法人化、そしてメイカーコミュニティにまだ足りないもの
Japan RepRap Festival 2026が来週末、5月30日・31日に東京流通センターで開幕する。一般ブース113、協賛ブース50、合計163ブース。昨年の初開催から規模は倍以上になった。
しかし、JRRFの設立者である堀内雄登にとって、数字はほとんど本質ではない。開催直前の今、法人化の判断、思い通りにいかなかったこと、そしてこのコミュニティにまだ足りないものについて話を聞いた。
Japan RepRap Festivalが一般社団法人になった理由
2025年6月に開催された初回JRRFは、準備期間わずか3ヶ月で立ち上げたイベントだった。多くのボランティアのサポートを得ながら、2日間で1,500人を動員し、主催者も出展者も誰も予想していなかった大盛況となった。しかしその成功が、すぐに問題を浮かび上がらせた。
「個人で開催するには規模が大きくなりすぎました」と堀内は言う。「もう一つ理由があって、特定の一社が主催すると利害関係が生まれる。参加する企業としない企業が出てきてしまう。もう少し中立性を持たせたかった。」
解決策として選んだのが一般社団法人の設立だった。設立メンバーは堀内を含む4人。残り3人は会議室やビジネスプランから来た人たちではない。JRRF 2025の会場に手伝いとして現れ、Xでの長年のつながりの中でビジョンに賛同し、より深く関わることを選んだ人たちだ。
一般社団法人JRRF 設立・運営メンバー
| 名前 | 役割 | 背景 |
|---|---|---|
| 堀内 雄登 ( X: @YuTR0N ) | 代表 | 外資系製造業に勤める会社員。JRRFの設立者 |
| 中村 政輝 ( X: @kuromame2209 ) | 副代表 | 3DプリンターのEC事業を運営。個人向け販売から法人の導入サポートまで |
| 木村 優太郎 ( X: @eternalfriend17 ) | 運営 | IT企業のソフトウェアエンジニア兼フリーランスのロボティクスエンジニア |
| 佐藤 大亮 ( X: @Tiryoh ) | 運営 | ロボティクスソフトウェアエンジニア |
| Zoe Wang ( @Zoe8461 ) | 運営サポート | 3Dプリント愛好者。主に中国語担当 |
「考えや方向性に共感してくれた。それだけで十分でした」と堀内は言う。
法人化は新たな複雑さも連れてきた。この規模のイベントを運営するということは、一人でやっていた頃には存在しなかった問いに向き合うことでもある。来場者が会場で体調を崩したらどうするか。子供が展示物を壊したらどうするか。動かないクラウドファンディング用のプロトタイプの出展は、昨年から一貫して断ってきた。
「去年は準備が3ヶ月で初めてのことだらけで、足りない部分が結構ありました」と堀内は振り返る。「今年はそれを意識して動いてきたつもりですが、それでも気が回らないところが出てきている。人数が増えれば増えるほど、想定しなければならないシナリオが増えていく。」

大盛況だった昨年から、なぜさらに大規模にするのか
AMIAはこう問いかけた。昨年は大盛況だった。リスクも負担も大きくなる中で、あえてさらに規模を拡大する必要があったのか、と。
「もっと多くの人に3Dプリンターを知ってもらいたい、というのが本当に目指していることです」と堀内は答えた。「そのためには規模が必要で、存在感が必要で、そしてお金がかかる。想像以上に。」
AMIAも同じ感覚を持っていた。先日参加した日本ホビーショーで改めて感じたことだが、この界隈の外にいる人たちへの認知はまだほとんど届いていない。堀内もその場にいて、同じことを感じていた。
「会場を見回して、改めて思いました。3Dプリンターという言葉は知っていても、実際に動いているところを見たことがない、今の価格感を知らない、作ったものを見たことがない。この界隈の外にいる人たちには、そういうリアルが全く届いていないんです。まだ一部の人たちだけの世界なんです。」
規模を拡大する判断を動かしているのは数字でも収益でもない。この技術が持つ可能性が、最も恩恵を受けられるはずの人たちに届いていないという実感だ。そしてより多くの来場者が会場を訪れることは、出展者にとっての張り合いにもなる。作ったものを見てもらいたい、反応がほしい、という思いで出展している人たちにとって、来場者の数は直接的なモチベーションだ。規模を大きくすることは、来場者のためだけでなく、出展者のためでもある。
2026年におけるRepRapの解釈
JRRFはRepRapの名を冠している。その名には重みがある。RepRapムーブメントはオープンソースの精神、自己複製の思想、そして商業主義との距離感の上に成り立ってきた。そこに数十社の企業スポンサーを迎え入れることは、中立的な行為ではない。堀内もそれを分かっている。
