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堀内雄登の世界観:RepRap世代が描く3D Printingの未来

1月 1, 2026

Yuto Horiuchi's Vision: The Future of 3D Printing as Seen by the RepRap Generation

2025年5月24-25日、日本の東京で開催されたJapan RepRap Festival(JRRF)2025には、2日間で約1,500人が来場した。44の企業ブースと59の個人ブースが並び、30社以上のスポンサーがイベントを支えた。驚くべきは、これが「個人主催」のイベントであり、準備期間はわずか3ヶ月だったということだ。

主催者は堀内雄登氏、29歳。職業は外資系製造業に勤務する普通のサラリーマン。3Dプリンターは「趣味」だと語る。その「趣味」の規模は尋常ではない—自宅には20台以上の3Dプリンターが稼働している。なぜ彼は、個人でこれほどの規模のイベントを作ったのか。その背景には、RepRap世代が共有する独特の世界観と、業務用Additive Manufacturing(AM)業界が見落としている重要な視点がある。

「やりたかったからやった」:個人主催の覚悟

堀内氏がJRRFを立ち上げたきっかけは、シンプルだ。「やりたかったから、やった」。しかし、その裏には大きな不安もあった。

「正直、怖かったです。『もし誰も来なかったらどうしよう』って。でも、やりたかったんです」

2月末に構想を固め、5月末の開催まで3ヶ月。通常、この規模のイベントは半年から1年の準備期間が必要とされる。資金調達、会場確保、スポンサー交渉、出展者募集、広報—すべてを個人で走りながら進めた。

リスクは大きかった。会場費だけで数百万円規模の負担が発生する可能性があった。スポンサーが集まらなければ、個人の負債となる。それでも、堀内氏は前に進んだ。 結果は、1,500人の来場者、30社以上のスポンサー、100を超えるブース出展。日本のRepRapコミュニティが、確かに存在することを証明した。

The crowded venue at JRRF 2025, which attracted 1,500 visitors over two days in Tokyo
2日間で1,500人が訪れた、東京・JRRF 2025の賑わう会場 | Photo: AM Insight Asia

文化の橋渡し:自作機からBambu Labまで

JRRFの名前には「RepRap」が入っているが、イベントの性格は単なる「自作3Dプリンター愛好家の集まり」ではない。むしろ、RepRap文化と現代のコンシューマー向け3D printingを橋渡しする場として設計されている。

RepRapとは、2005年にイギリスのAdrian Bowyer博士が始めた「自己複製可能な3Dプリンター」のオープンソースプロジェクトだ。その思想は、知識とツールを民主化し、誰もが自由に改良・共有できる世界を目指すものだった。堀内氏もこの文化の中で育ってきた。

しかし、堀内氏は意図的に「ハードコアな自作機マニアだけのイベント」にはしなかった。Bambu LabやCrealityといった既製品ユーザーも歓迎し、実際に多数来場した。アンケートでは、使用機種の上位にBambu Lab、Crealityが並ぶ一方、DIY機(Voron、Ratrigなど)も根強い人気を保っている。堀内氏は意図的に、「自作3Dプリンターだけのハードコアなイベント」ではなく、新しいユーザーも含めた広い層を対象にした。

「自作機に本当にこだわるわけではない。まずは3Dプリンターの世界を楽しんでもらう。そこから自作機に興味を持ってもらえれば、それはそれでいい。知ってもらえるだけでもいい」 象徴的なのは、子供の入場を無料にしたことだ。「次の世代の人たちには、無料で見て欲しかった」。10年後、20年後を見据えた投資である。

ムーブメントを作るコンシューマーメーカー

JRRF 2025を可能にしたのは、堀内氏の個人的努力だけではない。背景には、コンシューマー系3Dプリンターメーカーが築いてきた「ムーブメント」がある。

Bambu Labの台頭は象徴的だ。2022年の市場参入以来、X(旧Twitter)を中心に爆発的に話題が広がり、「新しく3Dプリンターに入ってきた人、それをきっかけで戻ってきた人」を大量に生み出した。JRRFのアンケートでも、情報収集手段としてX(Twitter)が圧倒的1位(70%超と推定)、次いで口コミが2位という結果が出ている。

