Original

吉村建設工業、日本のインフラ危機に挑む:総延長273m

1月 1, 2026

Aerial view of 273m 3D printed infrastructure project by Yoshimura Construction Industry

平均年齢24歳のチームが、地震大国・日本の建設現場を再定義する

京都市西京区での道路改良工事において、建設用3Dプリンティングが実現した。地震大国ならではの厳格な品質基準のもと、平均年齢24歳のチームが、熟練技能者の育成モデルからの転換を示した。

日本のインフラ労働力不足:型枠工の危機

建設用3Dプリンターと聞くと、海外で話題になった3Dプリント住宅を思い浮かべる人が多い。しかし、日本の建設業界が直面している本当の危機は別のところにある。インフラ整備における深刻な人手不足だ。

特に型枠工の減少は著しく、業界関係者は「10年後にはほとんどいなくなるかもしれない」と語る。道路擁壁や排水施設といった社会インフラを支える構造物は、熟練した型枠工の技術に依存してきた。その技術を継承する時間は、もはや残されていない。

2025年11月6〜7日、京都市西京区大原野岩見町の道路改良工事現場で披露された吉村建設工業の取り組みは、この危機への一つの答えを示している。建設用3Dプリンターを使い、総延長273mのコンクリート構造物を製造・構築した日本最大規模の事例だ。

建設3Dプリンティングと日本の厳格な品質基準

日本のインフラ建設は、世界的に見ても高い信頼性を誇る。地震大国という宿命が、国土交通省による厳格な管理・基準を生み出してきたからだ。新工法・新技術の導入ハードルは極めて高い。

2025年8月に土木学会が公表した「建設用3Dプリント埋設型枠を用いたコンクリート構造物の技術指針(案)」は、日本の厳格な品質基準の枠組みの中で、3Dプリンティング技術に初めて公式な位置づけを与えた。今回使用されたPolyuseの技術は、国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)に登録されている。NETISは革新的な建設技術を評価・普及促進する政府データベースだ。NETIS内での評価は、2023年の「登録」から2024年の「活用促進技術」、そして2025年の「推奨技術」へと段階的に引き上げられてきた。

プロジェクト概要

  • 工事名: (総合評価)3・3・5 中山石見線道路改築(その 22)工事
  • 発注者: 京都市建設局道路建設部道路建設課
  • 吉村建設工業株式会社
  • 工期: 2024 年 8 月 21 日〜2026 年 2 月 21 日

3D プリンター適用箇所:

  • 重力式擁壁:106.7m + 9.2m = 115.9m
  • 笠コンクリート:157.3m
  • 集水桝:複数基
  • 合計:273m 超
Project site map
工事現場の平面図 | 写真:吉村建設工業

Polyuseの建設3Dプリンティング:国内外1,000件超のプロジェクト

本プロジェクトで使用した3Dプリンターを製造するPolyuseは、創業からわずか6年足らずで目覚ましい成長を遂げた。現在、従業員約50名で週1台ペースで納品し、2026年秋まで予約が埋まっている。


さらに注目すべきは、公共工事活用での高い工事品質や確かな施工効果が認められ始めており、施工中および施工協議中の案件を合わせると、既に1000 箇所以上のプロジェクトが進行中という事実だ。これは単なる試験的導入ではなく、技術が実用段階に入った証拠だ。住宅用というわかりやすい入口ではなく、インフラ・土木に特化した同社の戦略が、日本の建設業界が本当に必要としている解決策を提供している。

Polyuse One 3D printer
Polyuse One 3Dプリンター | 写真:吉村建設工業

業界連携:建設3Dプリンティング普及の先駆者たち

革新的な技術が実用化されるには、優れた機械を開発するだけでは不十分だ。それを受け入れる側の存在が不可欠だ。いかに優れた技術でも、使う側がためらえば普及しない。

吉村建設工業:二人三脚のパートナー

吉村建設工業は、Polyuse創業以来、二人三脚で技術開発に取り組んできた。

  • 2020年7月: 集水桝のデモ施工(日本初)
  • 2021年9月: 有孔ブロック製造 〜 京都・桂大宮十条(日本初の発注施工での活用)
  • 2022年7月: 国道24号での歩車境界ブロックの現場プリント(公共工事で日本初)。従来4日かかる施工を1日で完了、養生期間の立ち入り制限も不要にし、交通規制改善に繋がった
  • 2022年11月: 伏見西部第5工区での重力式擁壁中空型枠・埋設型枠のテスト
  • 2023年11月: 有孔ブロック製造 〜 滋賀県草津市
  • 2025年3月:建築外構部材への展開(京都中央信用金庫三条支店)

