eSUN、Yum Chinaと開発した廃棄コーヒーかすを使用したマットPLAを7月発売

8月 6, 2026

PLA-Coffee filament alongside a planter and other desktop objects. | Image: eSUN

環境配慮素材の普及は商品のストーリーを必要としている最終製品市場にかかっている

深圳のeSUN(深圳市光華偉業股份有限公司)が、Yum China(百勝中国、KFC・ピザハット中国などを運営)と共同開発したバイオベースフィラメント「PLA-Coffee」を、7月30日に世界商業発売した。廃棄コーヒーかすを脱水・粉砕・改質してPLAに複合化し、FDM方式特有の積層痕を目立たなくするマット質感を実現する。環境負荷の定量データは公表されていないが、eSUNが20年近く積み上げてきたPLAリサイクル技術の延長線上にある取り組みでもある。

コーヒーかすとPLAを複合化、積層痕を目立たなくする効果

eSUNは7月30日、コーヒーかすを再利用したバイオベースフィラメント「PLA-Coffee」の世界商業発売を発表した。この製品は6月24日、北京で開催された中国国際サプライチェーン博覧会(CISCE)のYum Chinaブース内、サステナビリティ展示エリアで先行公開されていた。

製造プロセスは、日々発生するコーヒーかすを脱水・粉砕・改質した上で、生分解性PLAと複合化するというものだ。コーヒー由来の有機粒子が光の反射特性を変化させ、拡散反射効果を生む。これにより、通常のプラスチック特有の光沢が抑えられ、積層痕が目立ちにくいマット質感の仕上がりになる。人工染料を使わずに自然な土色のトーンが得られる点も特徴で、プランターやデスクトップオブジェなど、木質・暖色系のインテリアになじむ用途を想定している。印刷性や信頼性は通常のPLAと同等に保たれており、一般的なFDM 3Dプリンターとの互換性も確保されているという。eSUNによると、印刷中には穏やかなコーヒーの香りが立ち、造形工程自体が嗅覚を伴う体験になるという。なお、プレスリリース自体にはコーヒードリッパーなど食品接触が想定される器具も用途例として記載があるが、食品衛生基準への適合についての言及はなく、本記事ではこの用途には触れない。

この取り組みは、eSUNとYum Chinaの共同開発によるものだ。Yum Chinaは広範な店舗網を通じてコーヒーかすの回収・供給システムを提供し、eSUNが材料科学面での複合化技術を担当した。廃棄物由来原料を複合材料化する取り組みはeSUNにとって今回が初めてではなく、2002年の創業以来、創業者の楊義滸(Kevin Yang)氏が率いてきた技術路線の延長線上にある開発だ(詳細は後述)。

Yum Chinaは2017年からKFC中国のアプリ注文時に、使い捨てカトラリーの受け取りを辞退できる選択肢を導入したのを皮切りに、2019年にはリユース什器を展開して紙包装を年間2,000トン超削減、2021年以降は非分解性プラスチックを年間約8,000トン削減する目標を掲げるなど、継続的な廃棄物削減プログラムを進めてきた企業でもある。

複合材料としての技術的な難しさと、開示されない環境データ

コーヒーかすをPLAに複合化する際の技術的な難しさは、素材そのものが持つ高い水分量・油分と、PLAマトリックスとの相溶性の低さにある。eSUNのプレスリリースでも、この点への言及があり、単に粉末を混ぜ合わせるだけではない、複合材料としての改質作業が必要だったことがうかがえる。同社は木粉を複合化した「PLA-Wood」など、バイオコンポジット改質の分野で以前から技術蓄積を持っており、今回のPLA-Coffeeもその延長線上にある開発と位置づけられる。

一方で、eSUNは今回の発表において、処理するコーヒーかすの量やCO2削減効果といった定量的なデータを公表していない。訴求されているのは、質感や色味といった見た目の効果と、循環型社会への貢献という理念面が中心だ。世界のコーヒーかす発生量は年間1,800万〜2,300万トンと推計されており、FDM用フィラメントというニッチな市場が吸収できる量は、その中のごく一部にとどまるとみられる。

