Raise3D、量産を視野に入れた新シリーズを投入
7月1日、東京ビッグサイトで開幕した次世代3Dプリンタ展(ものづくりワールド東京内、会期7月1日〜3日)。Raise3Dのブースには、まだどこにも公式発表されていない2機種のFFF方式3Dプリンター、T450とT700が並んでいた。いずれも公式サイトやプレスリリースには載っていない状態での展示だ。AMIAは会場から一足先にLinkedInで一次情報を発信し、その数時間後、日本総代理店である日本3Dプリンター株式会社が公式サイトで告知記事を公開した。Raise3D本社によるグローバル発表はまだ行われておらず、時期は9月頃になる見込みだ。実機を間近で見た印象として、造形サイズの割に本体は無駄なスペースが少なく、スタイリッシュな筐体にまとまっている点も記しておきたい。
次世代3Dプリンタ展で確認したT450とT700のスペック詳細
T450・T700共通スペック
- 最大造形速度: 600mm/s
- 最大ヘッド移動速度: 1,500mm/s
- 最大加速度: 30,000mm/s²
- 駆動構造: 4WD CoreXY(4モーター駆動)
- 精度: IT11レベル
- ノズル温度: 最大420℃、PEEK/LCPを含む高性能ポリマーに対応(会場セミナーでのRaise3D説明による)
- フレーム材質: 航空宇宙グレードのジュラルミン
- 吐出方式: TwinFlow™によるシングルノズル・デュアル押出
T450固有スペック(新世代の主力モデル)
- 造形領域: 450×350×400mm(63L)
- 本体サイズ: 710×635×785mm
- 本体重量: 72.9kg
- 1日あたり最大生産量: 3.5kg
- 成功率: 98%(Raise3D社内実験データに基づく)
- 対応材料: PPA CF、PPS CF、PC、TPU-95Aなど産業用から試作用まで幅広い
- 無人生産対応: 20個以上のセンサーとAIデュアルカメラによる造形ミス自動検知、電子ドアロック
- 事前受注開始: 7月1日より
- 出荷開始: 10月以降を予定
T700固有スペック(大型一体成形モデル)
- 造形領域: 700×500×1000mm(350L)
- 本体サイズ: 964×792×1478mm
- 本体重量: 150kg
- 想定用途: 自動車部品や航空宇宙用内装部品など、これまで分割して作っていた大型部品の一体成形
- 正式販売開始: 2027年を見込む

TwinFlow™技術: なぜ高速化しても樹脂供給が追いつくのか
FFF方式3Dプリンターにはさまざまな駆動構造があるが、高速機で広く採用されているのがCoreXY方式だ。通常は1本のフィラメントを1つのノズルから溶融・押し出す構造のため、造形速度を上げるほど樹脂の溶融と供給が追いつかなくなるのが構造的な課題だった。

Raise3Dが両機種に搭載した「TwinFlow™」は、2本の材料経路を1本のノズルに集約するシングルノズルシステムだ。2本のフィラメントを同時に溶かして押し出すことで供給量そのものを増やし、高速造形時でも溶融が追いつくようにしている。この方式でのハイフロー吐出量は55mm³/s(シングル押出32mm³/sの約1.7倍)。ノズルが1つのため位置ズレが常にゼロで、キャリブレーションの手間もかからない。
2本を同時使用するモードとは別に、交互運用も可能だ。片方のフィラメントが尽きたら自動的にもう片方へ切り替わるため、材料交換の手間なく大型部品を最後まで連続造形できる。

4WD CoreXY: 高速化と精度を両立する駆動構造
TwinFlow™による高流量吐出を実際の造形速度に生かしているのが、4モーター駆動で構成される「4WD CoreXY」構造だ。従来のデュアルドライブCoreXYは、シングルベルト駆動による力の偏りや、高速走行時のベルトスリップによる精度低下が課題だったという。4WD CoreXYはこれを解消する設計で、均一な力配分により一点集中の応力を排除し、応答速度を30%向上させたとRaise3Dは会場セミナーで説明していた。600mm/sの高速造形時でもIT11レベルの精度を維持し、30,000mm/s²の加速度でも安定した出力を実現するとしている。
Raise3D側は「4WD CoreXY構造を採用した世界初の量産型3Dプリンター」と位置づけており、1個目から100個目まで一貫した精度を保証すること、現場での15万時間の造形実績で実証済みであることも会場で説明していた(いずれもRaise3D側の発表内容であり、AMIAが独自に検証したものではない)。