5年間にわたり技術を体系的に検証し、課題を洗い出し、改善を重ねてきた積み重ねが、この273mの大規模実証を可能にした。

115.9m gravity retaining wall
115.9mの重力式擁壁 | 写真:吉村建設工業

デジタルトランスフォーメーション:CIM・AR・ICTの統合

吉村建設工業のイノベーションは3Dプリンターにとどまらない。複数の先進技術を組み合わせ、建設現場のDXを推進している。

CIM統合ワークフロー

SiTE-STRUCTURE、SiTECH 3D、SiTE-Scope、SiTE-NEXUSを統合活用。2D図面を3D化し、干渉チェックを行い、CIMモデルから3DプリンターのSTLデータを直接生成。設計変更への対応が迅速化し、手戻りが大幅に削減された。

AR(拡張現実)施工管理

タブレットやARグラスで3Dモデルを実際の現場に重ね合わせ、設置位置の事前確認、施工精度のリアルタイムチェック、完成イメージの共有が可能になり、若手作業員でも高精度な施工が実現できる。

ICT建設機械による無人施工

D設計データと連動したICT建設機械を使用し、高精度な掘削・盛土を実現。従来の仮設測量杭が不要になり、作業効率が向上した。

Starlink衛星通信の導入

遠隔地の現場では当初、建設現場向けモバイル回線(月額80,000円・150GB)を使用していたが、クラウドソフトウェアやCIMデータ転送で容量不足が発生。Starlinkに切り替えたことで、月額15,600円に削減しながら通信速度を約9倍(ダウンロード14.2Mbps→125Mbps)に向上。災害時の通信手段としても期待できる。

Sat-Office Lite:働き方改革の実践

小規模工事では現場事務所を設置できないという課題に対し、HAKUSAN WORKSと共同で移動式オフィス車両を開発。折りたたみデスク、準固体電池(3,072Wh)、ソーラーパネル(300W)、Starlink Mini、ポータブルエアコン、冷蔵庫を装備。現場作業後すぐに車内で事務作業が可能になり、本社への往復時間を1〜2時間削減した。

これらの技術導入は、単なるトレンド追随ではない。人手不足、作業効率、通信環境、働き方改革という現場の課題に真摯に向き合った結果だ。新技術を受け入れる柔軟性と、現場で使いこなす実行力が、同社の競争力の源泉だ。

Sat-Office Lite interior
Sat-Office Liteの内部 | 写真:吉村建設工業

発注者の勇気

今回のプロジェクトで3Dプリンター活用を評価項目(総合評価方式)に盛り込んだ京都市、2022年の川端十条地区共同溝工事での活用を承認した国土交通省近畿地方整備局。これらは行政側の「挑戦」の表れだ。

公共工事において実績の少ない新技術を採用することは、リスクを伴う可能性が存在する。品質不良、工期遅延、予算超過のいずれも、行政責任に直結しかねない。

全ステークホルダーがファーストペンギンとして

このイノベーションは、単独のプレイヤーでは実現できなかった。

  • Polyuse: 創業6年で国内外1,000件超のプロジェクトを展開する技術開発者
  • 吉村建設工業: 5年間体系的に実績を積み上げ、CIM・ICT・衛星通信を統合した実践者
  • 国土交通省・京都市: 公共工事で新技術採用の勇気を持った発注者
  • 土木学会: 新技術に公式な位置づけを与えた標準化推進者

優れた機械が開発されても、受け入れる側がためらえば普及しない。この相互作用が日本の建設業界のイノベーション速度を決める。

若い人材:建設3Dプリンティングが実現する迅速なスキル習得

現場で実際に作業する吉村建設工業のチーム平均年齢は24歳だ。

従来の型枠工が一人前になるには10年以上の訓練が必要だった。複雑な形状の型枠を組み立てるには、木材の特性理解、構造力学の感覚習得、そして先輩職人の技を見て盗む長い時間が必要だった。

3Dプリンティング工法はこの構造を根本から変える。大学卒業後、数年で現場の戦力になれる。CADデータ作成、スライシングソフト操作、プリンター制御、モルタル充填——これらは従来の職人技とは異なるスキルセットであり、デジタルネイティブ世代には実際に習得しやすい。

従来の育成コストがほぼ不要になることの意味は、人手不足に直面する建設業界にとって革命的だ。

Team averaging 24 years old
平均年齢24歳のチーム | 写真:吉村建設工業

建設3Dプリンティング vs 従来工法:工数・工期の削減

本プロジェクトでは「ニアサイト(近接地製造)」方式を採用した。中空状態で3Dプリントした部材を設置後、安全な盛土内側からモルタルを充填する方式で、足場・型枠が完全に不要になった。

削減効果のまとめ

構造物従来工法 (人工)3DP(人工)削減率
重力式擁壁 106.7m1617553%
カルバート上擁壁 9.2m19.2764%
笠コンクリート 157.3m2047165%
構造物従来工法 (日数)3DP(日数)削減率
重力式擁壁 106.7m68.2518.7573%
カルバート上擁壁 9.2m11.81.7585%
笠コンクリート 157.3m5817.7569%