「日本のアクティブユーザー数は、アメリカに次いで世界2位。X(Twitter)に力を入れるのは、マーケティングで悩んでいる企業にとって良い選択肢だと思います」と堀内氏は指摘する。

Prusa Researchの創業者Josef Prusa自身がRepRapコミュニティ出身であり、毎年チェコでPrusa Festを開催している。Crealityは低価格Ender 3で市場を民主化し、改造文化を許容・推奨してきた。これらのメーカーは「製品を売る」前に「コミュニティを育てる」戦略をとってきた。

対照的に、業務用AMメーカーの多くは、ROI計算書を配り、「生産性向上」「コスト削減」を訴求する。LinkedInで情報発信するが、日本ではほとんど機能しない。メーカー主導の一方通行なコミュニケーションが中心で、ユーザーコミュニティの育成、失敗事例の共有、オープンな議論の場は限られている。 「守秘義務があるから」「業務用だから」という言い訳は、本当に障壁なのか。それとも、コミュニティエンゲージメントから逃げる口実なのか。

若い世代が見ている世界と業務用AMの乖離

JRRFの来場者属性は興味深い。アンケート回答者の最多層は「会社員」だった。趣味のイベントだが、製造業従事者も多数含まれる。つまり、彼らは潜在的なB2B顧客でもある。

さらに重要なのは、小中学生を含む若い世代の存在だ。会場では、子供たちが真剣に自作3Dプリンターの仕組みを見つめ、「なぜこの部品が必要なの?」と質問を投げかけていた。日本でも文部科学省主導でSTEAM教育が推進される中、JRRFは教科書的な学習を超えた「生きた技術教育」の場となっていた。

しかし、堀内氏は危機感も抱いている。「STEAM教育を指導できる人材が圧倒的に不足している。プログラミング、3DCAD、3Dプリンターを使ったことがない学校の先生がほとんど」。愛好家コミュニティの知識と経験を、教育現場に適切に伝達する仕組みは、まだ確立されていない。

Yuto Horiuchi discussing the challenges facing STEAM education in Japan
STEAM教育が日本で直面する課題について語る堀内雄斗 | Photo: AM Insight Asia

10年後、20年後に業務用AMを導入・運用するのは誰か。今、JRRFに来ている若い世代ではないのか。彼らは、X(Twitter)で情報を集め、失敗を共有し、コミュニティで学ぶ文化の中で育っている。業務用AM業界は、この世代が見ている世界を理解する準備ができているだろうか。

RepRap世代が見る未来

堀内氏は2025年9月末、アメリカで開催された3DPrintopia(旧East Coast RepRap Festival)に参加し、JRRFの経験を共有した。海外のXアカウントでも、日本でのRepRapイベント開催が話題になっている。彼は、国際的なRepRapコミュニティの一員として行動している。

2026年5月30-31日、JRRF 2026の開催が検討されている。堀内氏は会場選びでも、「出展者が車で物品を運べる」「お財布に優しい」場所を重視する。ビッグサイトのような大型施設は「まだ早い」。コミュニティの持続可能性を第一に考えている。

「日本版のAMUGがあってもいいかもしれない」と堀内氏は語る。AMUG(Additive Manufacturing Users Group)は、米国で毎年開催される「For Users, By Users」を掲げるユーザー主導のイベントだ。業務用AMの先進的なアプリケーションについて、企業の枠を超えて深い議論が行われる。

堀内氏が見ている「その先」は、おそらく彼自身も完全に言語化できていないかもしれない。しかし、その行動が示しているのは明確だ。

Culture over Commerce(文化が商業に先行する)
Community over Corporation(コミュニティが企業を駆動する)
Access over Profit(アクセシビリティが利益より重要)
Future over Present(10年後、20年後への投資)

RepRap世代が見ている3D printingの未来は、ROIや生産性向上だけではない。それは、知識が民主化され、失敗が共有され、次世代が自由に学べる世界だ。業務用AM業界が真に成長するためには、この世代が見ている未来を理解し、彼らとともに歩む覚悟が必要なのかもしれない。