インドJindal Steel、プラントから回収したCO₂を3Dプリンティングで活用

8月 18, 2026

A photorealistic illustration depicting the CO2-to-3D-printing pathway described in Jindal Steel's report. | Image: AM Insight Asia

工場向け部品製作にとどまっていた鉄鋼業界が脱炭素でAM活用

インドの大手製鉄企業Jindal Steel Limited(旧Jindal Steel & Power Limited、BSE/NSE上場)が、2026年8月6日に開示した統合年次報告書(Integrated Report FY 2025-26)の中で、自社のDRI(直接還元鉄)プラントから回収したCO₂を活用し、3Dプリンティングで熱交換器などの部品を製造する仕組みを明らかにした。

CO₂から熱交換器部品へ、報告書が示す製造プロセス

Jindal Steelの年次報告書「Intellectual Capital」セクション、CCUS(Carbon Capture, Utilisation and Storage)に関する記述の中で、同社はCO₂回収を起点とした新しい部品製造の取り組みを紹介している。

DRI(直接還元鉄)プラントとは、高炉のようにコークスを使わず、ガスや水素で鉄鉱石から酸素を取り除き還元鉄を作る設備だ。使用するガスが天然ガスや石炭由来の合成ガスであれば、CO₂が発生する。Jindal Steelもこのタイプであり、発生したCO₂がこの取り組みに使われているとみられる。

回収したCO₂はセラミックス部品の成形までに複数の工程が必要になる。原料の一方であるCO₂は自社のDRIプラントから出たものである一方、もう一方の炭化ケイ素は(後述の通り)外部調達である可能性が高く、自社由来の副産物と外部素材を組み合わせて新しい製品を作る構図になっている。

SiSiC(シリコン含浸炭化ケイ素)は、炭化ケイ素(SiC)の隙間に金属シリコン(Si)をしみ込ませて作る素材で、熱に強く硬いのが特徴だ。半導体製造装置や精密部品などに使われている。

製造の流れを工程順に整理すると、以下のようになる。

  1. 自社のDRIプラントからCO₂を回収する
  2. 回収したCO₂をフォトバイオリアクター(光合成培養槽)に投入し、微細藻類バイオマスを培養する
  3. 培養した微細藻類バイオマスをバイオ炭素に変換する
  4. バイオ炭素を、リサイクルした炭化ケイ素と組み合わせる
  5. この混合材料を3Dプリンティングで加工し、SiSiCセラミックス製の熱交換器などの部品を製造する

一般的なSiSiCの3Dプリント製法(バインダージェット方式)は、以下のような流れをたどることが多い。

  1. 3Dプリンターが炭化ケイ素の粉末を薄く敷き、その上に部品の断面の形にバインダー(結合剤)を吹き付ける。これを一層ずつ繰り返して形を積み上げる。この時点ではまだ穴だらけで壊れやすい「グリーンボディ」と呼ばれる状態だ
  2. 熱を加えてバインダーを取り除く(脱バインダー)
  3. グリーンボディを1400度以上に加熱して溶かした金属シリコンに浸す。金属シリコンは炭素との濡れ性が良く、毛細管現象によって穴の中に自然に染み込みながら炭素と反応し、新しい炭化ケイ素を作りながら粒子同士を結びつけていく。この工程は「反応焼結」とも呼ばれる
  4. 穴が埋まり緻密になったものが、最終的なSiSiCセラミックスの部品となる

ただし、これはあくまで業界で一般的に使われている製法であり、Jindal Steelがこの手順(特にバインダージェット方式)を採用しているとは、報告書に明記されていない。

A diagram of the process, from captured CO2 to 3D-printed SiSiC ceramic parts, including the industry's typical finishing steps. | Image: AM Insight Asia
A diagram of the process, from captured CO2 to 3D-printed SiSiC ceramic parts, including the industry’s typical finishing steps. | Image: AM Insight Asia

Jindal SteelのCCUS戦略における位置づけ

この取り組みは、インド政府の支援を受けた「バイオファウンドリー」「バイオマニュファクチャリングプラットフォーム」構築の一環として進められており、Gujarat Biotechnology University、IIT Kharagpur、University of Alberta、University of Guelphとの共同研究にあたる。報告書にはこれとは別に、IIT KharagpurとIndo-German Centre for Science and Technologyとの間で「捕獲炭素を用いたセラミック積層造形プロトタイプ」に関する連携も、CCUSの戦略的学術協力の一覧に個別項目として挙げられている。

この取り組みは、同社がオディシャ州Angulに構想する「Jindal Steel CCU Valley」の一部にあたる。同社はこれを「世界最大級の統合型炭素回収・利用・貯蔵ハブ」の一つと呼び、3,600 TPDのCO₂回収能力を軸に、グリーンケミカルや鉱物化建材の生産などを含む循環型の炭素エコシステムの構築を目指すとしている。

同社はCCUSにおいて複数の取り組みを並行して進めている。BOFスラグを使った炭酸化トライアルでは8%超のCO₂回収を実証し、年間10万トン超のCO₂貯蔵ポテンシャルがあるとする。IIT Bombayと共同で進めるCO₂電気分解は、実験室での検証を終えパイロット規模の実装段階に進んだ。IIT Bombay、Carbon X Services、Schlumberger(SLB)と共同で進める地中貯蔵(ECBMR、炭層メタン回収との融合)は、Angul周辺の有望な地質構造の特定を進めている段階だ。3DプリントSiSiCは、この中で捕獲した炭素を高付加価値な製品へと転換する取り組みにあたる。

