デザインは多様化した。しかし街に、それを履く人はまだいない
会場を歩くと、色もデザインも実に多様な3Dプリントシューズが目に飛び込んできた。しかしその多様さの裏で、機能面を具体的に訴える展示はほとんど見当たらなかった。会期中、深センの地下鉄に1時間半ほど乗り、繁華街も歩いたが、実際にそれを履いている人には一人も出会わなかった。

アワード新設が示す注目度
今回新設された「1st International 3D Printed Footwear Design Awards」には100件超のエントリーがあり、デザイン・ブランド・製造機器・材料の各部門で30の賞が贈られた。審査委員長はFootwearologyの創業者、Nicoline van Enter氏が務めた。プロセス別のデザイン賞(FDM、DLP/LCD、MJF/SLS)に加え、ブランド特別賞として、最も早くこの領域に参入したブランドに贈られるPathfinder AwardはANTA(中国発祥で、Arc’teryxやSalomonなどを傘下に持つAmer Sportsの筆頭株主でもある、売上高世界最大級のスポーツ用品メーカー)が、最も人気の高かった3Dプリント靴に贈られるTrusted Choice AwardはSTARAYが、最も勢いのある新興ブランドに贈られるRising Star AwardはCALLNAKがそれぞれ受賞した。


会場を彩ったブースの数々
アワード受賞企業以外にも、3Dプリントシューズを主力に据えたブースが会場随所に見られた。東莞市の空実造物(Kongshi Zaowu、英語版名称がないためピンイン読み[中国語の発音をローマ字で表記した読み方]を記載。運営元:東莞市空実科技有限公司)は「3D打印鞋・一体解決方案(3Dプリントシューズの統合ソリューション)」を掲げ、エラストマー材料や光硬化材料によるシューズ向けソリューションを展示していた。産業用SLS機を手がけるTPM3Dも、SLSと発泡技術を組み合わせたフットウェア向けの技術展示を行っていた。




デザインの主張、機能の沈黙
会場で見た限り、シューズ関連の展示はいずれも色やフォルム、デザイン性を前面に押し出したものが中心だった。耐久性や履き心地、通気性といった機能面を具体的な数値やデータで訴える展示は、ほとんど見当たらなかった。







深センの街を歩いても見えなかった靴
会場の熱気とは対照的だったのが、街中での実態だ。会期中、地下鉄に約1時間半乗り、繁華街も歩いたが、3Dプリントシューズを履いている人には一人も出会わなかった。あくまで筆者が見た範囲での話ではあるが、会場での盛り上がりと街中での普及との間に、大きな差があることをうかがわせる。
価格という高いハードル
普及を阻む一因として浮かび上がるのが価格だ。筆者が日本で購入したSTARAYの3Dプリントシューズは約2万6千円だった。一方で、無名ブランドの3Dプリントシューズであれば1万円程度で購入できるものも多い。街中で見かける一般的なスニーカーの多くも、量販店で1万円台前半程度に収まる。著名なスポーツブランドの定番モデルでも、多くは2万円弱に収まる水準だ。有名な3Dプリントシューズは、こうした価格帯のいずれをも上回る。しかも、履き心地や耐久性といった機能面の情報が展示現場でもほとんど発信されていない以上、この価格差を消費者に納得させる材料は乏しいと言わざるを得ない。

AM Insight Asia の視点
今回の会場で見えたのは、色やフォルムの多様化という「見せる」段階での進歩と、「使わせる」段階への移行の遅れが同居する光景だ。この多様化は、3Dプリントシューズが実験的なガジェットから、デザインの選択肢を競う土俵に上がったことを示している。しかし消費財として市民権を得るには、履き心地や耐久性といった、写真では伝わりにくい体験を言語化し、価格に見合う根拠として発信する情報インフラが欠かせない。ANTAのような大手の参入は、量産による将来的な価格低下の芽を示す一方、空実造物のような、まだ知名度の低い新興ブースの乱立は、まだ誰も勝ち筋をつかめていない実験段階の裏返しでもある。現状の3Dプリントシューズが掲げている武器は、3Dプリンターでしか作れない造形やデザインの面白さにほぼ限られている。しかしデザイン性だけを訴求軸にする限り、市場に届く層は物珍しさを求めるごく一部のマニアに留まりかねない。デザインアワードが生む会場内の熱狂と、街を歩く人々の無関心との間のギャップは、価格が下がり、機能面の情報が積み上がるまで埋まらないだろう。
対象企業について
Formnext Asia Shenzhenは、Messe Frankfurtの国際的な展示会ブランド「Formnext」のアジア版として、広州広雅法蘭克福(Guangzhou Guangya Messe Frankfurt)が主催する展示会である。深圳国際会展中心(Shenzhen World Exhibition & Convention Center)を会場に、金属・樹脂を含むAM技術全般や関連するソフトウェア、検査機器、後処理技術などを扱う。