「根幹にRepRapの精神はあります」と彼は言う。「でも3Dプリンターの面白さをより多くの人に知ってもらいたい。そのためには想像以上に費用がかかる。」
出展者の構成についても、堀内は現実的だ。3Dプリンティング業界には、知的財産をはじめさまざまな未解決の問題や課題がある。特に欧米企業と一部メーカーの間には、製品の類似性をめぐる長年の摩擦がある。それは表に出ている情報だけではなく、関係者しか知り得ない文脈も存在する問題だ。出展者リストが公開された際、SNSでの反応がそれを証明した。
「同じ企業が欧米の展示会にも出展しています」と堀内は指摘する。「RepRapという名前がついているからといって、JRRFだけが業界全体の基準を設けて排除を始めたら、キリがなくなります。」
方針はシンプルだ。できるだけ出展者を排除しない。ただし一点だけは譲らない。展示するマシンは実際に動くものでなければならない。動かないクラウドファンディング用のプロトタイプはNG。来場者が後で購入して使えなかった、という事態は避ける。
「来場者に不利益が出て欲しくない。それだけです」と堀内は言う。
RepRapの解釈については、他者の立場にも敬意を払う。「RepRap関係だけを集めたいと思う人がいれば、それはそれで自由だと思います。解釈は人それぞれでいい。」
展示会だけでは越えられない壁
より多くの人に知ってもらうために規模を拡大する。その方向性に異論はない。しかしAMIAはその裏側に潜むリスクを指摘した。展示会で知ってもらうことはできる。でもその先、実際に学ぶ場がまだ足りないのではないか、と。
「そう思います」と堀内は即答した。「3Dプリンターを見せることと、使い方を教えることは別の話です。ネットで調べろ、コミュニティに聞けというスタンスでは、本当の意味で広がらない。学びの部分を整備していきたいと思っています。」
AMIAはさらに問いを重ねた。BambuLabの登場以来、3Dプリンターはコアユーザーだけの機械から家電に近い存在になりつつある。使える人が増えることはいい。でも製造物責任法、著作権、ライセンス、食品衛生法の観点から使用が制限される素材など、作る側が知っておくべき責任の部分が追いついていないのではないか。
「全くその通りで、作る側の責任という部分が、垣根が下がったことで知らないまま進んでいく可能性が怖い」と堀内は言う。
使える人が増えることと、正しく使える人が増えることは、まったく別の話だ。普及を進めることと、責任を伝えることは、同時に考えなければならない問いだ。一般社団法人として組織的な基盤を持ったことで、堀内はこうした教育の部分にも今後取り組んでいきたいと考えている。イベントを開くだけでなく、メイカーコミュニティが正しく育つための土台を作ること。それがJRRFの次のステージかもしれない。
一方で、そもそも届けること自体がまだできていないという課題もある。JRRFはすでに3Dプリンティングに関心を持つ人々の間ではXで知られるようになった。しかし普通の人たち、家族、子供たちに届けることは、別次元の問いだ。
「休みを削って、各地のイベントに顔を出して、広告も少し使い始めました」と堀内は言う。「でも限界があります。この技術のことを一度も考えたことがない人たちに届く方法を、もっと真剣に考えないといけない。」

AM Insight Asia の視点
JRRF 2026の開催を目前に控え、AMIAと堀内はさまざまな視点から本音で語り合った。法人化の判断、RepRapの解釈や商業化のバランス、IP問題の複雑さ、教育の壁。JRRFに限らずグローバルな3Dプリンティングコミュニティ全体が向き合っている問いだ。どれも簡単に答えの出る話ではない。JRRFだけが判断するのではなく、一人一人が考えていかなければいけない話だ。
JRRFが成し遂げていることの価値は、数字だけでは語れない。準備期間3ヶ月で立ち上げ、主催者も出展者も予想しなかった大盛況を生んだ初回から一年。163ブースという規模で2回目を迎える。これはコミュニティの力が形になった結果だ。
しかし一般社団法人として組織的な基盤を持ったJRRFが、今後どこへ向かうのかはこれからの話だ。イベントを開くだけでなく、教育や責任の部分にも取り組んでいきたいという方向性は示されている。ただそれが実際にどう形になっていくのかは、まだ誰にも分からない。アジアの中で、これだけ急速に自己組織化しているメイカーコミュニティはそう多くない。AMIAはその動きを引き続きメディアの視点から応援していく。
Japan RepRap Festival 2026は5月30日に開幕する。ここからが本番だ。






