単機能の性能競争から、複数機能の融合競争へ
中国・深センのSovolは2026年7月24日、新型デスクトップ3Dプリンター「M1D」のグローバル発表を行った。独立デュアルエクストルーダー(IDEX)とツールチェンジャー機構を組み合わせた「DualXシステム」により、最大7色・7素材の同時使用と、パーツ2個の同時印刷を1台で両立させる。廃材や量産効率に悩んできた3Dプリントファーム運営者にとって、機材選定の判断材料になり得る発表だ。
DualXシステムの仕様と機能
M1Dのビルドボリュームは300×300×350mm。中核となるDualXシステムは、固定式エクストルーダー1本と、交換式ツールヘッド6本を組み合わせた構造で、最大7色・7素材を1回の印刷内で使い分けられる。Sovolは本機を「IDEXとツールチェンジャーを両立させた初めてのプリンター」としている。

ツールヘッドの交換は5秒未満で完了し、Sovolによれば、従来型の単一ノズル多色システム(AMS方式など)と比較して廃材を90%超削減できるという。各ツールヘッドは独立した加熱・冷却機構と密閉フィラメント経路を備え、高温材料に対応するオールメタルエクストルーダーと硬化鋼ノズルを搭載する。具体的な対応温度や素材の詳細は、本稿執筆時点では公開されていない。

印刷モードはマルチ・ミラー・シングル・コピーの4種類。マルチモードでは色・素材・サポート材を1回の印刷内で組み合わせて使用できる。ミラーモードでは左右対称のパーツを同時に印刷でき、コピーモードでは同一パーツ2個を同時に印刷できる。任意の異なる2つのパーツを同時に印刷できるわけではなく、あくまで対称または同一のパーツに限られる。Sovolは後者を少量ロット生産やプリントファーム向けの機能と位置づけている。シングルモードは1本のノズルのみを使う標準印刷モードで、複数ヘッドを必要としない通常の印刷に用いる。

キャリブレーション面では、カメラフィードバックによるXYオフセットの自動調整(従来のプローブ方式より2.5倍速いとされる)を搭載する。自動Zリフト機構は、時間経過によるズレではなく、ツールヘッドを交換するたびに生じ得る高さの違いを、印刷中も継続的に補正し固定ノズルと高さを揃え続ける仕組みだ。これにより、安定した吐出とマルチツールヘッドでの安定動作を実現している。このほか、渦電流式センサーによる非接触ベッドレベリングも備える。
ファームウェアはKlipperベースで、Sovolはその設定情報とカスタマイズ用ドキュメントをオープンソースで公開する方針を示している。
M1Dは2026年7月28日、Kickstarterでのクラウドファンディングとして販売を開始した。展開されるのはオープンフレームの「M1D Essential」と、密閉チャンバー(最大60℃まで加熱可能)を備える「M1D Advanced」の2モデル。Super Early Bird価格はEssentialが1,299ドル(約21万2,000円)、Advancedが1,599ドル(約26万1,000円)で、20ドル(約3,300円)のデポジットを支払うとそれぞれ1,199ドル(約19万6,000円)、1,499ドル(約24万5,000円)まで割引される。配送開始は2026年11月を予定している。本稿執筆時点(8月1日)で、キャンペーンはすでに2,000人近い支援者から300万ドル以上(約5億円)を調達している(Kickstarterページ)。
IDEXコモディティ化の先にある機能統合競争
IDEX自体は目新しい技術ではない。BCN3D、Raise3D、SnapmakerなどがすでにIDEX機を展開しており、Sovol自身も従来モデル(SV04など)で採用してきた。Bambu LabのH2Dは2つの独立したノズルを備えるが、両ノズルは同一のツールヘッド上に搭載されており、ツールヘッド自体が独立して動くわけではない。そのため2つのノズルを同時に使って別々のパーツを進行させる、真のIDEXのようなミラー/コピー印刷はできない。M1Dの新規性は、このコモディティ化した技術に、単一ノズル多色システムの領域だったツールチェンジャー機構を組み合わせた点にある。

