色と質感の表現をめぐる限界が、AMのものづくりを変えていく
会場の樹脂・デスクトップAM区画で目についたのは、大手メーカーの新製品競争、フィラメントブースの急増、そして3Dプリントシューズの氾濫という三つの光景だった。その先には、色と質感の「表現」をめぐる技術的な壁が見えてくる。
個々の製品や出展の詳細は、他媒体でも報じられるだろう。この記事では、そうした個別の情報を並べるだけでなく、会場で見た点と点をつないだ先に何が見えるかを掘り下げていく。以下の事実セクションは、その材料として簡潔にまとめる。
主要メーカーが持ち込んだ新製品
樹脂・デスクトップAM区画では、大手各社が新製品を投入していた。Bambu LabとElegooのブースは存在感を放ち、Crealityはノズル自動交換システム「KliTek」を搭載した新型機「K3」を国内で初披露した(K3は2週間後のIFA 2026 Berlinでグローバルデビューし、2つの賞を受賞している)。


同ブースでは、レーザー彫刻機「Falcon A1C」と「Falcon T1」による木材・クリスタルへの彫刻デモも行われていた。

Snapmakerは、コミュニティ開発者Radu(通称”Ratdoux”)が生み出した色再現スライサー技術「Full Spectrum」による造形物を展示し、来場者の注目を集めていた。Full Spectrumはもともとオープンソースの個人プロジェクトで、Snapmakerは2026年5月に開発者本人を迎え入れ、自社のスライサー「Snapmaker Orca」への統合を進めている。フィラメントメーカーのPollyPolymerは「世界初の3Dプリントマットレス」が床に敷かれていて注目されていた。


上に乗って歩いてみるとクッション性があり快適だったが、これは本当にベッドに敷くものなのだろうか。産業用の樹脂AMでは、HPが「MJF 1200」をアジア太平洋地域で初披露した(ブースでは実機ではなく、技術を紹介する大型グラフィックパネル)ほか、TPM3D Printing TechnologyがSLSプラットフォーム「CF250 + PPS250」を世界初披露した。
日本ではあまり馴染みがないメーカーの姿も
深圳の上場企業傘下の新興ブランドAxiLoopは、8ヘッド・8スプール構成の新型機「MC8」を初披露した。各ヘッドに専用スプールを割り当てることで、色替えの際にノズル内の材料を廃棄する「パージ」の工程が不要になる設計だという。


高性能エンジニアリング樹脂の産業用3DプリンターメーカーIEMAI3Dのブースも見られた。産業用3Dプリンター専門のAura3Dは、六軸ロボットアームを使った大型3Dプリンターを展示しており、等身大の胸像のような大型造形物を出力していた。

「光速一构(GS-Eagle Intelligent)」のブースでは、産業用ロボットアームの先端に研磨ツールを取り付け、3Dプリントシューズの表面を後加工で磨き上げるデモも行われていた。

塗料メーカーの広州奥達曼(AODAMAN)は、3Dプリント製品向けの封止プライマーやパテ、屋外使用にも耐える耐候性コーティングを展示していた。ブース自体は小規模だったが、来場者の関心は高かった。

杭州云杉増材科技(YUNSHAN 3D)は、ペレット材料を直接押し出すFGF方式の大型産業用3Dプリンター「A1000」を展示しており、1m角クラスの大型造形が可能だった。現地で聞いた話では価格は3000ドル(日本円で50万円程度)とのことだったが、この点はウェブ上での裏付けは取れていない。
フィラメントブースが埋め尽くした会場
会場を歩いて目立ったのは、フィラメントメーカー・販売店の出展数の多さだった。eSUNやSUNLUといった大手に加え、


深圳拠点で樹脂・フィラメント双方を手がけるJAMG HE(20年以上のUV硬化技術を持つ、中国最大級の3Dプリンター用材料メーカー)、OEM/ODM主体のフィラメントメーカーINKCLOUD、

エンジニアリング向けフィラメント・レジンを手がけるInslogic、中国科学院発の技術を基にしたPLA樹脂原料メーカーPLIITHのような、日本ではあまり馴染みのない中小のフィラメントブランドが数多く出展しており、フィラメントの色や種類は年々増え続けている。
3Dプリントシューズという新たな主戦場
もう一つ会場随所で見られたのが、3Dプリントシューズの展示だった。今回のFormnext Asia Shenzhenでは、3Dプリントフットウェアに特化した初のデザインアワード「International 3D Printed Footwear Design Awards」が新設され、これに合わせるように靴関連の展示が会場のあちこちに広がっていた。

