多様性が生んだ熱量、個人がメーカーを超えた日
JRRF2025は延べ1,500人を超える来場者を集め、日本のコンシューマー3Dプリンティングイベントとして大きな注目を集めた。その翌年、会場規模を2倍に拡大し、個人・非営利団体・教育機関による113ブース、協賛55社を迎えて開催されたJRRF2026の来場者数は、2日間でチケットベース3,309人、延べ4,713人、子供や無料入場者・出展者を含めると約5,000人に達した。わずか1年で3倍以上の成長を遂げたこのイベントで、筆者が目撃したのは数字以上のものだった。

会場で何が見られたか
初日、会場前にはすでに100人を超える列ができていた。会場には可愛い小物を展示する人、徹底的に改造されたマシンを見せる人、完成度の高いインテリアや家具を並べる人、ファッション、子供向けの体験ブース、機械や材料を展示するメーカー。時間帯によっては3Dプリンター製のエレキギターとマイクで音楽や歌が流れる。怪獣の着ぐるみが歩き回り、JCJCによるラジコンレースエリアでは歓声が上がり、巨大な剣を振る人やチェーンソーを持った人の姿もある。海外から参加したHEN3DRIK x JanTecのブースには人だかりができ、プリンの造形物の中に3Dプリンターが鎮座するブースもあった。屋外にはキッチンカーが並び、会場は終日熱気に包まれた。
これらはすべて「3Dプリンターで作った」という一点だけを共通項に集まったものだ。ジャンルも、目的も、バラバラ。しかしそのバラバラさこそが多様性であり、今回のJRRF2026の肝だった。



なぜ今、この規模になったのか
日本にコンシューマー3Dプリンティングのコミュニティは以前から存在していた。しかしそれは技術者やマニアの閉じた世界だった。そこにBambu Labが登場し、高性能なプリンターを誰でも使えるレベルで市場に投入したことで、裾野が一気に広がった。紛れもなく新しい市場が出現したのである。しかし「場」がなかった。TCT Japanのような業界展示会とも、個人のオフ会や小規模な集まりとも違う、メーカーも個人も来場者も対等に混在できる場所が存在していなかった。
昨年開催されたJRRF2025がその空白を埋めようとした。成功ではあったがその可能性の片鱗を垣間見た程度だった。2026年、主催団体の社団法人化、入念な準備、会場規模の2倍拡大によって、そのエネルギーが一気に解放された。マグマのように溜まっていたものが、ついに噴き出した瞬間だった。

多様性が来場者を惹きつける
JRRF2026が約5,000人を集めた理由は多様性だ。
ラジコン好きにはレースエリアがある。ファンシーなものが好きな人には可愛い造形物のブースがある。家具や日用品、カスタマイズされたマシン、設計ツール。来場者はどこかで必ず自分に刺さるものを見つけられた。単一ジャンルのイベントでは「空振り」のリスクがあるが、JRRF2026にはそれがなかった。
さらに、隣のブースで予期せぬ発見が生まれる。ラジコン目当てで来た人が、隣の家具ブースを見て「こんなことも作れるのか」と気づく。人の流れ自体がコンテンツになっていた。混んでいてじっくり見る時間がなくても、どのブースに人が集まっているか、それだけで市場のシグナルが読める。出展者にとっても同じだ。
来場者をガチガチに限定すれば、小さな自己満足のイベントになる。多様性を許容したからこそ、JRRF2026はコミュニティの外にいた人たちを惹きつけることができた。

個人の圧倒的な存在感
メーカーのブースにも人は集まっていた。しかし筆者の目には、個人出展者の存在感がメーカーを完全に凌駕しているように映った。
JRRF2025では来場者の多くがコミュニティ系だった。マシンのスペックや技術的な話が通じる層だ。しかし今回のJRRF2026では一般の来場者が大幅に増えた。動いているところを見たい、触りたい、何ができるのかを知りたい。そういう人たちだ。
その変化に対応できていたのは個人出展者だった。メーカーの多くはマシンを置いただけ、動かしてもいない。出力したサンプルも少なく、一部は稼働させていたが、ほとんどは静止したままだった。確かに忙しいのはわかる、どこもフル稼働に近いだろう。しかし1年前からわかっていたことのはずだ。「とりあえず出しとけ」が筆者には透けて見えていた。
個人出展者は違った。準備し、声をかけ、自分の作品で驚かせようとしていた。来場者が求める「驚き」を真剣に考え持っていたのは、メーカーではなく個人だった。

成長の痛み、多様性の代償と可能性
子供連れの家族が多く来場する中、一部の展示内容に眉を顰める声があったことも事実だ。多様な声を汲み取れば汲み取るほど窮屈になり、閉鎖的なイベントになってしまう。しかし多様性とは何でもありということではない。一定の基準やルールのもとで運用されるべきことだ。それがない多様性は単なるカオスである。
最終的には主催者の判断で良いと思う。それが受け入れられなければ出展者や来場者は減るかもしれない。傲慢に見えるかもしれないが、全てを汲み取るのは無理なのだ、それが多様性。
AM Insight Asia の視点
イベントが終わり、会場から外へ出る帰り際、小学1年生くらいの子供とお父さんの会話が耳に入った。
子供「楽しかったなあ…」
お父さん「去年は途中で飽きちゃってたもんね、疲れてない?」
子供「全然」
去年盛況だったJRRF2025、しかしこの子の声を聞くと途中で飽きていたようだ。今回JRRF2026では出展者のレベルが上がっていた。もちろん初めての出展で集客が思ったほどうまくいかないブースもあったかもしれない。しかしその経験こそが、来年への燃料になる。今年JRRF2026で盛況だったブースも、JRRF2025での反省の上に成り立っているのだから。
JRRFはコミュニティイベントであると同時に、出展者が「作る力」だけでなく「伝える力」「見せる力」を磨く場でもある。準備の深さ、積極的なコミュニケーション、見せ方の工夫。数字には表れない部分で、個人出展者はメーカーを超えていた。
メーカーにとっての示唆は明快だ。スペックや新製品情報はウェブサイトやSNSで届く。会場で求められるのは驚きであり、体験だ。多様な来場者に合わせたコンテンツを考えられるかでもある。個人と同じ土俵で驚きを提供できるかどうか、それがコミュニティイベントにおけるメーカーの存在価値を決める。
わずか2回目にして2日間で約5,000人を集めたJRRF2026。もしかするとこのイベントは、日本のコンシューマー3Dプリンティングが「技術者のもの」から「文化」へと転換する、その瞬間を記録しているのかもしれない。
最後に、運営のYuto Horiuchi(堀内 雄登)、Masaki Nakamura(中村 政輝)、Yutaro Kimura(木村 優太郎)、Daisuke Sato(佐藤 大亮)、Zoe Wang(王 夢禎)、そして必死にサポートしてくれたボランティアの皆さん、本当にお疲れ様でした。

展示内容を楽しむ時間すらなかったかもしれない。でも皆さんの純粋な想いが、間違いなく日本のコンシューマー3Dプリンティング市場を一歩前進させた。AM Insight Asiaも可能な限りサポートしていく。とりあえずおやすみなさい。