AM Insight Asia の視点

PLA-Coffeeのような製品は「環境負荷を実質的に減らせているのか、単なる話題づくりなのか」という二択で語られがちだ。しかし、この二択自体が粗すぎる、とAMIAは見る。少なくとも三つの異なる層に分けて考える必要がある。

一つ目は、廃棄物問題そのものへの直接的な効果だ。この点は正直、限定的だと言わざるを得ない。FDMフィラメント市場の規模を考えれば、Yum Chinaの店舗網から出るコーヒーかす全体からすれば、PLA-Coffeeが吸収できる量は誤差の範囲にとどまるだろう。ここを「大きな環境貢献」と表現すれば、それは誇張になる。

二つ目は、技術としての実質だ。ここは評価できる部分がある。コーヒーかすの高い水分量・油分・相溶性の低さという課題を克服し、印刷性を保ったまま製品化する作業は、化学リサイクル設備や特許を持つ企業だからこそ成立する開発だ。eSUNは2006年からPLAのリサイクル・高付加価値再利用の研究を続けており、2013年には湖北省孝感に年産5,000トンのラクチド合成設備を自社で構築、2023年には繊維メーカーを買収して生分解性繊維の閉ループ生産体制を整えている。Kevin Yang氏は自社メディアの取材に対し、今後は海外でもPLA化学リサイクル能力を広げていく方針を示しており、廃棄物由来原料の活用は一過性の企画ではなく、経営トップ自身が語る中長期戦略の一部と位置づけられる。PLA-Coffeeは、こうした20年近い技術蓄積の延長線上にある一手だ。

三つ目は、素材そのものが持つ「物語」を必要とする用途がどこにあるか、という点だ。3Dプリンティングの用途は大きく、コスト・強度・精度で選ばれる機能部品(治具、試作品など)と、見た目や世界観で選ばれる消費財・デザインプロダクトに分かれる。治具を作るのに、コーヒーかす入りフィラメントを選ぶ理由はない。つまり「廃棄物由来」「サステナブル」といったストーリーを必要とするのは、一般消費者が手に取る最終製品の領域に限られる。PLA-Coffeeがプランターやデスクトップオブジェといった用途に的を絞っているのは、この線引きを最初から織り込んだ製品設計とも読める。環境配慮素材がAM業界で本当に広がるかどうかは、素材の技術力そのもの以上に、AMの用途構成が機能部品中心から一般消費者向けの最終製品へどれだけシフトするかにかかっている。

三つの層を合わせて見ると、PLA-Coffeeは「大規模な環境問題の解決策」でも「意味のないポーズ」でもなく、技術力を持つ企業が、ストーリーを必要とする一般消費者向け領域を的確に選んで、循環型素材の可能性を実証してみせた事例、というのが実態に近い。

対象企業について

eSUN(深圳市光華偉業股份有限公司)は2002年設立、深圳を拠点とするバイオベース素材メーカー。2003年にポリ乳酸(PLA)バイオプラスチックへの注力を決定し、2007年には世界初となる商用PLA 3Dプリント素材を発売、現在は3Dプリント素材の世界的ブランドの一つとなっている。バイオメディカル、3Dプリント、エコ繊維、サステナブル包装の4分野を展開し、PLAの化学リサイクル技術や特許を保有する。2016年、中国のNEEQ(新三板)に上場(証券コード836514)。創業者・董事長(会長)・総経理(社長)は楊義滸(Kevin Yang)氏。

Yum China(百勝中国)は、KFC・ピザハットなどを中国国内で運営する外食大手。米Yum! Brandsから分離する形で2016年にニューヨーク証券取引所に独立上場し、2020年には香港証券取引所にも上場、2022年には両取引所でのデュアルプライマリ上場企業となった。2017年からKFC中国でカトラリー辞退の選択肢を導入したのを皮切りに、リユース什器の展開や非分解性プラスチックの削減目標など、継続的な廃棄物削減プログラムを進めてきた。