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ダイヘンがWAAM式金属3Dプリンターを発売、新規にAM事業に参入

7月 9, 2026

The arc in action on a screw part mid-build | Photo: DAIHEN

売上約2,400億円の重電8社の一角が、日本発のDEDメーカーとして世界に挑戦

今回の発表は1ヶ月以上前の話だ。ニュースリリースを単に記事にすることはできた。しかしAM Insight Asiaは今回の発表に伴い、兵庫にあるAM部門の開発拠点を訪問し取材を行った。直接話を聞きたかったからだ。それほどインパクトがある内容だった。

ベンチャーでも中小企業でもない。売上規模約2,400億円、創業107年、時代ごとに自社の強みを一つずつ確実に増やしてきた重電8社の一角が、大型構造物分野をターゲットに、新たにAM事業へ参入する。武器となるのは、要素技術を自社で持つ強みと、すでに構築済みの世界販売網だ。

Kohei Ono, General Manager, Dept. of Advanced Materials Processing Development, Welding & Joining Div. Koji Osawa, General Manager, Dept. of Advanced Materials Processing Systems Sales, Welding & Joining Div. And other members of the team | Photo: AM Insight Asia
溶接・接合事業部マテリアル先進加工開発部長 小野貢平氏 / 溶接・接合事業部マテリアル先進加工システム営業部長 大澤耕浩氏 / 他チームの面々 | Photo: AM Insight Asia

ArcBuilder 3Dとは何か

2026年5月18日、ダイヘンはWAAM式(ワイヤーアーク積層造形)の金属3Dプリンター「ArcBuilder
3D」を発表し、5月29日に受注を開始した。これにより、同社はこれまで手がけていなかったAM事業に新規参入した。

The ArcBuilder 3D unit (left) and its interior mid-build (right) | Photo: DAIHEN
ArcBuilder 3D本体(左)と、扉を開けた内部の造形の様子(右) | Photo: ダイヘン

技術の核は、同社が2015年に市場投入した独自の「交流シンクロフィード溶接技術」だ。高速なワイヤの正送・逆送と溶接電流を同期させることで、スパッタ(溶接時の飛び散り)を最大98%以上削減する。ArcBuilder 3Dはこの技術を応用し、高い溶着量を保ったまま低温での高速造形を実現する。造形能率は従来溶接比で24%向上したという。材質に応じて最適な溶接波形を切り替えられる点も特徴で、鋼材、ステンレス鋼、アルミニウム合金など様々な材料に適用できる。ロボットプログラミングを支援する専用ソフトウェアも搭載し、複雑な形状のCADデータについても最適な軌跡制御を行えるという。

A cup-shaped printed part, showing fine layer lines | Photo: AM Insight Asia
造形されたカップ状のパーツ。積層跡が細かく確認できる | Photo: AM Insight Asia

最大ワークサイズは1.5メートル角。価格は7,500万円(税抜)で、初年度(2026年度)の販売目標は20システムである。装置販売に加え、神戸市東灘区の六甲事業所では受託造形サービスも提供する。溶接・ロボットの知識を持つ専属技術サービス員が、相談・見積もりから製造・納品まで一貫して対応する有償サービスだ。

対象分野は船舶、エネルギー、建設機械、航空・宇宙。2030年度の目標は売上高100億円、国内シェア60〜70%。この100億円は、装置販売、保守サポート、材料、受託造形サービスを含むWAAM事業全体で、国内と海外を合わせた数字である。

The robotic arm depositing material during a build | Photo: DAIHEN
ロボットアームによる造形の様子 | Photo: ダイヘン

創業107年、重電8社の一角

ダイヘンは1919年、大阪変圧器として創業した。2026年で107年。日立製作所、東芝、三菱電機、富士電機、明電舎、日新電機、東光高岳と並ぶ、「重電8社」と呼ばれる日本を代表する電機メーカー群の一角である。2026年3月期の連結業績は、売上高約2,377億円(前期比5.0%増)、営業利益約188億円(同16.1%増)で、いずれも過去最高を記録した。事業はエネルギーマネジメント(変圧器・蓄電池システム・EV充電システムなど)、ファクトリーオートメーション(産業用ロボットなど)、マテリアルプロセシング(溶接機・半導体製造装置用高周波電源など)の3本柱で構成される。

祖業は変圧器だが、1934年にその技術を応用して溶接機事業に参入し、その後数十年をかけてロボット事業を立ち上げた。同社の会社説明会資料(2025年12月)によれば、アーク溶接ロボットは国内シェア39%(国内1位)、世界シェア20%(世界1位)。祖業である柱上変圧器も国内シェア61%(国内1位)を占める。アーク溶接機の世界シェアについても同社は世界トップクラスの規模にあるとしている。

6年がかりの準備、ボトムアップの決断

要素技術としての着手は2020年頃。独立組織である「技術開発本部」が新しい接合技術の研究を進めていた。2023年度には「新接合加工技術企画部」が新設され、市場規模や成長予測を含めた本格的な事業計画の策定が始まった。2024年の大阪での国際ウエルディングショーでは、製品化前のWAAM技術を参考出展として紹介しており、これは正式な事業参入に至るまでの中間地点に位置する。この事業参入はトップダウンではなく、研究開発本部や企画立案を担う部隊が市場データを示し、最終的に経営層の了承を得て動き出したボトムアップの意思決定だったという。

