Meltio: K2戦車スノーパッドが示す軍事3Dプリントの未来

5月 12, 2026

Installing snow pads on tank tracks — 30 to 50 units per vehicle, under tight time constraints.

60%の軽量化。しかし数字の裏にある本質は、材料と設計の根本的な転換だ。

韓国のMeltioパートナー企業AM Solutionsが、K2ブラックパンサー主力戦車のスノーパッドを金属3Dプリントで60%軽量化することに成功した。数字だけ見れば、部品改良の話に見える。しかし軍事3Dプリントの文脈で読むと、この事例は材料効率・設計最適化・製造プロセスの転換という、より大きな可能性を示している。

K2ブラックパンサーのスノーパッドで何が起きたか

AM Solutionsは、航空宇宙・エネルギー・造船・防衛分野向けにモジュール型積層造形システムとソリューションを提供する韓国のMeltioパートナー企業だ。今回のプロジェクトはR&Dイニシアチブの一環として、軍のロジスティクスユニットと協力して実施された。K2ブラックパンサーの運用効率・人間工学・サステナビリティを大幅に改善することを目的としていた。

K2ブラックパンサーは韓国が誇る主力戦車だ。冬季の戦術行動では、通常装着されているゴム製パッドを金属製スノーパッドに交換する必要がある。凍結した路面でのグリップを確保するためだ。

問題は重量だった。従来のスノーパッドは1枚あたり約12kg。1両あたり30枚から50枚を装着する必要があり、兵士が限られた時間内にこれを交換する作業は、相当な身体的負担を伴っていた。過度な重量は戦車全体の運用効率にも影響していた。

AM SolutionsはMeltio M600(LW-DED:レーザーワイヤー指向性エネルギー堆積)を使用し、ハニカム構造で設計を最適化した新しいスノーパッドを製造した。結果、重量は10.74kgから4.26kgへ、60%の軽量化を達成した。素材はステンレス鋼316L。機械的特性は従来品と同等以上を維持しつつ、金型もツーリングも後処理も不要。1サイクルで3枚を同時造形できる。フィールド試験では燃費の約0.64%改善も確認されている。

さらに今回の設計では、世界各地のトレッドパターンや事例からインスパイアされた地形別性能向上も取り入れられた。凍結路面での運用に最適化された構造上の改良が施されている。

Original part (left) vs. honeycomb-optimized redesign (right).
従来品(左)とハニカム構造に最適化された再設計品(右)の比較。 | Image: Meltio

軍事3Dプリントが変える材料効率と設計の常識

見落とされがちだが、この事例で最も重要な点のひとつが材料効率だ。従来の切削加工でスノーパッドのような複雑形状を製造しようとすれば、大きなブロック材料から削り出すことになる。ハニカム構造のような複雑な形状になるほど、削りカスとして捨てられる材料は膨大になる。場合によっては使用する材料の大半が廃棄される。

LW-DEDでは材料利用率が最大99%に達する。必要な箇所にだけ材料を積層するため、廃棄される材料がほぼゼロになる。さらに今回は設計最適化によって部品自体が軽量化されたことで、そもそも使用する材料の量が減っている。軽量化と高い材料利用率が掛け算で効いている。

金型が不要という点も見逃せない。従来の製造では金型の製作に時間とコストがかかり、設計変更のたびに金型を作り直す必要があった。LW-DEDは金型不要で造形できるため、設計の反復・最適化サイクルが大幅に速くなる。試作から実用品までのリードタイムが短縮され、現場のニーズに応じた設計改良も現実的になる。

もうひとつ重要な点がある。破損した部品への対応だ。従来は破損すれば全とっかえが基本で、まだ使える部分まで廃棄することになっていた。LW-DEDは損傷箇所だけに材料を肉盛りして修復できる。全体を作り直す必要がなく、材料・コスト・時間のすべてで効率が上がる。

Three snow pads produced simultaneously in a single Meltio M600 print cycle. Layer lines are clearly visible.
Meltio M600で1サイクル同時造形された3枚のスノーパッド。積層痕が明確に確認できる。 | Photo: Meltio

AM Insight Asia の視点

この事例で注目すべきは、LW-DEDが「完成品を作るツール」にも「製造プロセスの起点」にもなりうる点だ。精度が求められない用途ではDED単体で完結できる。一方、軍事部品に求められる厳しい寸法精度や表面品質が必要な場合は、DEDで必要最小限の材料を使って近似形状(ニアネットシェイプ)まで造形し、その後切削で仕上げるというプロセスも考えられる。用途に応じて使い方を選べる柔軟性こそが、LW-DEDの本質的な強みだ。

ただしDEDで造形した部品は積層痕が残り、寸法精度にも限界がある。精度が求められる部品には後加工が必要になるケースもある。軍事部品の中にはその精度要求が特に厳しいものも多く、DEDだけで完結するケースと後加工が必要なケースを見極める知見の蓄積が重要だ。今後はDEDを起点としつつ、切削などと組み合わせたハイブリッドな運用が求められてくる場面も増えてくるかもしれない。

ここで見落とされがちな視点がある。補修とは必ずしも「完全に元通りに直す」ことを意味しない。戦場や演習地では、正規パーツが届くまでの時間を稼ぐだけでいいケースも多い。動かなくなった車両を後方まで自走させられれば十分、というシーンだ。そのような一時的な補修であれば、DEDで粗く肉盛りするだけで目的を果たせる。精度より速度が優先される場面では、DEDは最も即応性の高い手段になりうる。

つまり同じ1台のDEDシステムが、状況に応じて役割を変える。時間稼ぎの一時補修、恒久的な部品復元、そして新規部品の製造。その判断を現場が状況に応じてできるようになることが、DEDが軍事ロジスティクスにもたらす最も本質的な価値かもしれない。補給線への依存を減らすということは、現場の対応力を高めるということだ。

今回のK2戦車スノーパッドの事例は、その可能性の入口に過ぎない。K2はすでにポーランド、ペルー、モロッコをはじめ世界各国への輸出が進んでおり、導入国が増えるほど現地でのメンテナンス・補修需要も拡大する。DEDによる補修技術と教育ノウハウの提供は、そうした輸出先での重要な付加価値になりうる。さらにDEDで蓄積された補修・製造のノウハウは戦車にとどまらず、装甲車、輸送車両、拠点設営部材へと横展開でき、対応できる材料の幅だけターゲットも広がる。そのノウハウは陸から海・空へも転移可能だ。機種が変わっても、軍種が変わっても、DEDというインフラと補修ノウハウは生き続ける。

韓国海兵隊におけるMeltio導入の全体像については、別稿で詳しく取り上げている。