これは単なる軍事演習での実証ではない。「製造能力を送る」ことの検証だ
フィリップス・コーポレーションは、海軍大学院の先進製造研究教育コンソーシアム(CAMRE)による分散型先進製造ネットワークの一環として、RIMPAC 2026(環太平洋合同演習2026)に参加する。CAMREの実証実験の一環として、フィリップス・フェデラルは、コンテナ型のHaas TM-1P CNCプラットフォームとMeltio Blueのワイヤーレーザー金属積層造形技術を統合したシステムを、USS ESSEX(LHD-2)に展開する。金属3Dプリンティングと精密機械加工を、製造システムが置かれる中でも最も過酷な環境のひとつ、すなわち航行中の艦船という条件下で検証する。
RIMPAC 2026は6月24日から7月31日までハワイ諸島周辺で開催される世界最大の国際海上演習であり、31カ国から約25,000名の人員、水上艦40隻、潜水艦5隻、航空機140機が参加する。アジアからも日本の海上自衛隊、韓国海軍、シンガポール、フィリピン、インドネシア、マレーシアなどが参加し、日本の海上自衛隊は副司令官、韓国海軍は海上部隊司令官という指揮の要職も担っている。
USS ESSEXとはどんな艦か
USS ESSEX(LHD-2)は、米海軍のワスプ級強襲揚陸艦だ。全長約257m、満載排水量約4万トン強。見た目や規模感は空母に近く、艦の前方から後方まで続く飛行甲板を持ち、F-35Bやヘリコプター、MV-22オスプレイの発着艦が可能だ。海軍要員約1,100名に加えて海兵隊員を約1,900名収容でき、ウェルデッキ(艦尾の船渠区画)から上陸用舟艇やホバークラフトを発進させることもできる。
USS ESSEXは2026年6月21日、RIMPAC 2026参加のためハワイのパールハーバーに入港した。同艦はサンディエゴを拠点とし、過去には2011年の東日本大震災や2004年のインドネシア津波の際の災害救援、アフガニスタンでのF-35B初実戦投入など、軍事・人道支援の両面で出動してきた実績を持つ。
なお、USS ESSEXへの金属3Dプリンター搭載は今回が初めてではない。2022年のRIMPACでも、同艦に3Dプリンターが搬入された記録がある。今回はそこからさらに進み、Haas CNCとMeltioのワイヤーレーザー技術を統合したハイブリッドシステムへと発展している。

フィリップス・コーポレーションとCAMREとは
フィリップス・コーポレーションは、政府・防衛・教育・商業分野向けに先進製造ソリューションを提供する企業だ。フィリップス・フェデラルはその防衛部門であり、米国防総省や海軍大学院などと連携し、展開可能な製造ソリューションの開発を進めてきた。
CAMRE(Consortium for Advanced Manufacturing Research and Education)は、海軍大学院が主導する先進製造の研究教育コンソーシアムだ。政府・産業・学術界の関係者をつなぎ、複数拠点の製造設備をネットワーク化することで、分散型の兵站・整備のあり方を研究している。今回のRIMPACでの実証は、このCAMREが進める分散型先進製造実験の一部として行われる。実証にあたっては、FLEETWERXという、海軍大学院のためのパートナーシップ仲介機関が、政府・産業・学術界をつなぐ役割を担っている。
実は、今回のRIMPACでCAMREの実証実験に参加しているのは、フィリップスとMeltioだけではない。CAMREは50以上の先進製造拠点を統合ネットワーク化し、「数カ月ではなく数日で」即応部品を生産できる体制を目指している。ハードウェア側では、コンテナ型ハイブリッド製造システムを手がけるSnowbird Technologiesも参加し、洋上から陸上へのシームレスな移行を想定したシステムを展示している。自律型の無人補給船を手がけるHavocも、複数拠点をまたいだ自律物流のデモンストレーションに加わっている。さらにソフトウェア側では、3YOURMINDという企業が、どの部隊が、どの部品を、どの拠点の設備で作るべきかを管理する「デジタルスレッド」のシステムを提供している。部品の識別、注文管理、生産計画を一括して担い、軍関係者がこの仕組みを「製造版のUber、配送速度はAmazon並み」と表現するほどの構想だ。
つまり今回のフィリップス+Meltioの実証は、CAMREが目指すこの大きな分散型製造ネットワーク構想の中の、USS ESSEXという1つの拠点における実証という位置づけになる。
なぜ強襲揚陸艦なのか
USS ESSEXは輸送艦ではない。強襲揚陸艦であり、海兵隊員・航空機・上陸用舟艇を海から陸へ直接送り込むために設計されている。この点は気になるところだ。プレスリリースには明記されていないが、強襲揚陸艦(LHD)という艦種の特性を踏まえると、このコンテナ型製造システムは艦内での運用にとどまらず、上陸地点でクレーンによって降ろし、陸上の前線拠点として設置することも構造上は可能かもしれない。今回の演習でそこまで検証されるのかは分からないが、これは韓国海兵隊にMeltioの技術が導入された際の構図とも重なる。コンテナ型の金属3Dプリンターはクレーンやフォークリフトで移動させ、現場での維持補修支援に使われていた。洋上のシステムが、陸の拠点にもなり得るという可能性自体は注目しておきたい。
CAMRE側はこの取り組みをより大きな構想の一部と位置づけている。複数拠点の先進製造資産をネットワークでつなぎ、競合環境下での分散型の兵站・整備に新たなアプローチを見出そうとしている、と彼らは述べている。今回のUSS ESSEXでの実証は、その一つの拠点という位置づけになる。
艦内環境が実際に問うもの
艦上での製造設備の運用について、検証すら不要な思い込みもある。艦船は精密機器を海洋環境から守るように設計されている。換気システムの吸気口は雨や波しぶきが入らない位置に配置され、内部はフィルターと加圧によって塩分を含む外気の侵入を防ぐ。給電も制約にならない。USS ESSEXの発電能力は約52,000kW、小都市の電力需要に相当する規模であり、CNCとワイヤーレーザーシステムを動かすには十分すぎる。
本当に問われるのはそこではない。金属の積層造形には、部品のサイズや形状によっては相応の時間がかかる。DEDはPBFに比べて造形速度自体は速いが、それでも部品によっては長時間の稼働が必要になる。5週間にわたる太平洋での演習中、このシステムが航行中に稼働する場面は避けられないだろう。航行中の船体の揺れの中で、HaasのCNCとMeltioのワイヤーレーザーシステムがどこまで機能するか。それはまだ答えの出ていない問いであり、今回の検証で明らかになるかもしれない。洋上での材料補給の制約や、密閉空間でのレーザー加工・切削加工で発生する金属ヒュームの処理も、この実証が試す要素だ。
「RIMPACは、先進製造が艦隊の実際のサステインメント課題の解決にいかに貢献できるかを評価する機会を提供します」と、フィリップス・アディティブ・マニュファクチャリング・ソリューションズ社長のブライアン・クリスタポニス氏は述べた。「従来のサプライチャンネルで重要部品が入手できない場合、必要な場所の近くで部品を製造・修理できる能力は、即応性の向上とシステム稼働維持に貢献できます」

