HyundaiとKiaのAMSC始動、彼らが見ているのは車の形をしたロボットだ

8月 21, 2026

A vat photopolymerization process fabricates a component by curing liquid resin layer by layer using light. | Photo: Hyundai

金型なき量産インフラが、進化の速いPhysical AI競争を支える

HyundaiとKiaは8月5日、南陽研究開発(R&D)センター内に両社初となる3Dプリント専用拠点、Additive Manufacturing Solution Center(AMSC)を公開した。1996年に産業用3Dプリンターを初めて導入してから約30年、金型に頼らず部品を作る技術は、ようやく専用の物理拠点を持つまでになった。

金型を介さない量産インフラ、AMSCの全貌

AMSCは、南陽R&Dセンター内に新設されたAdvanced Mobility Solutions棟に位置する。HyundaiとKiaにとって、積層造形(AM、いわゆる3Dプリント)の研究・生産に特化した初の専用施設だ。

同拠点は、ポリマー・金属の両分野で複数の造形方式を使い分けている。樹脂を光で硬化させるVat Photopolymerization(DLP、SLA)や、粉末を層状に融着するPolymer PBF、金属向けのMetal PBF、DED-WAAMなどだ。用途に応じて、寸法精度が求められる試作から、鋳造や機械加工では一体成形が難しい大型の金属構造部品まで幅広くカバーする。

A DED-WAAM (Directed Energy Deposition-Wire Arc Additive Manufacturing) system fabricates a metal component by depositing material layer by layer. | Photo: Hyundai
DED-WAAMシステムが、金属を層状に積層していく様子。 | Photo: Hyundai

装置の運用にとどまらず、AMSCは部品統合やラティス構造による軽量化など、積層造形に最適化した設計手法(DfAM)の確立も進めている。

造形した部品はすべて、品質検証工程「Quality Inspection Cell」を通過する。ここでは寸法測定・引張強度・曲げ剛性・衝撃耐性が、量産部品と同等の基準で検証される。社内での材料検証や金属組織分析もあわせて行われ、積層造形品が従来工法の部品と同じ品質基準を満たすことを担保する仕組みだ。

用途は車両開発全般に及ぶ。試作品や開発用部品、製造用治具、そして生産終了車種の補修部品や緊急交換部品など、従来の金型では対応しにくい領域を担う。ヘリテージ車両の復元もその一つで、Hyundai Ponyのサイドシル部品を3Dスキャンと逆解析で再現し、当時の表面仕上げまで再現した事例がある。

A component for the Hyundai Pony recreated through additive manufacturing using liquid resin photopolymerization technology. | Photo: Hyundai
液体樹脂光造形技術で復元された、Hyundai Pony向け部品。 | Photo: Hyundai

モータースポーツ分野でも、アンチロールバーブレードやダンパーブラケット、ブレーキダクトレールといった、軽量性と剛性を両立させる必要のある部品の製造に活用されている。あるモーターハウジングでは、WAAMで積層したままの状態と、その後CNC加工で仕上げた状態の両方が展示され、積層造形から後処理までの一連の工程を示していた。

A sample metal component after partial CNC machining, demonstrating post-processing of an additively manufactured part. | Photo: Hyundai
部分的にCNC加工を施した金属部品のサンプル。積層造形部品の後処理を示す。 | Photo: Hyundai

Additive Manufacturing Solutions Team シニアマネージャーのHanwoo On氏は「グループ全体で用途を拡大しながら、積層造形技術の内製化を急速に進めている。車両部品にとどまらず、設備消耗品や製造ツールといった高付加価値分野への活用も広げている」と述べている。

なお、この記事はHyundai Motor Groupが南陽R&Dセンターのデジタル基盤を紹介する4部構成シリーズの第3弾で、Driving Simulator、Digital Measuring Center、AMSC、NOVA Labの4拠点が紹介されている。

