3Dプリンターの「家電化」へ、動き出すタイのコンシューマー市場
中国の消費者向け3DプリンターメーカーBambu Labは2026年7月1日、バンコクの商業施設サイアムパラゴンにタイ初となる「Bambu Lab Authorized Premium Store」を開設した。同社のタイ事業は前年同期比で2倍超に成長している。2025年9月に深センで始めたモール型の体験店舗を、東南アジア屈指のプレミアムモールに持ち込んだ形であり、3Dプリンターを家電のように店頭で売る戦略が国境を越えて動き出した。
サイアムパラゴンに1号店、日常生活での活用を前面に
Bambu Labの発表によると、新店舗はメイカー(ものづくり愛好家)だけを対象にした売り場ではない。教育、創造的な学習、ホームデコレーション、収納・整理用品といった日常生活での3Dプリンティング活用を体感できる空間として設計されている。店内ではハードウェア、ソフトウェア、そしてオンラインコミュニティ「MakerWorld」までを含む同社のエコシステム全体に触れることができる。

3D Studio提供の写真からは、その狙いが売り場のつくりに表れていることが見て取れる。円形のガラス張りファサードに光るロゴを掲げた店構えは、専門機材の店というよりコスメやアクセサリーのブティックに近い。入口では3Dプリントされたゴールデンレトリバーのマスコットが客を迎え、壁面には色とりどりのフィラメントが棚一面に並ぶ。モールを歩く買い物客が思わず足を止める店になっている。率直に言って、この店舗設計と、そこに至る戦略の組み立てには脱帽する。

新華社の報道によると、Bambu Labとタイの公式販売代理店3D Studioは来月、サイアムパラゴンでワークショップとメーカーズマーケットを組み合わせた一般向けイベントを開催する予定で、デジタルデザインからプリント、組み立てまでの一連の制作プロセスを来場者が体験できるという。
タイ事業は前年同期比2倍超、東南アジア最速級の成長
Bambu Labによると、タイは同社にとって東南アジアで最も成長が速い市場の一つであり、タイ事業は前年同期比で2倍超に拡大した。創作活動への関心と、日常生活での実用という両面で消費者の関心が高まり続けていることが背景にあるという。
3D StudioのSharnon Tulabadi CEOは新華社の取材に対し、数年前まで3Dプリンターの操作には相応の技術知識が必要だったが、中国企業が技術を格段に使いやすくしたことで、家族、学生、ホビイストにまで利用者層が広がったと語っている。同氏は、事業の狙いはプリンターの販売にとどまらず、収納用品やパーソナライズされた小物、教育プロジェクトなど、生活の中での実用的な使い道を消費者に見つけてもらうことにあるとしている。

深センの旗艦店から9カ月、「モールで売る」戦略の海外展開
Bambu Labは2025年9月30日、深セン・南山区のショッピングモール内に初の直営旗艦店(244平方メートル)を開設した。3Dプリンターメーカーが専用の小売店舗を構えるのは業界初とされ、同社は開業時に海外を含む店舗網の拡大計画を表明していた。バンコク店はその約9カ月後の出店となる。
ただし、両店舗の形式は異なる。深センが直営の「Flagship Store」であるのに対し、バンコクは「Authorized(公認)」を冠したプレミアムストアで、現地代理店3D Studioとの協業型だ。ブランドが設計した体験型店舗のフォーマットを、現地パートナーの販売網と組み合わせて展開する構造である。
AM Insight Asia の視点
この出店が示すのは、Bambu Labの競争軸が製品性能から「売り方」へ広がりつつあるという変化である。プレミアムモールの店頭に3Dプリンターを並べる行為は、想定顧客を「作る人」から「買い物客」へ広げる再定義にほかならない。スマートフォンや家電と同じ棚に立つことで、3Dプリンターは専門機材ではなく消費財として認知され始める。
注目すべきは店舗フォーマットの2階建て構造だ。本国では直営旗艦店でブランド体験を統制し、海外では公認プレミアムストアとして現地代理店に運営を委ねる。これはAppleが直営店と公認リセラー網を使い分けてきた構造に近く、消費者向けAM企業がこの流通モデルを国際展開するのは初めてとみられる。体験型店舗を低資本で複製できるこの仕組みが機能すれば、タイに続く第2、第3の市場への展開は速いかもしれない。
もう一つの含意は市場の多極化である。米国では関税や、Stratasysとの特許訴訟(2026年半ばに主要判断が見込まれる)といった不確実性がBambu Labに残る。その中でタイをはじめとする東南アジアの成長は、北米に依存しない第二の成長軸になり得る。欧米や日本のAM企業が産業用途に集中する間に、中国勢は一般消費者を起点に、3Dプリンティングの利用者層そのものを押さえにいっている。デスクトップ3Dプリンターの価格とエコシステムで既に劣位にある競合にとって、流通チャネルという新たな戦線が加わったことになる。
対象企業について
Bambu Lab 深センに拠点を置く消費者向け3Dプリンターメーカー。DJI出身のエンジニアらが2020年に創業し、2022年に初号機「X1」をKickstarterで発表した。2024年には消費者向け3Dプリンターで世界最多の販売を記録。プリント用モデルを共有するオンラインコミュニティ「MakerWorld」を運営する。親会社は深セン拓竹科技(Shenzhen Tuozhu Technology)。
Website: https://bambulab.com
3D Studio Bambu Labのタイにおける公式販売代理店。バンコクを拠点に、3Dプリンター本体からフィラメント、アクセサリーまでを扱い、販売と技術サポートを一体で提供する。
Website: https://www.3dstd.com





