メイカーの熱量が示す、AMの原点と可能性
Japan RepRap Festival 2026(JRRF 2026)が2026年5月30〜31日、東京流通センター第二展示場Eホールで開催された。112超の出展ブース、52社以上の協賛企業が集結した、日本最大級のRepRapコミュニティイベントだ。実用からアートまで多種多様な熱量が一堂に会したその空間は、ビジネス寄りのAM技術を追うAMIAから見ても、十分に刺激的だった。全ブースを網羅することはできないが、AMIAの知的好奇心を特に揺さぶった12のブースを、確かなリスペクトとともに紹介する。
BOKSAM 3DP (ぷるさと村)
またろう氏が主宰するコミュニティ「ぷるさと村」。その中でも一際目を引く一角があった。国内トップクラスの自作派たち、またろう氏(@mataro37)、大阪氏(@3dp_oosaka)、くまてちまる氏(@Km0107_39)、Hiro氏(@hiroloquy)が共同開発した、前代未聞の18色回転式ツールチェンジャー搭載型3Dプリンターである。最大の特徴は、ガトリングガンのように18個のヘッドが円形に回転して切り替わる驚異のメカニズム。その外観は、ぱっと見は観覧車を彷彿とさせる。物理的にツールを丸ごと切り替える構造により、多色印刷のトラブルを大幅に軽減。専用基板も独自設計という徹底ぶりだ。誰も見たことがない最強マシンを作るという、RepRapの最高峰の実験精神が詰まった最注目の一台である。

HEN3DRIK – JanTec
ドイツから初参戦したHEN3DRIK氏(@hen3drik)とJanTec氏(@jan_tec)の合同ブース。会場で誰もが足を止めていたのが、HEN3DRIK氏によるガチの「電解メッキ加工」を施した作品たちだ。複雑に3Dプリントされた樹脂の表面が、どう見ても本物のピカピカな金属にしか見えない圧倒的なクオリティである。一方のJanTec氏は、自作の試験機を使った徹底的な強度評価や、反りを極限まで抑える独自の異材質ブレンド技術を展示。プリントした後の「仕上げ」を極めるメッキと、プリント前の「素材と設計」をトコトン突き詰める材料試験。海外トップ勢の「3Dプリンターでここまでやるか!」という狂気的なこだわりを肌で体感できる、非常に見応えのある展示だ。

USAGI Craft
「3Dプリンターを活用した美しい道具づくり」を掲げる、デザイナーのak_t_ka氏(@ak_t_ka)による「USAGI Craft Lab.」。ゴツい自作マシンが並ぶJRRF会場において、その圧倒的な洗練度で異彩を放っていた。空中に一本の線を描くように造形された時計や、有機的でモコモコした質感を表現したトレイなど、どれも実際に販売されているプロダクトとしての完成度が非常に高いものばかり。「これ本当に3Dプリンターで出したのか」と驚くクオリティだ。積層痕を隠すのではなく、独自のアルゴリズムで計算し尽くされた幾何学的な「美」にまで昇華させている。デジタルファブリケーションの新しい可能性にワクワクさせられる、センス抜群の展示だ。

3DPでスクリーンプリント
通常は感光乳剤の塗布や紫外線露光など、専門設備を要するシルクスクリーン製版。その常識を覆し、3Dプリンター界隈で大きな注目を集めているのが洋裁師アン氏(@yousaishi)の「MeshFuse Screen」だ。プリントの途中で印刷を一時停止し、スクリーンメッシュを挟み込んで再開する独自のインサートプロセスを提示。ノズルの熱でメッシュを樹脂に完全融着させることで、FDM機だけで「乳剤不要」の版が瞬時に完成する。3Dプリント中に異物を挟むアプローチ自体は海外にも先例があるが、それを実用的な製版システムへ昇華させたアン氏の功績は大きい。会場では実際の版やTシャツが並び、3Dプリンターを「ファクトリーの生産治具」としてハックした、RepRap精神を象徴する素晴らしい展示であった。

いけばなの展示 ~3Dプリントした花器でお花を楽しもう~
メカニカルな自作マシンがひしめく会場内で、一際異質な清涼感を放っていたのがmiu_robo氏(@miu_robo)のブースである。驚くべきは、3Dプリントした花器に実際に水を入れていけばなを展示していた点だ。通常、FDM方式での防水は外周を何重にも厚くするのが定石である。しかし同氏は、漏れないようにするために一筆書きのように造形するアプローチを採用。一筆書きは設定自体は容易だが、フィラメント1本分という極薄の壁で水漏れを完全に防ぐには、温度や押し出し量を限界まで追い込む職人技のようなパラメータ管理が不可欠となる。デジタルな積層造形と自然美を融合させ、造形物を単なる模型で終わらせず、シビアな技術的試行錯誤によって日常の道具へと落とし込んだ鋭い展示である。

しぶちょー技術研究所
エンジニアのしぶちょー氏(@sibucho_labo)による「おもちゃのせんばん」の展示である。3Dプリンターで出力したミニチュアの旋盤キットを用い、実際に蝋燭(ろうそく)を削る加工を体験させるアプローチを展開した。最も面白いポイントは、最新の3Dプリンターという「足し算の製造」を用いて、真逆の性質を持つ「旋盤」という「引き算の製造」の加工技術を直感的に理解させる構造にある。デジタル技術を介して機械工学の本質を学ぶ仕組みは、まさにSTEAM教育の理想形だ。最先端のツールを単なる造形手段に留めず、異なる技術領域への扉を開く「教育のための翻訳装置」として機能させた。技術の相互理解を促すアプローチが非常に新鮮で、深い知的好奇心を刺激する極めて優れた展示である。