外部委託から自社インフラへ、30年越しの内製化

1996年の初導入から専用拠点の開設まで約30年を要したという事実は、Hyundaiの対応が遅かったことを意味しない。むしろ、積層造形が量産部品として認められるだけの品質保証体制を、技術・検証プロセスの両面でようやく確立できたことの表れだと読める。Quality Inspection Cellが担う寸法・強度・金属組織の検証は、まさに「印刷はできるが量産品として保証できるか」という積層造形の長年の課題に応える仕組みであり、この検証体制の確立こそが専用拠点開設の実質的な条件だったといえる。

もう一つの変化は、積層造形の位置づけそのものだ。AMSCが担うのは、単発の試作依頼のたびに外部の受託造形サービスへ発注する体制ではなく、設計・造形・後処理・検証までを自社内で完結させるインフラである。モータースポーツ部品や生産終了車種の補修部品といった、外注では対応が遅れがちな小ロット・多品種の需要をこそAMSCは拾い上げている。

AM Insight Asia の視点

AMSCの公開タイミングが示しているのは、単なる広報上の偶然ではなく、Hyundai Motor GroupがPhysical AI事業を本格的に立ち上げるにあたって必要とするインフラが揃いつつあるという、実質的な符合だとAMIAはみる。

Physical AIは、他のソフトウェア中心のAI分野と比べても異様な速さで進化している。ロボットの関節構造、自動運転車のセンサー配置、アクチュエーターの軽量化、これらは机上のアルゴリズム改善では完結せず、実機を作って動かして壊してまた作り直すという、ハードウェア側の試行錯誤を伴う。この反復速度こそが開発競争の勝敗を分ける。Hyundaiが自社のロボティクス戦略の中核に位置づけるBoston Dynamicsは、まさにこの課題に3Dプリントで応えてきた企業だ。人型ロボットAtlasの最新世代は、チタンとアルミニウムで積層造形したアクチュエーターを採用し、油圧配管を一体構造に埋め込むことで軽量化と強度を両立させている。金型を介さないAMだからこそ、世代ごとの設計変更に対して新たな金型投資も納期の壁もなく対応できる。

そしてHyundaiにとってのPhysical AIは、ヒューマノイドロボットだけの話ではない。Chung会長はSan Francisco AI Summitで、Hyundai Motor Groupが追求するPhysical AIのビジョンについて、車両やロボットのような「インテリジェントデバイス」から始まり、やがてAIファクトリーのような「インテリジェントスペース」、最終的には都市インフラ全体が有機的につながる「都市レベルの統合知能」へと広がっていくと説明している。ここで車とロボットが同じカテゴリーに並べられているのは、車にAIを搭載しているからではなく、車という形をしたロボットだからではないか、とAMIAは読む。だとすれば順序は逆で、Hyundaiが見ているのは「AIを積んだ車」ではなく「たまたま車の形をしたロボット」であり、車もロボットも等しくハードウェアという身体を持つAIとして扱われていることになる。

この見立てに立つと、AMSCは車の部品工場という枠を超えて見えてくる。ロボットという身体を、たまたま車の形で作っているだけなのだとすれば、その身体を金型なしで素早く試作・改良できる基盤こそが、進化の速いPhysical AI開発競争を支えるインフラになる。AMSCの記事本文にロボティクスやPhysical AIへの直接的な言及はないが、車を「AIを積んだ乗り物」ではなく「車の形をしたロボット」として捉えるなら、車の部品開発のために積み上げてきたこのAM能力は、Hyundaiが描くPhysical AI事業全体を支えるインフラとして機能しうる、とAMIAは考える。

対象企業について

Hyundai Motor Companyは、韓国・ソウルに本社を置くHyundai Motor Groupの中核自動車メーカーである。近年はロボティクスやPhysical AI分野への事業拡張も進めており、Boston Dynamicsを自社ロボティクス戦略の中核に据えるなど、自動車製造の枠を超えた変革を打ち出している。

Kia Corporationは、韓国・ソウルに本社を置くHyundai Motor Groupの自動車メーカーで、南陽R&Dセンターなど開発拠点をHyundai Motorと共有する姉妹会社である。