得体の知れない安心感の正体
2026年6月10日、東京ポートシティ竹芝ポートホールにて、株式会社ストラタシス・ジャパン主催による招待制プライベートイベント「ストラタシス・デー 2026」が開催された。
今後、取材記事がいくつも出てくるだろう。登壇各社の発表内容を丁寧にまとめた、いつものイベントレポートが。私も発表は全て録音し、スライドも全て撮影した。でも今日、私がこの場所に来た本当の理由は別にある。
長年、ある疑問が頭から離れなかった。Stratasysは高い。材料も高い。サポートも高い。単なるイメージの話かもしれない。それでもなぜ、日本の大手製造業はStratasysを選び続けるのか。複数のユーザーに聞き出そうとしても、みんな口々に同じことを言う。「確かに金額だけ見ると高い。でも結局最後はStratasysじゃないとダメなんだ」。意味不明だ。答えになっていない。まるで宗教のようだ。
それでも何度も感じるあの感覚。得体の知れない安心感。それは一体どこから来るのか。今日こそその答えを見つけようと思っていた。
イベント概要
株式会社ストラタシス・ジャパン代表取締役社長Sunil Sharma氏の開会挨拶に続き、プロダクトソリューション部マネージャー竹内翔一氏から最新製品アップデートが発表された。


その後、Toyota Motor North AmericaのWilliam Dallas Martin氏によるアディティブ製造の取り組み、信越化学工業による3Dプリンタ向けシリコーン材料の開発動向、型技術事務所モートによる自動車内装部品成形型への活用事例と続いた。



ポスターセッションではアース電機株式会社、小川峰株式会社、株式会社キャステム、株式会社トムス、株式会社トライテック、日産自動車株式会社、ホッティーポリマー株式会社、八十島プロシード株式会社、株式会社型技術事務所モートの9社が参加した。Stratasys Ltd.最高収益責任者Andreas Langfeld氏も会場に姿を見せた。

Stratasysという会社の今
このイベントが開催されるわずか8日前の2026年6月2日、Stratasysは米ミネソタ州ミネトンカに20万平方フィートの新しい北米本社「ARCH」を開設した。FDM(熱溶解積層法)の発明者でStratasysの共同創業者であるScott Crump氏も式典に出席した。
同社は現在、定価2万ドル以上の樹脂3Dプリンター世界市場で約25%のシェアを持つNo.1企業であり、上場AM企業の中で唯一継続して利益を出している。5つの主要な造形技術(FDM、PolyJet、SAF、DLP、SLA)と180種以上の材料を自社ポートフォリオに持ち、試作から最終部品の量産まで対応できる体制を整えている。
また2026年、同社は防衛・航空宇宙領域に強みを持つMarkforged, Inc.の買収を発表した。製造領域への本格的なシフトをさらに加速させている。
こうした動きを見ると、Stratasysが単なる3Dプリンターメーカーではなく、製造業のインフラそのものを目指していることが見えてくる。
Stratasys Day 2026、機械は必ず壊れる。重要なのはその後だ
今日の講演で最も印象に残ったのは、Toyota Motor North AmericaのWilliam Dallas Martin氏の発表だった。
Martin氏は講演の中で、アポロ13号の有名な言葉を借りてこう切り出した。
「Houston, We have a problem…!」
J850/J750で実際に起きたヘッド詰まりの問題。250〜450時間後に発生するその問題に対し、Stratasysはセグメントリーダーへの連絡から始まり、アプリケーションエンジニアが現場に入り、イスラエル本社のR&Dチームとホワイトボードを囲んでブレストを重ね、2週間以内に解決策を搭載した。
機械は必ず壊れたり問題が起こるものだ。でも実際はその後に何が起こるだろう。一度経験すると忘れられない体験だ。周りからのプレッシャー、焦り。そんな時にチームとして誰が近くにいるかが重要だ。
Martin氏はアディティブ導入を目指す企業へのアドバイスとして、真っ先にこう挙げた。「Customer first mindset、顧客第一の姿勢」。機械でも技術でもなく、まず顧客を見ろということだ。そして皮肉なことに、そのアドバイスを最も体現しているのがStratasys自身だと気づく。彼がいる工場では、稼働している機械の9割がStratasysだという。言葉と行動が完全に一致している。
3Dプリンターを動かすことが目的ではない
休憩時間にSharma社長に直接聞いてみた。なぜみんなStratasysを選ぶのか、何が優れているのかと。
社長の答えはシンプルだった。「本当に顧客を見ているから」。
海外の話か、日本の話かと聞くと、両方だという。ただ日本は海外よりも要求が細かい、大変だ。でも日本で成し遂げられれば世界で通用すると思っていると。
北米トヨタのエンジニアが「Customer first mindset」と言い、日本法人の社長が「本当に顧客を見ている」と言った。二人は示し合わせたわけではない。でも同じ答えが返ってきた。
製造現場のユーザーが3Dプリンターに求めているのは、造形のスペックだけではない。彼らの本業は、新しい製品を開発すること、工場のラインを止めないこと、ビジネスを前進させることだ。3Dプリンターはそのための道具に過ぎない。その道具が止まった時、誰が一緒に問題を解決してくれるのか。それが問われている。
AM Insight Asia の視点
Stratasys Day 2026に参加して見えてきたことがある。本当のユーザーエクスペリエンスとは何だろうと。
自分たちのやりたいことができるスペックが必要というのは当然だ。スペックが足りなければそもそも課題を解決できない。ただそれは3Dプリンターという機械だけの話ではない。竹内氏の話でも出たが、ソフトウェアもあり、素晴らしい材料も必要だ。
しかしそれだけではない。そんなものは当然の話だ。Stratasysがこれだけ選ばれているのには理由がある。同じようなスペック、さらに安い機械は溢れている。激しいビジネスの中で、高いハードルを越えようとしている本当の現場で求められているユーザーエクスペリエンスは、その当然のことにプラスされた、チームとして一体となって問題の解決に寄り添ってくれる企業姿勢なのかもしれない。彼らは信頼できるパートナーというものに価値を見出している。
ユーザーは3Dプリンターを動かしたいのではない。その先にある自分たちのゴールを越えたいのだ。その目線の中に、造形があるだけだ。






