RosatomとPetrovietnam、ベトナムにAMセンター設立へ

7月 10, 2026

Signing ceremony at a Vietnam-Russia trade and investment networking event | Photo: Rosatom

ベラルーシ、インドに続く3例目。ロシア製AMの一括輸出モデルが、西側と中国の競う東南アジアにも進出

ロシアの国営原子力企業Rosatomの燃料部門とベトナムの国営石油ガス会社Petrovietnamは6月30日、additive manufacturing(AM)分野の協力覚書を締結した。中核となるのは、ベトナム国内へのアディティブ技術センターの設立である。入口は石油ガス設備のスペアパーツ製造だが、Rosatom側は3Dプリンター組立の現地化と東南アジア展開まで視野に入れていると明言しており、単発の輸出案件にとどまらない広がりを持つ。

掘削・ポンプ設備の部品を現地でAM製造

覚書によれば、センターは産業用3Dプリンティングを用いて掘削・ポンプ設備向けの複雑な部品を製造する。迅速なプロトタイピングによって設備のダウンタイムを削減し、輸入スペアパーツへの依存を低減するとともに、大型設備の修理・改修を加速することが目的だ。

プロジェクトは段階的に実施される。まずロシア側の専門家がPetrovietnamの生産プロセスの技術監査を行う。その結果を踏まえて両社がセンターの構成と導入するAM装置のリストを確定し、そのうえでセンターを開設するという流れだ。Petrovietnam副社長のPhan Tu Giang氏によれば、候補地の調査は7月に始まり、開所は早ければ2027年となる。

なお、現段階で締結されたのは覚書(MOU)であり、建設の開始や具体的な装置の導入が決まったわけではない。

Rosatomが持つAMの一貫体制

Rosatomは原子力企業だが、AMを非原子力事業の柱の一つとして育ててきた。燃料部門TVELの傘下に専業子会社Rusatom Additive Technologies(RusAT)を置き、金属3Dプリンターの開発・製造から金属粉末材料、ソフトウェア、プリントサービスまでをロシア国内で一貫して手がける。主力装置はレーザー粉末床溶融結合(SLM)方式の金属3Dプリンター「RusMelt」シリーズで、RusMelt 300M、600Mなどをそろえる。

2020年末にはモスクワに自社初のアディティブ技術センターを開設し、装置の組立、造形、後処理、試験ラボまでを1拠点に集約した。ベラルーシ・ミンスクに設立された海外初のセンターにもRusMelt 300Mと600Mが導入されており、今回ベトナムに提案されているのは、このロシア国内で作り込んだセンター運営モデルの移植とみられる。

Rosatom's RusMelt metal 3D printers on display, with the RusMelt 310M at right | Photo: Rosatom
展示会に出展されたRosatomの金属3Dプリンター「RusMelt」シリーズ(右はRusMelt 310M) | Photo: Rosatom

ベラルーシ、インドに続く海外展開

Rosatomにとって、この案件は初の海外AM輸出ではない。同社のAM事業を率いるIlya Kavelashvili氏(燃料部門アディティブ技術事業部門長)は、ロシア製装置を備えた海外初のアディティブ技術センターをベラルーシに設立し、インドには航空宇宙分野向けの大型産業用3Dプリンターを供給した実績を挙げ、ロシアの装置・材料・ソフトウェアが世界市場で競争力を持つことの証明だと述べている。

注目すべきは商売の型である。Rosatomが売るのは装置単体ではない。技術監査に始まり、材料供給、科学技術支援、エンジニア教育までを含む一括パッケージだ。さらにKavelashvili氏は、将来的にベトナムで3Dプリンター組立を現地化し、東南アジア市場への展開を図る可能性にも言及した。ベトナムは納入先であると同時に、その先の市場への足場として位置づけられている。

AM Insight Asia の視点

東南アジアの産業用AM市場は、これまで欧米メーカーと中国メーカーの競争として語られてきた。AMIAの見解では、今回の案件はそこに性質の異なる第三の売り手が現れたことを意味する。

ロシア勢は価格や装置性能で商業ベースの競争を挑むのではない。国営企業が主体となり、政府間関係を背景に、相手国の国営企業へエコシステムごと売り込む。買い手にとっては、単なる調達ではなく国家間協力の一部として導入できることが利点になる。展示会と代理店網で戦う既存プレーヤーとは、競争のルールそのものが異なる。

このモデルが次に通用するのは、ロシアとの政府間関係が深く、大型の国営産業セクターを持つ国だろう。東南アジアではベトナムがまさにその条件を満たしていた。欧米・中国のAM装置メーカーにとって当面の問題は、失うシェアの大きさではなく、国営企業という政府調達に近い顧客層への入口をロシアに先取りされることにある、とAMIAはみている。

対象企業について

Rosatom ロシアの国営原子力企業。原子力発電所の建設・運転や核燃料の製造を中核とし、燃料部門(TVEL)の傘下にアディティブ技術事業を持つ。金属3Dプリンター「RusMelt」シリーズをはじめ、装置・材料・ソフトウェアを自社開発している。
Website: https://www.rosatom.ru/en/

Petrovietnam 1975年設立のベトナムの国営エネルギー企業。正式名称はVietnam National Industry – Energy Group。石油ガスの探査・生産から精製、発電までを手がける。ニントゥアン第2原子力発電所の投資主体にも指定されており、原子力分野でもロシアとの接点を持つ。
Website: https://www.pvn.vn