Kohei Ono of DAIHEN, speaking during the interview | Photo: AM Insight Asia
取材に応じたダイヘンの小野貢平氏 | Photo: AM Insight Asia
A DAIHEN staff member explaining the development background | Photo: AM Insight Asia
開発の経緯について説明するダイヘンの担当者 | Photo: AM Insight Asia

参入の理由として3つの根拠が挙げられている。第一に、WAAM市場全体が年率約20%で成長すると見込まれていること。第二に、WAAMはアーク溶接をベースとする技術であり、アーク溶接機・溶接ロボットの両方で世界トップクラスのシェアを持つことから参入の素地があること。第三に、すでに世界各地に持つ販売・サービス拠点をそのまま流用できることである。2020年の技術着手から2026年の発表まで6年をかけていることからも、思いつきで始めた事業ではなく、時間をかけて積み上げてきた参入であることがわかる。

電源とロボットを自社で持つという競争力

世界のWAAM(ワイヤアーク式DED)市場を見渡すと、Gefertec、WAAM3D、AML3D、Lincoln Electric Additive Solutions、MX3Dなど、欧米に本拠を置く専業ベンチャーや大手企業の一事業部門が中心だ。

これらの海外勢の多くは、ロボットや溶接電源を外部から調達して組み立てる「インテグレーター型」のビジネスモデルを取っている。これに対しダイヘンは、電源とロボットの両方を自社で開発している。電源を自社で持つことは、低入熱・低電流で安定した溶接ビードを引くための制御を行う上で重要な要素になっており、実際に開発拠点で見せてもらった造形物は、従来のWAAM造形物にあるようなゴツゴツした凹凸のある表面ではなく、積層痕の少ない滑らかな表面だった。要素技術を外部調達に頼らず垂直統合している点が、海外専業プレイヤーとの技術的な差になっている。

A metal part built on the ArcBuilder 3D, with a smooth, low-texture surface | Photo: AM Insight Asia
ArcBuilder 3Dで造形された金属パーツ。表面は滑らかで積層痕が少ない | Photo: AM Insight Asia
Sample builds, the one on the right in aluminum | Photo: AM Insight Asia
造形例。右はアルミニウム製 | Photo: AM Insight Asia

もう一つの資産が、すでに構築済みの世界販売網だ。ゼロから海外に販路を作らなければならないベンチャーとの決定的な違いであり、ロボットや溶接機からWAAMへの移行であれば、サービスマンや営業の知識の延長で対応できるとダイヘンは見ている。

入り口は「補修」から

入り口として優先するのは、新規部品の量産ではなく「補修」だ。国内では特に、新規に部品を製造する場合、船級協会(NKなど)をはじめとする認証機関の基準をクリアする必要があり、これが大きな参入障壁になる。補修やプロトタイピングであれば、この認証のハードルは相対的に低い。消極的な選択ではなく、認証という障壁を踏まえた段階的な市場開拓のロードマップだと言える。装置販売だけでなく受託造形サービスを併設することで、既存の溶接機・ロボットの顧客層とは異なる工作機械系の顧客層にもアプローチする狙いがあるとしている。将来的にDfAM(Design for Additive Manufacturing)の設計思想が広がった段階では、量産部品への展開も見据えている。ASTMなど海外の業界規格や船級認証の取得については、現時点で具体的な計画は明言されていない。

正式発表後、国内の代理店網を通じて問い合わせが増えているという。海外の競合企業からも関心を示す接触が複数あった。国内では、防衛関連や機密性の高い分野の顧客から、海外メーカーの装置より国内メーカーの装置を使いたいという声が以前から寄せられていたという。

The ArcBuilder 3D with its housing removed | Photo: AM Insight Asia
筐体を外した状態のArcBuilder 3D | Photo: AM Insight Asia

AM Insight Asia の視点

日本の金属AM産業は、国内市場そのものの立ち上がりが鈍く、その伸び悩む市場の中でも欧米の先行勢や中国の新興メーカーに押されてきた。国内から新しい担い手が出てくるとしても、それはベンチャーの挑戦にとどまるだろう、というのが正直な見立てだった。半ば諦めていた部分でもある。だからこそ、事業基盤を持つ重電大手がこの分野に本格参入してきたことは、想定していなかった規模のインパクトであり、素直に嬉しい驚きだった。

日本企業が海外のAM技術を取り込む動きとしては、ニコンによるSLM Solutionsの買収、先日のTDKによるFabric8Labsの買収がある。これらの買収とは対照的に、ダイヘンは自社の技術と既存の販売網を使って自前で展開する道を取っている。6年をかけた参入プロセス自体は、こうした外部の潮流を受けて始まったものではない。それでも、買収に頼らず自前の技術基盤で市場を切り開くという選択は、ロボットや電源を外部調達するインテグレーター型のビジネスモデルに依存してきた海外のWAAM専業ベンチャーにとって、価格や品質面での競争軸を変えうる新たな相手の出現になる、とAMIAは見る。

もう一つ、ビジネス上の意味合いとして見逃せないのが、入り口に据えた「補修」の将来性だ。世界には、部品を都度買い替えるのではなく古い機械を直しながら使い続ける現場や、物流面でスペアパーツの入手に時間がかかる現場が数多くある。新規造形と補修を同じ装置でこなせれば、専用技術を新たに覚える教育コストもかからない。サプライチェーンの強靭化が世界的なテーマになる中、この補修需要への対応力は、装置販売そのものよりも大きな意味を持つ可能性がある。

Sample builds on display at DAIHEN's development site, with staff from the project | Photo: AM Insight Asia
開発拠点に展示された造形サンプルと、ダイヘンの担当者たち | Photo: AM Insight Asia