全体では、工数は平均60%削減、工期は平均75%削減となった。

最も注目すべきは、型枠工がゼロになったことだ。従来工法では重力式擁壁で47.6人工、笠コンクリートで36.5人工、合計84.1人工の型枠工が必要だったが、3Dプリンティング工法では0人工を実現。10年後にはほぼいなくなるとされる型枠工に依存しない建設体制が、ここに実現した。

足場工も同様に完全不要となり、最も人材確保が困難な職種を省くことができた。

Inspecting capping concrete
笠コンクリートの検査 | 写真:吉村建設工業
Installing retaining wall
擁壁の設置作業 | 写真:吉村建設工業

材料の制約:建設3Dプリンティングにおけるモルタルとコンクリート

厳密に言えば、使用するのはコンクリートではなくモルタルだ。コンクリートに入る砂利(骨材)は、現在の3Dプリンターのノズルを詰まらせるため、使用が推奨されていないのが国際的に一般的だ。

これは技術的な制約だが、土木学会の技術指針が性能評価型の基準を採用したことで、材料配合の最適化に向けた技術開発の余地が残されている。

3D printing in progress
3Dプリンティング施工中 | 写真:吉村建設工業

建設3Dプリンティングが日本のインフラ産業に与えるインパクト

標準化と制度化

土木学会の技術指針(2025 年 8 月)により、現場ごとに異なっていた品質基準が統 一され、発注者が設計基準・積算基準を作成する際の拠り所ができた。国土交通省も2025 年度の新技術導入促進計画に「コンクリート構造物の3Dプリンティング技術」を追加している。

第三の選択肢としての位置づけ

吉村建設工業は3Dプリンティングを、プレキャストと現場打ちの「中間を埋める技術」として位置づけている

  • プレキャスト:大量×単純形状
  • 現場打ち:少量×単純形状
  • 3Dプリンティング:少量×複雑形状

「非定型×短工期×高精度」が求められる用途、例えば夜間しか施工できない鉄道・道路近接工事への適用が期待される。

日本のインフラにおける建設3Dプリンティングの未来

型枠工が10年後にほぼいなくなるという予測が現実になれば、日本のインフラ整備は深刻な危機を迎える。従来の技能継承モデルに頼っている時間はない。

吉村建設工業の273m実証プロジェクトは、3Dプリンティング技術が実用スケールでインフラ整備に貢献できることを示した。平均年齢24歳のチームが最前線で活躍し、工数60%削減、工期75%削減、型枠工ゼロ、これらの数字は、育成コストの劇的な削減と若手人材の早期戦力化を実証している。

同社の先進性は3Dプリンターだけにとどまらない。CIM・AR施工管理・ICT建設機械・Starlink衛星通信・移動式オフィスを統合することで、建設現場のDXを実現している。デジタルネイティブ世代が活躍できる環境づくりが、人手不足への根本的な解決策となる。

Polyuseの状況も、緊迫した市場ニーズを物語っている。創業6年で1,000件超のプロジェクト進行、
2026年秋までPolyuse Oneモデルは予約済み、技術が市場に受け入れられ急速に拡大していることの証拠だ。

しかし技術だけで変革は起きない。Polyuseが優れた機械を開発し、吉村建設工業が実践的な検証を積み重ね、発注者が採用を決断し、学術団体が標準化を推進する。この相互作用が日本の建設業界のイノベーションを加速させる。

優れた機械が開発されても、受け入れる側がためらえば普及しない。技術開発と市場受容は車の両輪だ。すべてのステークホルダーがファーストペンギンとして機能して初めて、イノベーションが業界全体に広がる。

2035年、型枠工がほぼいなくなったとき、日本のインフラ整備はどうなっているか。吉村建設工業の実証プロジェクトは、デジタル技術によって職人技を再定義しようとする試みが、日本のインフラを守る現実的な選択肢であることを示している。

しかし、これは完成ではない。吉村建設工業、Polyuse双方のプロジェクト担当者は語る。「まだ多くの課題がある。現場によって状況はさまざまで、そのたびに新たな発見と学びがある。技術は日々進化しているが、それを使いこなすための試行錯誤は続いている」と。

技術的な土台は整った。受け入れる土壌も形成されつつある。しかし、本当の戦いはここからだ。現場での実践を積み重ね、課題を一つひとつ乗り越え、知識を蓄積していく。この地道なプロセスが、技術の真の普及を支える。今必要なのは、継続的な実践と学習、そして業界全体での知識の共有だ。

Left: Mr. Yoshimura (Yoshimura Construction Industry), Right: Mr. Ooka (Polyuse)
左:吉村氏(吉村建設工業)、右:大岡氏(Polyuse) | 写真:吉村建設工業