Sabre Design
MakerWorldで高い人気を誇るオランダの3DデザインブランドSabre Design(@SabreDesign)のブースである。特筆すべきは、作品の背景にある洗練された設計思想だ。一見すると北欧ミニマリズム的な意匠だが、日本の伝統的な「和」の感性にインスパイアされ、それらを融合させた「Japandi」スタイルを意識して設計されている。繊細な縦のスリット構造が織りなす陰影や、侘び寂びを漂わせる落ち着いた和の配色は、まさにその思想の体現と言える。これらは出力後の追加加工に一切頼らず、3Dプリントの特性を計算し尽くしたデータ設計のみで表現されている。ホビーの枠を超え、海を渡って日本のユーザーの琴線に触れるプロダクトデザインの重要性を、強く再認識させる完成度の高い展示である。

NibMachineTools
丹生坂つかさ氏(@nibsakat)による、3Dプリンターとデジタルファブリケーション、手芸ミシンを融合させた「TPU Air ガジェットポーチ」の展示である。従来の一般的な活用例である「プリントした型紙に沿って布を切る」といった補助的な使い方ではなく、発泡TPUフィラメントを用いて布地(生地)そのものを3Dプリントにより直接生成するアプローチを採用した。出力された柔軟かつ軽量なTPU生地を、一枚ずつ手作業でミシンで縫い合わせることで、実用的なプロダクトへと落とし込んでいる。硬質な構造物を作るイメージの強い3Dプリンターを、テキスタイル(織物・布地)の新たな生産機械として捉え直した、極めて高い新規性と独自のクラフトマンシップが光る素晴らしい展示である。

CrossLayer
タム氏(@tamutamu3D)が開発した、Gコードを直接生成するオープンソースツール「G-coordinator」の展示である。CADやスライサーを通さず、Pythonのコードでノズルの移動軌跡を設計する仕組み。会場では、これを用いた驚異的な幾何学造形物の数々が並び、来場者を惹きつけた。本作はオープンソースとして提供されており、会場内の他の展示ブースでも、本ツールをそのまま、あるいは独自に改変して作品作りに使用している例がいくつも見られた。自身がこれまでのものづくりにおいてコミュニティに助けられてきた背景から、その恩返しとして無償公開に踏み切ったという。得た知見を共有して全体の可能性を拡張しようとする姿勢は、まさにRepRap精神の核心の体現である。技術と開発理念の両面において、イベントを象徴する素晴らしい展示であった。

カズヤシバタ
「ギリギリ役に立つ発明品」をテーマに、ユニークな自作デバイスを発表し続ける発明家カズヤシバタ氏(@seevua)のブースである。3分以上かけて割り箸を綺麗に割る機械や、寝ながらスマホを操作する際の落下を防ぐフェイスシールドなど、ギリギリ役に立つのか?と思える面白いプロダクトが並んだ。一見するとユーモラスな一発ネタだが、実際に形にして動かすために、3Dプリンターを用いた造形をはじめとする様々なハード・ソフトの技術要素が詰め込まれている。卓越したエンジニアリングを、誰もが直感的に笑って楽しめるエンターテインメントへと昇華させる手腕は見事という他ない。モノづくりの圧倒的な情熱を全力で注ぎ込む、Maker精神の極みとも言える傑出した展示であった。

コイケラボ
「小さいプリンターで大きなものを作る」をテーマに掲げる、コイケラボ氏(@KJUTAbTezb0iSaf)のブースである。家庭用の小型プリンターで出力できるモジュールを3Dプリントし、それらを組み合わせることで家具をビルドアップする独自の設計手法を提示した。会場で展示された椅子は、試座すると十分な安定感を誇る。各モジュールは組み合わせの自由度が高く、体型や好みに合わせた微妙なサイズや高さの調整が可能だ。人によって使いやすい形が異なるからこそ、こうした柔軟なカスタマイズ性には高い需要が見込める。材料を産業用グレードに変えるだけでそのまま製品として流通できるほどの完成度だ。印刷サイズ制限を設計で克服し、家具のパーソナライズという実用的な未来を示した見事な展示である。

ぺんほり
トラックボールの傾斜スタンドなどの開発で知られる、ぺんほり氏(@PENHOLI1)は3Dプリンターの機構を魔改造して仕立て上げられた「クレーンゲーム」の実演展示を行った。来場者に子供もいるということで、楽しませるためにクレーンゲームにしたのだと思われる。本来は樹脂を積層するためのX・Y・Z軸の精密な移動制御システムをゲーム用の筐体へと転用する、圧倒的な遊び心と改造技術を提示。単に「モノを出力する道具」という3Dプリンターの固定観念を覆し、来場者を楽しませたいという彼の想いが溢れている。FDM機の持つハードウェアとしての可能性を、独自のユニークな視点で拡張してみせた、技術的な驚きに溢れた出展である。

AM Insight Asia の視点
産業AMの現場では、効率と再現性が最優先される。それ自体は正しい。しかしJRRFの会場を歩くと、純粋な好奇心と実験精神が技術の限界を押し広げてきたという、AMの原点を改めて思い知らされる。
今回紹介した12のブースは、いずれもビジネスの文脈とは無関係に生まれた。だからこそ、産業の側にいる私たちに「なぜこの技術が面白いのか」という初心を思い出させてくれる。
AMIAはアジアのAM情報をグローバルに流通させ、ビジネス、技術、そして人々の交流を生み出すことを目指している。国内外のメイカーが互いに刺激を受け、切磋琢磨することこそが、AMの進歩を支える原動力だ。JRRFはその最前線のひとつである。
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