沈陽自動化研究所がCF/PEEK引抜き成形+レーザー透過溶接の一気通貫プロセスを地上プロトタイプで確認
宇宙で構造物を「作る」研究は世界中で進んでいる。だが最大の未解決問題は「つなぐ」ことだった。接着剤は宇宙空間では大気がないため硬化しない。ボルトによる機械的締結は重量がかさみ、宇宙飛行士の手作業を必要とする。金属溶接は危険で、欠陥検出も難しい。中国科学院沈陽自動化研究所(SIA CAS)は、CF/PEEK(炭素繊維強化ポリエーテルエーテルケトン)の引抜き成形とレーザー透過溶接を組み合わせた軌道上建造向けの一気通貫プロセスを提案し、地上での縮小プロトタイプによって工程の成立性を確認した。成果は国際学術誌 Space: Science & Technology に掲載されている。
なぜ「接合」が軌道上建造の最大の壁なのか
宇宙で大型構造物を建造しようとする試みは、根本的な物理的制約から始まる。打ち上げロケットのフェアリングのサイズは限られており、数百メートルから数キロメートル規模の宇宙太陽光発電ステーションや超大口径アンテナを地上で作って打ち上げることは、現在の技術では不可能だ。
これが「軌道上建造」が注目される理由だ。折りたたんで打ち上げる必要がなく、ロケットのサイズ制約を受けない。宇宙空間で直接、部材の製造から接合、組立までを行う。
だが実際にやろうとすると、「接合」の問題が立ちはだかる。
国際宇宙ステーション(ISS)はこの問題の縮図だ。30回以上の打ち上げを経て、宇宙飛行士が船外活動(EVA)でトラスを手作業で組み立てた。時間がかかり、費用が高く、危険だった。これが現時点での「最先端」だ。
では接着剤で代替できないか。宇宙空間では大気がないため接着剤は硬化できず、使えない。金属溶接はどうか。1969年のSoyuz-6ミッション、1973年のSkylabでも試みられたが、欠陥検出が困難、溶接プロセスが危険、環境汚染のリスクという課題が残り、実用化には至っていない。ボルトによる機械的締結は信頼性はあるが、重量が大きく、自動化が難しい。
この問題に世界各所が取り組んでいる。NASAとAgile Ultrasonicsは熱可塑性複合材料の超音波溶接を宇宙環境向けに開発中だが、現時点では真空チャンバーでの地上試験段階だ。NASAのTDEA(熱可塑性材料宇宙探査応用開発)チームも2021年からCF/PEEK製トラスのロボット溶接を研究しているが、要素技術の段階にある。「システムとして動かす」ところまで持ってきたチームは、まだなかった。

SIA CASのアプローチ:引抜き成形+レーザー透過溶接
SIA CASが提案したのは、製造と接合を一つのシステムとして設計した技術だ。
製造側では、CF/PEEK熱可塑性プリプレグテープを原材料に、連続引抜き成形(pultrusion)によって中空の管状部材を製造する。研究チームは温度と引抜き速度が機械特性に与える影響を系統的に研究し、最適なプロセスパラメータを特定した。製造された複合管は高比強度、高剛性、高い環境適応性を持ち、宇宙空間での長期使用に適しているとしている。
接合側では、3Dプリントで製造した高透過性PEEKジョイントにレーザー透過溶接を組み合わせる。レーザー透過溶接は非接触で行われ、応力が均一にかかり、効率が高い。従来の接着剤接合(劣化しやすい)、機械的締結(重量が大きく信頼性に課題)の問題点を克服する方式として提案されている。溶接部は安定しており、宇宙構造物の荷重要件を満たすとしている。
なお、ここでいう「溶接」は従来の金属溶接とは異なる。金属溶接は高熱・火花・ガス発生を伴い宇宙環境では危険だが、レーザー透過溶接はPEEKという熱可塑性材料の特性を利用したプロセスで、非接触かつガス発生がない。「溶接できる材料」としてPEEKが選ばれた理由はここにある。
このアプローチの核心は、製造した管状部材をそのまま接合できる点にある。引抜き成形で作った部材と、3Dプリントで作ったジョイントを、レーザーで溶接する。工程が一気通貫で設計されており、宇宙空間でロボットが自動的に実行できる可能性を持つ。

地上プロトタイプで確認したこと、まだ残っていること
研究チームはこの技術を用いて、放物面アンテナトラスの縮小プロトタイプを製作した。材料の準備から、引抜き成形による管状部材の製造、レーザー透過溶接による接合、そして構造体としての組立まで、全工程を一気通貫で実施した。
これにより確認できたのは、工程の成立性とプロセスパラメータの有効性だ。「宇宙で大型構造物を自動組立する」という構想を、システムレベルで動かしてみせた。
一方で、まだ確認されていないことも明確にしておく必要がある。今回の試験は地上での縮小モデルだ。微小重力環境での挙動、宇宙放射線や熱サイクル(宇宙空間では軌道ごとに極端な温度変化がある)、原子状酸素への長期耐性は、今後の検証課題として残っている。実寸大の構造物での性能も未確認だ。
論文タイトル自体に”Proposes”(提案する)という言葉が使われている通り、これは実証段階ではなく、「検証された提案」の段階にある。だが「システムとして工程を通した」という事実は、個別要素の研究にとどまる他のアプローチとの差として評価できる。
AM Insight Asia の視点
この研究の技術的な選択を丁寧に見ると、一つの設計哲学が見えてくる。
PEEKは、単一の特性で最適化するなら宇宙構造材として自明な選択ではない。最も剛性が高い材料でも、最も軽い材料でもない。PEEKが持つのは、放射線耐性、広い温度域での熱安定性、化学的不活性、そして溶接できるという特性の組み合わせだ。管状部材として引抜き成形でき、ジョイントとして3Dプリントでき、レーザーで溶接できる。全工程を一つの材料系で完結させるという判断が、自動化を現実的なものにしている。
ここに、この研究が現在の宇宙製造研究の中で際立つ理由がある。NASAや欧州のプログラムは個別の接合技術の科学的な解明を着実に進めている。SIA CASは動くシステムを示すことを優先した。どちらのアプローチが間違っているわけではない。だが「個別技術の検証」と「システムとしてのエンドツーエンド実証」の間の距離こそ、宇宙製造の提案の多くが止まってきた場所だ。その距離を、中国の国立研究機関が要素研究を待たずに詰めてきた。この速度感は、技術の優劣とは別に注目すべき点だ。
論文が想定する応用先(宇宙太陽光発電、超大口径アンテナ、月面基地コンポーネント)は、中国の国家宇宙プログラムの現在の開発優先項目と一致している。これは学術的な演習として書かれた論文ではない。微小重力試験、放射線環境での性能評価、ロボット統合という次のステップがどのくらいの速度で続くか。それがこのシステムが研究室の外でどう扱われているかを示す指標になる。






