人気がある機械の足りない部分をオープンソースコミュニティが埋めた
オープンソースのスライサー、OrcaSlicerが公開したV2.5.0 Alphaで、Bambu Lab H2DとX2Dの左右ノズルに異なる径を設定できるようになった。Bambu Labは、H2DとX2Dのいずれについても、デュアルノズルでの印刷は現時点で同じサイズのノズルにのみ対応するとしている。メーカーがまだ用意していない使い方を、コミュニティが先に機械へ届けた形だ。
0.2mmで外壁、0.8mmでインフィル
OrcaSlicerのV2.5.0 Alpha公式リリースノートは、H2D/X2Dの左右ノズルを別の径にできるとし、例として0.2mmノズルで細かい外壁を、0.8mmノズルで高速なインフィルを印刷する構成を挙げている。ノズル径はサイドバーまたはプリンター設定で個別に入力し、ライン幅、インフィル、サポート、アイロニングは、各フィラメントが実際に使うノズルの径から算出される。
異径ノズルの使い分け自体は新しい発想ではなく、OrcaSlicerもv2.2.0-betaから複数エクストルーダー機での異径ノズル印刷に対応してきた。今回の変更は、その機能をBambu Labの2機種に広げたものだ。
「入れれば速くなる」機能ではない
異径ノズルは、インストールするだけで効果が出る機能ではない。設定の手順は、OrcaSlicer公式Wikiの解説ページ「Mixed Nozzle Sizes」にまとめられている。同ページは、ライン幅をmmの絶対値ではなくノズル径に対する割合で設定し、プロファイルをノズル径に依存しない形にするよう推奨している。0.4mmノズルで0.48mmのライン幅なら120%と入力する、という具合だ。これにより、0.2mmと0.8mmのどちらのノズルで印刷しても、径に見合った押出幅が自動で決まる。
Pressure Advanceも同じ値では通用しない。最適値はノズル径によって変わるため、Wikiは材料とノズル径の組み合わせごとにキャリブレーションし、フィラメントプロファイルを分けることを勧めている。どの部位をどのノズルで印刷するかは、Filament for Features設定かカラーペイントツールで指定する。
【手順解説】異径ノズルの設定方法
ノズル径の設定から、部位ごとのノズル割り当て、ライン幅の割合設定、スライス結果の確認まで、実際の操作画面を使って4ステップで解説しています。OrcaSlicer公式のチュートリアル動画に沿った内容です(OrcaSlicer 2.4.0、Snapmaker U1を使用)。
そもそもV2.5.0はAlpha版だ。リリースノートは新機能の一部が実験的で安定版までに変わり得るとし、プロジェクトとプロファイルのバックアップを求めている。
入り口を管理するメーカー、それでも届くコミュニティの機能
OrcaSlicerは、オープンソースとして公開されているBambu Studioをもとに開発されたスライサーだ。V2.5.0でも、ノズルごと・流量タイプごとに速度やモーション制限を別設定できるエクストルーダーバリアントや、カラーミキシングをBambu Studioから移植している。純正ソフトの成果を取り込み、その上に純正がまだ出していない機能を載せる関係にある。
一方でBambu Labは、外部ソフトから機体への入り口を自社の管理下に置く方向に進んできた。同社は、印刷ジョブの開始などの操作に認可を求める「認可制御(Authorization Control)」をファームウェアに導入し、今後の新機種にも標準搭載するとしている。更新後の機体をOrcaSlicerなどの外部ソフトから使うには、同社の中継ソフトBambu Connectを経由するなどの手順が必要になる。
それでもV2.5.0は、Bambu Labの新機種H2CとA2Lへの対応と、H2D/X2Dの異径ノズル対応を同時に盛り込んだ。認可制御が管理するのは機体を動かす通信の入り口で、印刷データを作るスライスの層には及ばない。コミュニティの開発は、その開いたままの層で進んでいる。
AM Insight Asia の視点
今回の異径ノズル対応が示しているのは、ユーザーが本当に使いたい機械には、メーカーが用意しない部分をコミュニティが埋めにくるという構図だ。
注目すべきは、その対象がBambu Labだという点にある。Snapmaker U1のように、Klipperなどのオープンソースを土台にし、その改変内容をGitHubで公開するメーカーなら、コミュニティが機能を足すのは設計上の前提だ。Bambu Labはそこまで開いていない。それでもH2D/X2Dには、純正環境がまだ解放していない使い方が届いた。
コミュニティを動かしているのは、メーカーの開き方より、その機械を使う人の多さだろう。ユーザーの多い機械では、一つの機能が多くの人のメリットになる。それだけの人が恩恵を受けるなら、開発者にとって手を入れる十分な理由になる。そして、多くのユーザーが受け取ったメリットは、そのまま開発者への評価に変わる。使う人の少ない機械に同じ手間をかけても、恩恵を受ける人も、それを評価する人も限られる。
メーカーにとって、これは普及台数そのものが資産になることを意味する。ユーザーの多い機械にコミュニティが集まり、その機能が機械の価値を押し上げ、さらにユーザーを呼ぶ。入り口を管理していても、Bambu Labはこの循環の恩恵を受けている。裏を返せば、台数で劣る機械は、開発の手を外から借りにくい。
ただし、コミュニティが埋められるのは機能までだ。メーカーが対応をうたっていない構成で使う以上、保証の外に出るリスクはユーザーが負う。Bambu Studioが異径ノズルを正式にサポートするかどうかは、コミュニティが切り開いた使い方を、メーカーが保証の範囲に取り込むかどうかの試金石になる。
対象企業について
OrcaSlicerは、FFF方式の3Dプリンター向けオープンソーススライサー。Bambu Studioをもとに開発され、Bambu Lab以外のメーカーの機種にも対応している。V2.5.0 Alphaは、140人以上の貢献者による950件超のプルリクエストで構成されている。
Source
- V2.5.0 Alpha (via OrcaSlicer Wiki)
- Mixed Nozzle Sizes (via OrcaSlicer GitHub Wiki)
- Bambu Hotend – H2 Series (via Bambu Lab Store)
- Bambu Lab X2D – FAQ (via Bambu Lab)
- Firmware Update Introducing New Authorization Control System (via Bambu Lab Blog)
- Snapmaker U1 Firmware: Now on GitHub (via Snapmaker)







