。これは設計、生産、自律化を一つのインテリジェントネットワークに統合するプラットフォームで、機械視覚、シミュレーション、予測AIを通じてデータを意思決定に変換し、製造環境全体を継続的に最適化する。

すなわちSindanは、部品を作るための設備を持つだけでなく、製造プロセス全体をAIで制御・最適化できる環境を持つ。Mubadala、Space42、Strata、Tawazunといった政府系・国防系機関との連携実績も持ち、UAEの国家製造インフラとして機能しつつある企業だ。Sindanの黄賀源CEOが「デジタル設計から量産へ直接移行できる」と述べる背景には、この統合されたインフラがある。

AI設計とAM製造が組み合わさると何が変わるか

これまでのLEAP 71の提携は分業モデルだった。Noyronが設計し、AM機メーカーが印刷し、ロケット企業が使う。各工程が別々の企業にまたがり、設計の変更が製造に反映されるまでに時間とコストがかかっていた。

今回の提携で変わるのは、この分断だ。NoyronがSindanの製造インフラと直結することで、設計の変更が即座に製造パラメータに反映される環境が生まれる。航空宇宙エンジン開発において最もコストと時間を要する「設計と製造の往復」が、一つの統合環境の中で完結する。

LEAP 71のJosefine Lissner CEOは「仕様から製造ハードウェアまでの迅速な道筋が可能になる」と述べている。対象となるのは空気吸入式ジェットエンジンおよび宇宙推進システムで、両社はUAEを次世代AI航空宇宙製造の拠点として確立することを目指す。

この提携が発表されたMake it in the Emiratesは、UAE産業・先端技術省が主催する国家産業戦略の旗艦イベントだ。2026年版は過去最大規模の88,000平方メートルに1,245社が出展し、AIと先進製造業の国内集積を推進するUAEの方向性を色濃く反映している。UAEはNational AI Strategy 2031のもと、宇宙バリューチェーン全体の国産化を目指しており、今回の提携はその方向性と軌を一にしている。

AM Insight Asia の視点

現場のエンジニアの立場からすれば、「全てをAIが設計する」というコンセプトは、一見ナンセンスに映るかもしれない。それほど設計の現場は複雑だ。優れた設計を生み出すことと、それを物理的に製造できることは、全く別の問題だからである。航空宇宙エンジンのような高精度部品では特に、「設計上は正しい」ものが「製造上は不可能」であるケースが頻繁に起きる。設計と製造の間のギャップを埋めるために、業界は長年にわたって膨大な試作と修正を繰り返してきた。

Noyronが理論上優れているのは、この問題に正面から向き合っている点だ。物理法則と製造上の制約を最初から設計プロセスに組み込むことで、「作れない設計」を原理的に排除しようとしている。さらに今回Sindanの製造インフラと直結することで、Sindanの設備で確実に製造できる設計がNoyronから直接出力される環境が生まれる。

もっとも、理論と現実の間には常に距離がある。航空宇宙推進系の開発において、AIが生成した設計が実際の製造・試験・認証のプロセスをどこまで乗り越えられるか、現時点では未知数の部分も多い。

しかしもう一点、この提携が示す意味は大きい。LEAP 71の従業員は創業者二人だけだ。巨大な航空宇宙企業が何百人ものエンジニアと数年をかけて取り組むロケットエンジン開発を、二人がNoyronを武器に数週間で完結させている。AIと積層造形の組み合わせは、革新を大企業や国家機関だけのものではなくした。強大な資本や組織がなくても、正しいツールと思想があれば世界最高水準の航空宇宙開発に挑める。LEAP 71はその可能性を体現している。

従来のものづくりが抱えてきた「設計と製造の分断」という根本的な課題に対し、この提携は一つの新しい解を提示している。意図的な戦略の結果であれ、思想と環境の偶然の一致であれ、UAEはその転換が形になりつつある場所だ。AI設計と金属積層造形が統合された航空宇宙開発の次のかたちが、ここから始まるかもしれない。AMIAは注目して追っていく。