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壊れた3Dプリントシューズから学んだこと

10月 24, 2026

A crack runs from the apex of the V-shaped opening toward the toe | Photo: AM Insight Asia

製品に本当に必要なものは何か、同じ素材、同じ機械でも設計次第で結果は変わる

約2万6000円で買った3Dプリントシューズが、1年半で壊れた。LinkedInに壊れた靴の画像と2行だけを載せたその投稿は2日間で4万1000超のインプレッションを集め、AMの専門家、デザイナー、設計者、材料や3Dプリンターのプロ、製造業の人、研究者からコメントが寄せられた。私の返信も含め、やり取りは136件にのぼった。これは特定の企業を取り上げる記事ではない。これだけ多くの人が関心を寄せた議論を、LinkedIn内の細切れの情報のままにしておくのはもったいないと思い、記事としてまとめることにした。壊れたのはソールではなくアッパーで、私はその原因を設計にあると考えている。ちなみに私は設計や製造の専門家ではまったくなく、AM専門メディアのひとりのジャーナリストにすぎない。その点はご承知おきいただきたい。

2行の投稿と、頭の中にあったフェイルセーフ設計

投稿したのは「My 3D-printed shoes just broke…」で始まる2行と、壊れた靴の画像だけだ。ただ、この投稿には前段がある。10月8〜9日に東京で開かれたCDFAM Tokyoに、主宰するDuann Scott氏の好意で、ボランティアとして参加させてもらった。さまざまな講演を聞くなかで、ふと頭に浮かんだことがある。最適化とは、すべてが想定どおりの完全な状態を前提にした話ではないか。想定外のちょっとした破損が起きたとき、その完全な状態は一気に崩れ、破綻してしまうのではないか。局所的に損傷しても構造が荷重に耐え続けられるように最適化する、フェイルセーフ・トポロジー最適化への興味は、そこから生まれた。

靴が壊れたのは、その考えが頭にあったさなかだった。しかも、シンガポールで開かれるGlobal AM Summitに参加する前日のことだ。運よく、いや運悪く、ちょうどいい事例が文字どおり足元で起きた。

その事例を共有しようと投稿したところ、想定外の反響があった。実務に携わるプロが集まるLinkedInだったこともあり、届いた意見はどれも勉強になるものばかりで、できる限り返信させてもらった。

アッパーの口周りから裂け、ソールはほぼ無事だった

靴はレジンで一体成形されたラティス構造のものだ。耐久性を確かめたくて、2日に1回のペースで意識して履き続けた。ただし冬は寒すぎて、ほとんど履いていない。

ソールに大きな問題はない。外周部がほんの少し破損しているが、歩行によるものか段差によるものか、わからない程度だ。

Minor damage on the outer edge of the sole, whether from walking or from a step is hard to tell | Photo: AM Insight Asia
ソールの外周部にある小さな破損。歩行によるものか段差によるものかはわからない | Photo: AM Insight Asia

アッパーも、つま先寄りの甲の部分は歩くたびに折れ曲がる場所だが、まったく問題がない。

The toe-side instep, which flexes with every step, shows no problems at all | Photo: AM Insight Asia
歩くたびに折れ曲がるつま先寄りの甲の部分には、まったく問題がない | Photo: AM Insight Asia

壊れたのは、V字型になった足を入れる口の周りだ。一度ヒビが入ると、それを食い止めるものがなく、裂け目はそのまま広がっていった。

裂け方には、はっきりしたパターンがある。裂け目は口のV字の頂点から、つま先に向かって斜めに伸びている。ラティスは山と谷の組み合わせでできているが、破断しているのは谷の頂点の部分だ。

材料でも造形でもなく、設計だと考える理由

原因として考えられるのは、材料、造形、設計の3つだ。使い方の影響もあるだろうが、アッパーに想定外の大きな負荷がかかるような使い方をしたとは考えにくい。ソールであれば、その可能性もあるのだが。

材料ではないと考えるのは、同じ素材でできたソールがほぼ無事だからだ。アッパーも、先に書いたように歩くたびに折れ曲がるつま先側はまったく問題がない。ソールは地面からの衝撃を、アッパーは歩くたびの曲げを、ラティスがしっかりと分散、吸収している。問題が起きたのは、足を入れる部分だけだ。

造形でもないと考えるのは、ソールとアッパーが同じ機械で一体で造形されているからだ。

残るのは設計である。鍵になるのが、口のV字型の形だ。デザイン性と足の入れやすさを考えたのだろう。しかし足を入れるとき、この部分にはつま先に向かって強い力がかかる。