この組み合わせがもたらす効率化は、性質の異なる2つの軸に分けられる。ひとつは色・素材切替における廃材ロスの削減で、Bambu LabのAMS方式に代表される単一ノズル型が抱えてきたパージ工程の課題への対応にあたる。もうひとつはミラー・コピーモードによる同時複数個印刷で、こちらはIDEX由来の「一度に作れる数が増える」という効果であり、色数とは別次元の話だ。同時に2個仕上がる分、量産や小ロット生産にも向いている。M1Dはこの2軸を1台に統合した機種として位置づけられる。制約はあるが、1台のスペースに2台分のマシンがあるようなイメージに近い。言い換えれば、設置面積あたりの生産性が高いということだ。
もう一点、発表内で言及されている「オープンソース」は、Klipperベースのファームウェア設定についてである。DualXの機構設計そのものについては、本稿執筆時点で公開・非公開いずれの言及もない。
AM Insight Asia の視点
IDEXという土台がコモディティ化した以上、中国メーカー間の競争軸は、単機能の性能競争から「複数機能をいかに1台に破綻なく統合するか」という機構設計の完成度の高さに移りつつある、とAMIAはみる。ソフトウェア面でのコミュニティ形成と、ハードウェアの模倣しやすさは、現時点では切り離して考える必要がある。オープンソース志向・コミュニティ主導という立ち位置自体は、同じくIDEX機を展開するSnapmakerとも重なる。両社が今後どう差別化を図っていくかは、注目すべき論点になるだろう。
プリントファーム運営者にとっての意味も具体的だ。廃材コストの削減と、同時複数個印刷による稼働率向上は、どちらも1台あたりの投資回収期間や、先述した設置面積あたりの生産性に直接効いてくる要素であり、機材更新の判断材料になり得る。ホビー用途と量産用途の機能差が縮まるほど、価格帯だけで機種を選ぶ判断は成立しにくくなる。今後の中価格帯デスクトップ機の競争は、単一の新機能ではなく、こうした機能の組み合わせ方とその実装精度で測られるようになっていくだろう。
この動きは、単なるホビー機の延長ではなく、限られたスペースでいかに省人化・効率化しながら生産性を高めるか、という工場的な課題に中国メーカーが踏み込み始めていることの表れだ、とAMIAはみている。プリントファームが、より工場に近い生産拠点へと重心を移しつつある局面と言えるだろう。「プリントファーム」という呼び方自体も、すでに実態を表しきれなくなりつつあるのかもしれない。「3Dプリントファクトリー」と呼ぶ方が正確な時代に差し掛かっている可能性がある。
ただし、機能統合が進むほど、可動部品や連携すべき制御ポイントは増える。固定ノズルと交換式6ヘッドの位置・温度・干渉を常に整合させ続ける機構は、単機能機に比べて故障点そのものが多い。複数機能の融合競争は、裏を返せば信頼性という別軸での競争リスクを常に併走させている。機能統合が一過性の話題ではなく本当の潮流として定着するかどうかは、この信頼性をどこまで作り込めるかにかかっているだろう。
対象企業について
Sovolは2018年、中国・深センで設立されたデスクトップ3Dプリンターメーカー(法人名:Shenzhen Zhongchuang Three-dimensional Technology Co., Ltd.)。CEOはSeason Guo氏。設立当初からオープンソースの思想を掲げ、オープンなアーキテクチャとアップグレードしやすい設計、コミュニティ主導の開発体制により、高精度3Dプリンティングの参入障壁を下げることを掲げてきた。独立デュアルエクストルーダー(IDEX)を搭載した廉価機SV04(現在は販売終了)や、コミュニティ製の高性能機Voron 2.4を範とした2024年発売のSV08など、価格帯を抑えつつハイエンド機能を取り込む製品展開を特徴としてきた。現行ラインナップには、高速なCoreXY機SV08、コンパクトなSovol Zero、廉価機SV06 ACE、大型機SV08 MAXなどがあり、用途・価格帯を幅広くカバーしている。オープンソースコミュニティVoron Designとの協業では、Voronエコシステムの開発・保守を支援する寄付プログラムも設けているほか、Facebook上の”Sovolers”コミュニティを通じてユーザー同士の情報交換も後押ししている。全世界30カ国以上で販売され、これまでに数十万人規模のユーザーを獲得しているという。
Source:
- Sovol Introduces M1D, Combining Multi-Color, Multi-Material Printing and Dual-Extruder Productivity in an Open-Source Platform (via PR Newswire, July 24, 2026)
- Sovol M1D hybrid IDEX 3D printer features 6 interchangeable toolheads for multi-color and multi-material prints (via CNX Software, July 29, 2026)





