コミュニティとの共生を加速、他のメーカーは追随するのか?
先日AMIAは、SnapmakerによるFull Spectrum開発者Ratdouxの採用をSnapmakerがRatdouxを採用。企業とコミュニティの共創が再び動き出すで報じた。
その記事の中でも触れたように、Snapmakerはオープンソースコミュニティとの完全な共生関係を築こうとする動きを加速させている。2026年6月10日に発表された「Snapmaker Innovation Fund」は、その流れをさらに明確にするものだ。総額15万ドル。U1エコシステムを支えた開発者への創設スポンサー枠5万ドルと、世界中の開発者・メーカーが応募できるオープンコンペティション10万ドルの2本立てで構成される。同社初のコミュニティ主導型イノベーションファンドであり、オープンコンペの応募受付はすでに開始されている。
2つの枠組み:創設スポンサーとオープンコンペ
ファンドは2つの枠組みに分かれる。
創設スポンサー(5万ドル) U1エコシステムの形成に貢献した6プロジェクトに対してすでに資金提供が確約されており、今後12〜24カ月にわたって毎月支援が提供される。応募プロセスはなく、受領者はSnapmakerが事前に選定した。
- Klipper 3Dプリンターのファームウェア。従来のファームウェアがプリンター本体のマイクロコントローラーで処理を行うのに対し、Klipperは複雑な計算をRaspberry Piなどのホストコンピューターにオフロードする独自のアーキテクチャを採用。これによりInput ShapingやPressure Advanceといった高度な制御機能が実現し、高速・高精度な印刷が可能になる。U1のファームウェア基盤として採用されている。
- Moonraker KlipperのAPIレイヤー。Klipperはそれ単体では外部からの操作インターフェースを持たないが、MoonrakerがREST APIとWebSocket APIを提供することで、ウェブインターフェースや外部ツールとの連携を可能にする。FluiddやMailsailなどのフロントエンドはMoonraker経由でKlipperと通信する。
- Fluidd KlipperとMoonrakerをベースにしたウェブインターフェース。ブラウザから3Dプリンターの操作・監視・設定変更をリアルタイムで行える。軽量でレスポンシブな設計が特徴で、U1のコントロールインターフェースとして機能する。
- OrcaSlicer BambuStudioとPrusaSlicerをベースに開発されたオープンソーススライサー。高度なキャリブレーションツール、精密なウォールとシームの制御、ツリーサポート、アダプティブスライシングなど多数の革新的機能を備え、現在最も広く使われるオープンソーススライサーに成長した。SnapmakerはこれをフォークしてU1専用の「Snapmaker Orca」として提供している。
- Full Spectrum Ratdoux(Radu)が開発したOrcaSlicerのフォーク。フィラメントの層を交互に積み重ねる視覚的色混合技術により、3〜4色のフィラメントから物理的な色数を超えた広範な色表現を実現する。U1のツールチェンジャーアーキテクチャと組み合わせることで初めて実用的となった技術で、現在Snapmaker Orcaに正式統合されている。RatdouxはSnapmakerに採用され、引き続きAGPL-3.0ライセンスのもとで開発を続けている。
- Surface Color Stitch ベテラン開発者Neotko(Sebastian Sucho)が開発したスライサー拡張機能。OrcaSlicerの「Ironing」(表面平滑化)機能の発明者としても知られる彼が、Full Spectrumと連携する形で2026年4月にリリースした。トップサーフェスを独立したレイヤースタックに分解し、ColorMix(ストライプパターン)、PathBlend(グラデーション)、Neoweaving(レイヤーインターロック)などの機能で多色テクスチャや特殊表面仕上げを可能にする。U1の多ツールヘッド機能を最大限に活かすためのツールとして開発されている。
これらはいずれもU1が今日の姿になるために不可欠だったプロジェクトだ。