Jindal SteelはNet Zero 2047を掲げている。同社のAngul工場は、インド唯一の石炭ガス化ベースDRI製造ルートを採用しており、報告書は「世界初かつ最大の製鉄用石炭ガス化プラント」と位置づけている。このためCO₂回収とその有効利用は、同社にとって経営上の重要課題となっている。

なお、報告書には炭化ケイ素について「リサイクルされた(recycled)」との記載しかなく、その調達元は明記されていない。炭化ケイ素は研磨材や耐火材などで使われる素材で、同社の製鉄プロセス(DRI・高炉・製鋼)からは通常発生しないことから、自社工程内の副産物ではなく、外部から調達したリサイクル材である可能性が高い。

AM活用の位置づけ、鉄鋼業界における「初」

世界的な鉄鋼メーカーのAM活用を振り返ると、これまでの主軸は一貫して「工場で使う部品の製作」だった。

企業AM活用の主軸材料目的
ArcelorMittal(世界2位)自社工場のスペア部品製造、AM用鋼粉販売鋼鉄(316L、H13等)設備メンテナンス効率化、新規事業(鋼粉)
Nippon Steelグループ子会社による金型製作等鋼鉄間接的・限定的
Jindal SteelCO₂回収→バイオマス→3Dプリントで熱交換器部品製造セラミックス(SiSiC)脱炭素(CCUS)の一環としての新規製品開発

ArcelorMittalは2018年から自社工場向けに年間10トン、1,600種類の鋼鉄部品をAMで製造し、2024年にはFrankstahlとの合弁「TheSteelPrinters」を設立するなど、業界の中で最もAMに投資してきた企業の一つだ。しかしその焦点は一貫して「自社工場の運用効率化」にあり、対象材料も鋼鉄にとどまる。Nippon Steelのグループ子会社による金型製作等も、位置づけは同様に間接的・限定的なものだ。

Jindal Steelのケースはこの構図と異なる。AMを工場運用の効率化ツールとしてではなく、捕獲したCO₂を高付加価値製品に転換する「脱炭素インフラの出口」として位置づけている。しかも、この記述が展示会でのデモやプレスリリースではなく、投資家・規制当局向けの監査済み法定開示書類に載っている点が重要だ。POSCOやChina Baowu等、他の主要鉄鋼メーカーの脱炭素戦略を確認した限りでも、同様の事例は見当たらない。これまで鉄鋼業界のAM活用は工場内の部品製作という実務レベルの話にとどまっていたが、Jindal Steelは脱炭素という経営アジェンダの中に、年次報告書レベルで正式に組み込んでみせた。

AM Insight Asia の視点

これは単なる技術トピックの一つではなく、AMが鉄鋼業界の中でどう扱われ始めているかを示す変化だ、とAMIAはみる。

これまでAMは鉄鋼メーカーにとって「工場の運用を効率化する道具」であり、経営メッセージの中心に据えられることはほとんどなかった。ArcelorMittalの取り組みも実務的な発表が中心で、投資家向けの経営アジェンダとして扱われてきたわけではない。Jindal Steelの記述が示すのは、AMが「脱炭素という、投資家が最も注視する経営テーマ」の実装手段の一つとして、法定開示書類に書き込まれ始めたという事実だ。デモやプレスリリースは撤回や修正が容易だが、監査済みの年次報告書に記載された内容は、経営陣が投資家・規制当局に対して行った正式なコミットメントに近い重みを持つ。

これは製鉄業界に限った話ではない可能性がある。化学、エネルギーといった他の重厚長大産業でも、脱炭素目標の実装手段としてAMが法定開示に組み込まれる事例が今後増えるなら、AM業界にとっての顧客層や資金の流れ方も変わってくる。これまでAM企業が重厚長大産業にアプローチする際の入口は「工場の運用改善」だったが、「脱炭素戦略の実装パートナー」という、より経営層に近い入口が開きつつあるのかもしれない。

一方で、技術的な中身はまだ薄い。使用するAMプロセス、実用化段階、設備投資規模、商業化のタイムラインはいずれも記載がなく、この取り組み自体が確立された生産ラインなのか、初期段階のものなのかは判断できない。それでも、この段階でわざわざ法定開示に書き込んだこと自体に意味がある。

対象企業について

Jindal Steel Limited(旧Jindal Steel & Power Limited)は、インドの大手統合型製鉄企業の一つで、BSE(スクリップコード532286)およびNSE(シンボル:JINDALSTEL)に上場している。World Steel Association(世界鉄鋼協会)の2025年ランキングでは世界48位(粗鋼生産量871万トン)で、Tata Steel Group(世界10位)、JSW Steel Limited(世界11位)に次ぐ、インド国内では中堅クラスの製鉄会社に位置づけられる。粗鋼生産能力は15.6 MTPA(百万トン/年)で、オディシャ州Angul、チャッティースガル州Raigarh、ジャールカンド州Patratuに主要な生産拠点を持つ。鉄鉱石・石炭の自社権益、ペレット製造設備、自家発電設備(発電能力2,684MW)を含む垂直統合型の事業モデルを展開している。同社はNet Zero 2047を掲げ、CCUS(炭素回収・利用・貯蔵)を経営上の重要課題の一つとしている。