無人稼働を支えるAIセンサー群
量産設備として使うには、人が付きっきりで見ている必要がない稼働が欠かせない。T450・T700には20個以上のセンサーとAIデュアルカメラが搭載されており、造形中のトラブル(スパゲッティ現象など)やノズル詰まりをリアルタイムに検知する。フィラメント切れも自動検知して安全に一時停止するため、材料のムダや機器の破損を防ぐ設計だ。
造形中の予期せぬドア開閉を防ぐ電子ドアロックも備え、庫内の急激な温度低下によるプリント失敗を防止する。PLAなど低温素材の造形時には、自動開閉式の天窓(スマートトップウィンドウ)と冷却ファンが連動し、排熱・冷却を自動で行う。Raise3Dは会場セミナーで、これらの機能により人件費を60%削減できるとしていた(Raise3D社内実験データに基づく)。夜間の無人稼働にも対応するとしている。
実機の筐体側面には赤い非常停止ボタンが備えられているのをAMIAは会場で確認した。異常時に造形を即座に強制停止できる物理スイッチだ。またスペック表には停電復旧機能も明記されており、不意な電源断からその場で造形を再開できる設計になっている。無人稼働を掲げる以上、こうした物理的な安全機構とセットで語られるべき部分だろう。

なぜT700は350Lという大容量を実現できたのか
大容量の造形エリア自体は、技術的にはこれまでも実現可能だった。Raise3Dはすでに大型機RMF500(500×500×500mm)を展開しており、大きな箱を作ること自体は目新しくない。
課題は、造形エリアを大きくするほど1回の造形にかかる時間が伸びてしまう点にあった。つまりボトルネックは「箱の大きさ」ではなく「その大きさを埋めるのにどれだけ時間がかかるか」だったといえる。
T700が700×500×1000mm(350L)という規模を実用的な生産設備として成立させられた背景には、TwinFlow™による高流量吐出と、4WD CoreXYによる600mm/sの高速安定造形が先にあったと読める。大きくしたから速くなったのではなく、速くできたからこそ、大きくしても現実的な造形時間に収まるようになった、という順序だ(この因果関係の解釈はAMIAによる分析であり、Raise3D側が明言しているものではない)。

もう一つ見逃せないのが温度面の余力だ。造形エリアが大きくなるほど、また高流量で樹脂を溶かすほど、熱が奪われて温度が下がりやすくなり、これが反りや寸法誤差といった精度低下につながる。T450・T700はいずれもノズル最大420℃、チャンバー最大70℃という高い温度上限を備えている。会場セミナーでRaise3Dは、この温度上限の高さ自体が「熱容量のリザーブ(余力)」を生み、大量の樹脂を高速で溶かす際にも温度変動を抑えられると説明していた。実際の造形で常に420℃を使うわけではないが、上限に余裕があることで、大容量・高流量の造形時でも温度を安定させやすくなる、という理屈だ(この読み解きはAMIAによる分析であり、Raise3D側が精度への影響を明言しているわけではない)。
自動車部品や航空宇宙用内装部品のような大型一体成形部品を、分割・接着なしで実用的な時間内に作れるようにする、という狙いとも符合する。

日本3Dプリンター株式会社という存在
Raise3Dの国内総代理店を務める日本3Dプリンター株式会社は、2017年2月から総代理店として活動している。IDC社の調査によれば、Raise3Dは2018年・2019年のFFF方式プロフェッショナル3Dプリンターの日本市場シェアでNo.1を獲得した実績を持つ。
日本国内における現在までの累計導入実績は5,000台以上(公式サイトより)。装置販売にとどまらず、顧客の製造課題に踏み込んで提案するソリューション営業の強さが、この実績を支えてきたとAMIAは見ている。ブランドの初期段階から日本市場を開拓してきた蓄積が、企業からの厚い信頼につながっているといえるだろう。
AM Insight Asia の視点
中国ではすでに量産用途でのAM活用が当たり前になりつつある。その流れの中で、Raise3Dが「試作機」から「量産のための3Dプリンター」へ大きく舵を切ったことは、Asia市場全体でこの潮流が広がりつつある兆しとも読める。TwinFlow™による高流量吐出、無人稼働に対応するセンサー群、航空宇宙グレードの筐体。これらはいずれも、試作機を単に速くしたというより、量産設備として設計し直された跡を感じさせる。日本国内で5,000台以上を売ってきた実績ある代理店が、この新シリーズをどう市場に浸透させていくのかも見どころだ。
グローバル発表に先立って、実績ある日本市場でまず実機を披露したことにも、同様の狙いが透けて見える(この解釈はAMIAの推測であり、Raise3D側の公式な説明ではない)。9月頃に予定されるグローバル発表で、Raise3Dがこの新シリーズをどう位置づけて語るのか、AMIAは引き続き注視していく。
価格については、T450が日本円で約140万円、T700が約400万円という情報も入ってきている。これは未確定情報であり、正式発表時には変動する可能性がある点に留意してほしい。だが、もしこの価格感が実現するなら、話は早い。この造形品質とスペック、そして稼働の安定性に定評があるからこそ、競争の厳しい日本市場ですでに5,000台以上を売ってきたのがRaise3Dだ。その実績にこの価格が重なるなら、売れない理由が見当たらない。