オープンコンペティション(10万ドル) 各5万ドルの2フェーズ制で運営される。世界中の開発者およびU1ユーザーであれば誰でも参加できる。U1を持っていなくても、優れたアイデアがあればSnapmakerに連絡することで機材提供の可能性もあるとFAQには記載されている。
- フェーズ1(5万ドル):2026年6月9日〜9月7日受付、受賞者発表9月30日
- フェーズ2(5万ドル):2026年10月1日〜12月31日受付、受賞者発表2027年1月22日
Snapmaker Innovation Fundへの応募方法と審査基準
賞金構成(各フェーズ)
- U1 Pioneer:3名(各5,000ドル)
- Eco-Enhancer:7名(各3,000ドル)
- Active Builder:10名(各1,500ドル)
受賞者全員にバッジと証明書、公式SNSでのスポットライト掲載、Snapmaker新製品へのベータアクセスが付与される。受賞者は成果物のIPを完全に保持する。
応募方法
- プロジェクトを制作し、GitHubなどの公開プラットフォームに公開
- SnapmakerのFacebookグループ、Reddit、Discord、フォーラムのいずれかでシェア
- 専用フォームから応募
対象はスライサープラグイン、ファームウェア、ハードウェア改造、ワークフロー、アクセサリーなど幅広い。U1専用の開発に限らず、旧来のSnapmakerハードウェアへの対応や、より広いメーカーコミュニティに恩恵をもたらすツールも歓迎されている。
審査基準
- テック委員会による評価:80%(Snapmakerのプロダクト・エンジニアリングチーム+業界とコミュニティの専門家)
- コミュニティ投票:20%
評価軸は「革新性と技術的深度」「オープン性と品質」「実用性とコミュニティへの適応性」の3点だ。
AMIAの問いに、Snapmakerが答えた
なぜ今オープンソースコミュニティとの関係を深めるのか
「U1はコミュニティのプロジェクト、OrcaSlicer、Klipper、Moonraker、Fluiddの上に成り立っている。還元することは単純に正しいことだ。このファンドは1年以上前から計画していた。タイミングについて言えば、記録的なKickstarterとその後の生産マラソンを経て、ようやくきちんとやれる余裕が生まれた最初の瞬間だ。そしてSnapmakerの10周年でもある。それを可能にしてくれた人たちに報いる以上に良いお祝いの仕方はない。」
なぜ受賞者がIPを完全保持できる設計にしたのか
「これは私たちのコアバリューだ。自分たちが得意なことに集中する。私たちはマシンを作る。コミュニティは私たちが思いもしないものを想像する。私たちはパートナーであり、買収者ではない。IPを保持する開発者はモチベーションを保ち、エコシステム全体が強くなる。私たちも含めて。」
世界のメーカーコミュニティへのメッセージ
「Snapmakerがこの10年で築いてきたものはすべて、このコミュニティと一緒に作ってきた。だから言いたい。Make Something Wonderful。そして本当に素晴らしいものを作ったなら、ちょっとしたインセンティブとして、10万ドルがテーブルの上で待っている。」
AM Insight Asia の視点
KickstarterでU1が記録的な資金調達を達成し、中国大手VCからのSeries Bも完了した。事業として勢いに乗る今、Snapmakerはコミュニティへの還元に動いた。企業とオープンソースコミュニティの関係が一部で崩れ始めている中での動きは、業界において際立っている。傍から見ればマーケティング施策に映るかもしれない。だが彼らにとってこれは、受け取ったものを返すという至極当たり前のことだ。そうやって彼らは10年間成長してきた。
「Make Something Wonderful」
この言葉が示すマインドは、製品だけでなくコミュニティへの向き合い方にも貫かれている。
Ratdouxの採用からInnovation Fundへ。一連の動きは偶然ではない。Snapmakerは今、コミュニティとの共生関係を言葉ではなく行動で示そうとしている。他のメーカーがこの動きに追随するかどうかは、まだ誰にもわからない。
フェーズ1の応募受付は現在進行中で、締切は2026年9月7日。詳細はSnapmaker Innovation Fundの公式ページで確認できる。
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