個々の企業や技術の詳細は、シューズ編として別途報告する。
多色化がぶつかるCMYKの壁
3Dプリンターのヘッド数は増加を続けており、8ヘッドを搭載した機種も珍しくなくなってきた。フィラメントの種類も急増しており、Snapmakerの「Full Spectrum」のようにCMYKの4色を組み合わせて多様な色を再現する仕組みも登場している。
しかしこの延長線上に、表現の限界が見えている。フィラメントの種類は際限なく増え続ける一方、3Dプリンターのヘッド数は増えてきたとはいえ、搭載できる数には物理的な限界が見えてきた。CMYKの4色を多層に組み合わせて色を再現する方式にも、色がくすんでしまうといった限界がある。
色の見た目を決める要素は、そもそも色相だけではない。艶の有無、マットな質感、透明感といった要素も見た目を大きく左右するが、印刷向けに設計されたCMYKの仕組みは、こうした質感の違いを表現するために作られたものではない。実際、フィラメントのラベルには色名や色番号が記載されているものの、艶の度合いやマットさ、透明度を数値で示したものはほとんど見当たらない。しかも艶に関しては、フィラメントの種類だけでなく印刷速度も影響する要素の一つであり、材料の選定だけでは完結しない。
ヘッド数が増えても、この問題は単純には解決しない。仮に8ヘッドの機種が登場しても、CMYKに相当する基本4色を土台にせざるを得ない以上、残る4ヘッドの使い道は一つに絞れない。印刷業界には、CMYKにオレンジ・グリーン・バイオレット(OGV)を加えて色域を広げる「拡張ガマット印刷」という手法がすでにある。CMYKだけではPANTONE色見本の4〜5割程度しか再現できないが、OGVを加えると9割以上をカバーできるという。この手法を踏襲するなら、残りのヘッドは彩度の高いオレンジやグリーン、紫といった色域拡張に使う選択肢もある。つまり残る4ヘッドは、艶やマットさ、透明感といった質感の表現に使うのか、それとも色域そのものを広げるために使うのか、そのどちらを優先するかという設計判断が新たに生まれる。現行のSnapmaker U1は4ヘッド構成であり、この4本をCMYK(Snapmakerの呼称ではCMYG、黒の代わりにグレーを採用)の組み合わせだけで色を表現していく必要がある。

ユーザーがイメージした通りのものを忠実に設計し、そのまま出力する。そこにはまだ到達していない。
Snapmakerは2026年9月、Full Spectrumでの色再現に最適化した「PLA Full Spectrum Filament Bundle」を発売した。シアン・マゼンタ・イエロー・グレーの半透明PLAを各1kgセットにしたもので、光の透過特性をあらかじめ調整済みのため、ユーザーが自分でフィラメントの特性を測定する手間なく色再現の精度を高められる。CMYGを基本セットとして製品化する動きは、すでに始まっている。
AM Insight Asia の視点
CMYGセットの製品化は、色の表現を「ユーザーが自分で調整するもの」から「あらかじめ最適化されたパッケージ」に変える第一歩にすぎない。ヘッド数を8本などに増やしたとしても、基本のCMYK(CMYG)4色で埋まる分を除けば、質感の要素すべてを賄えるほどの余地はない。艶の有無、マットさ、透明感といった複数の軸を、限られた追加ヘッド数だけでカバーするのは無理がある。
そこで必要になるのが、CMYKを基本セットとしつつ、残りを用途別に組み合わせた「フィラメントセット」の多様化だ。ただしこれは、CMYKの4色を使い切った上でなお余剰ヘッドがある8ヘッドクラスの機種を前提にした話である。現行のSnapmaker U1のように4ヘッドすべてをCMYGに使い切っている機種には、まだこの余地がない。ジオラマ制作に適したマット質感中心のセット、透明感を活かした作品向けの半透明樹脂セットといった具合に、CMYKの延長ではなく用途起点でセットを設計する発想である。ただし、女性向けファンシー雑貨に適したような明るく淡いパステルカラーは、CMYの重ね合わせだけでは原理的に作りにくい。CMYは減法混色であり、重ねるほど色は暗く濁っていく方向に働くためだ。パステル調を実現するには、白や半透明といった下地となる材料を別途組み合わせる必要がある。
ただし、こうしたセット化の発想はどちらかといえば初心者向けだ。上級者にとっては、複数のフィラメントメーカーの色や特性を自分なりに組み合わせていくこと自体が楽しみになる。ある造形物を再現するために使ったフィラメントの組み合わせを「レシピ」として共有する動きが、ネット上で広がっていくかもしれない。
この変化は機械やフィラメントだけの話では終わらない。ユーザーがイメージしたものを最初に形にするのは、フィラメントでも機械でもなく設計ソフトだ。実はFusion 360のようなCADソフトには、艶やマットさ、半透明性、不透明度まで細かく指定できる「外観」機能がすでに存在する。ただしこれはあくまでレンダリング(見た目のプレビュー)用の情報であり、STLのような3Dプリント用の出力ファイルには質感情報が乗らない。問題は質感を指定できるかどうかではなく、その指定を印刷用ファイルやスライサー、機械側までどう橋渡しするかにある。Meshy AIやTripo AIのようなAIモデリングツールも含め、設計ソフト・スライサー・機械・フィラメントが同じ質感情報を共有できる仕組みが整って初めて、人がイメージした通りのものをそのまま設計し、そのまま出力できる世界に近づいていく。
フィラメントの多色対応やツールチェンジャーの登場によって、色の民主化はすでに進んできた。次の段階として訪れるのは、艶やマットさ、透明感といった質感まで含めた「表現の民主化」ではないだろうか。
対象企業について
Formnext Asia Shenzhenは、Messe Frankfurtの国際的な展示会ブランド「Formnext」のアジア版として、広州広雅法蘭克福(Guangzhou Guangya Messe Frankfurt)が主催する展示会である。深圳国際会展中心(Shenzhen World Exhibition & Convention Center)を会場に、金属・樹脂を含むAM技術全般や関連するソフトウェア、検査機器、後処理技術などを扱う。