ワイヤーレーザーとCNCを組み合わせる理由
現場で部品を供給するというのは、単に「3Dプリンターで何かを作れる」という話ではない。現場で本当に必要なのは、そのまま使える部品だ。
ニアネットシェープ、つまり完成品に近い形まで素早く作り、寸法精度が求められる箇所だけをCNCで仕上げる。フィリップスとMeltioが組んでいるのは、まさにこの工程を一台で完結させるためだ。
ここで重要なのは、フィリップスや米軍がPBF(パウダーベッド方式)ではなくワイヤーレーザー方式のMeltioを選んでいる点だ。PBFは金属粉末を使うため、取り扱いに専用の設備や安全対策が必要で、艦内のような限られたスペースでは扱いにくい。粉末は爆発性があり、CNC機械と同じ空間に置けば機械を汚染するリスクもある。Meltioが使うのは溶接用のワイヤーであり、粉末よりも取り扱いが簡単で、CNCと同じ機械内に組み込める。さらに造形速度もPBFより速く、現場で素早く部品を仕上げる用途に向いている。
フィリップスはこの組み合わせを2025年6月、Meltio Engine BlueをHaas CNC機械に統合する形で初めて実現した、Meltioの世界初のパートナーだ。今回RIMPACに投入されるHaas TM-1Pは、その実績の延長線上にある構成だ。
Meltio Engine Blueの実際の構造を見ると、CNC機械のスピンドル脇に取り付けられる造形ヘッドは、出力1000Wの青色レーザー(450nm)を9個搭載し、重さは約80.5kg。空冷式で、工場出荷時にレーザーの位置調整が完了しているため、現場での再調整がほとんど不要という設計になっている。ワイヤーは、レーザーが金属を溶かしてできる小さな溶融池(溶けた金属の池)に向けて、レーザーと同じ軸線上から送り込まれる方式のため、材料のロスがほとんど出ない。対応する金属材料も、ステンレス、炭素鋼、ニッケル合金、チタン、銅合金など幅広い。これらの特性は、艦内という限られたスペースと人員で運用する上で、保守の手間を抑えられるという利点につながる。

AM Insight Asia の視点
RIMPACには、自衛隊を含むインド太平洋地域の31カ国の軍・組織が参加する。この検証が向き合っている課題、すなわち「サプライチェーンが必要な場所に届かない」という問題は、多くの参加国にとって戦時だけの問題ではない。
アジア太平洋地域は、世界で最も自然災害の頻度が高く深刻な地域のひとつだ。港湾や道路、工場が破壊されたとき、ボトルネックになるのはたいてい「完成品がどこかに不足している」ことではない。「交換部品や配管継手、補修用の部材を現地まで届けられない」ことだ。USS ESSEX自身、2011年の東日本大震災や2004年のインドネシア津波の際に、こうした救援活動を実際に担ってきた。
これは単なる軍事演習での実証ではない。「製造能力を送る」ことの検証なのだ。だからこそ、防衛の文脈を超えて、災害対応やインフラ復旧にも意味を持つ。行き先が紛争下の海岸であれ、被災した沿岸であれ、同じ発想が成り立つ。完成した部品を送るのではなく、それを作る力そのものを送るのだ。
DED(積層造形)と切削加工、そしてロボットアームによる可動性。この三つの組み合わせは、軍事・災害対応という「現場で作る」必要がある分野にとって、ひとつの標準的な構成になっていくのかもしれない。固定された工場の代わりに、必要な場所まで運べて、ニアネットシェープから仕上げまで完結できる一体型のシステムだ。部品を一から作ることも、摩耗・損傷した部品を補修することも、同じシステムでできる。
そしてこれは、DED市場の規模とその可能性の大きさを示唆している。
Source:
・Phillips Corporation Press Release: RIMPAC 2026 Military Exercise (Phillips Corporation)
・Havoc to Demonstrate Autonomous Systems Alongside U.S. and Allied Forces at RIMPAC 2026 (PR Newswire)
・Meltio Engine CNC Integration Kit (Meltio)
・USS Essex (LHD 2) arrives at Pearl Harbor for RIMPAC 2026 (DVIDS, Photo by Petty Officer 1st Class Brandon Roberson, U.S. Navy)