Putting the shoe on pushes the opening hard toward the toe | Photo: AM Insight Asia
足を入れるとき、口の部分にはつま先に向かって強い力がかかる | Photo: AM Insight Asia

足がスポッと入るほど口が広ければ、履いたときにゆるゆるになってしまうからだ。そしてこの力は、V字の形に沿って斜め前の左右へ流れると考えられる。するとV字の頂点は、左右逆方向に引っ張られる力が集まる、応力集中の起点になる。裂け目が始まっていたのは、まさにこの頂点、口の縁取りが左右から合わさる付け根だった。履くときほどではないにせよ、歩くたびに足首が曲がるので、ここには同じような力がかかっていると想像できる。

he force toward the toe flows diagonally forward to the left and right along the V, converging at its apex | Photo: AM Insight Asia
つま先に向かう力はV字に沿って斜め前の左右へ流れ、頂点に集まる | Photo: AM Insight Asia

ラティスの谷の頂点も、小さなV字と同じく力が集まりやすい形をしている。大きなV字の頂点で始まった亀裂が、小さな谷の頂点をたどって進んだと考えられる。

The lattice has fractured at the apexes of its small valleys | Photo: AM Insight Asia
ラティスの破断は、細かな谷の頂点の部分で起きている | Photo: AM Insight Asia

さらにフェイルセーフの視点で見ると、この靴は損傷が起きた後のことを考えた構造には見えなかった。一体構造であるがゆえに、一度入ったヒビを止める場所がないように見える。同じラティス構造が続いていて、途中で強度が上がる部分などがないからだ。たとえば口の縁がもう少し太かったら。あるいは、細いラティスと太いラティスが組み合わさっていたら。フェイルセーフが働き、履けなくなるほどの裂け目にはならなかったかもしれない。

コメントでも、ここは意見が分かれた。ラティスの無数の接合点が疲労破壊の起点になり、曲げが繰り返されるたびに応力が集中するという、設計を疑う指摘があった。一方で、3Dプリントのポリマーは射出成形品とは疲労特性も長期耐久性も違う、造形方向による異方性や紫外線による劣化もありうる、と素材側の要因を挙げる声もあった。裂け目の写真から、引張荷重による安定した亀裂進展だと読み解いた研究者もいた。

素材の要因が重なっている可能性は否定しない。それでも主因は設計だと考えている。誰もがソールに注目するが、アッパーは見落とされていたのかもしれない。

AM Insight Asia の視点

AMの関係者であり、メディアの人間でもある私は、この破損をそれほど気にしていない。気になるのは、一般の消費者だったらどう受け止めるかだ。

コメントには、1年半なら妥当だという声もあった。普通のスニーカーでも半年から1年で壊れる、という意見だ。確かにそういう靴もあるだろう。しかし普通は、数千円の靴でも何年ももつ。1年半で壊れた靴は、私にとって初めてだ。5000円ほどのスニーカーを5年以上履いているものもある。1年半を妥当とみるのは、技術を知る専門家だからこその評価ではないか。約2万6000円の靴を、その寿命を承知のうえで買う一般消費者がどれだけいるだろう。「3Dプリンターで作られた靴だから楽しめた」で納得できるのは、技術に関心のある一部の人に限られるのではないか。期待して買った人ほど、裏切られたと感じるはずだ。その感想は「3Dプリントシューズはだめだ」にとどまらず、「3Dプリントは使えない」という評価にまで広がりかねない。

9月のFormnext Asia Shenzhenのレポートでも、会場の3Dプリントシューズの展示は色や形、デザインが中心で、耐久性や履き心地をデータで示す展示はほとんど見当たらなかったと書いた。仕様や機能よりもデザインが優先されているという印象は、今回の破損でいっそう強くなった。

だからこそ、設計とは何か、製品を作るとはどういうことなのかを問い直したい。機能や見た目の設計だけでは足りない。どれくらいもつのか、どう壊れるのか、壊れたときに使う人が納得できるのか。製品としてどうあるべきかまで含めて考えることも、設計の一部だと私は思う。そんなことは当たり前だと言われるかもしれない。しかし3Dプリントシューズに限らず、3Dプリンターはものづくりのハードルを下げた。それは良い意味でも、悪い意味でもある。製造のプロではない人が、簡単にものを作れる時代になったのだ。製品に本当に必要なものを決めるのは、素材でも機械でもなく、その設計である。

私個人は、ものづくりの挑戦にはこういうこともあるのだろうと受け止めている。それでも、次に3Dプリントシューズを買うハードルは、自分の中で少し上がった気がする。この1足の破損が、3DプリンターやAM業界全体の評価につながらないことを願っている。