SnapmakerがRatdouxを採用。企業とコミュニティの共創が再び動き出す

5月 25, 2026

Radu, known as Ratdoux, joins Snapmaker.

合理的な判断の裏に、メッセージが見える

2026年5月、Snapmakerはコミュニティ開発者Radu(ハンドルネーム:Ratdoux)の採用を発表した。彼が独自に開発したマルチカラー3Dプリンティング向けスライサー「Full Spectrum」を、同社のソフトウェアプラットフォーム「Snapmaker Orca」に正式統合するためだ。ビジネスとして合理的な判断である。しかしその裏には、単なる人材獲得を超えたメッセージが込められているかもしれない。

Full SpectrumとRatdouxとは何者か

Full SpectrumはSnapmaker Orcaのオープンソースフォークとして開発された実験的なスライサーだ。従来のマルチカラー3D印刷は、フィラメントを色ごとに切り替えるたびに「パージ」と呼ばれる排出処理が必要で、大量の材料が無駄になる問題があった。

Full Spectrumはこの問題に別のアプローチで挑んだ。フィラメントの層を交互に積み重ね、光の透過と視覚的な混合効果を利用することで、物理的な色数を超えた色表現を実現する。3色のフィラメントだけで驚くほど広いパレットを生成できる。ただしこれはあくまでも視覚的な擬似混色であり、物理的にインクを混ぜるような真のフルカラー印刷とは異なる。

Full color printing on a Snapmaker U1 using 3 filaments | Photo: Aceman11100 via Reddit
Snapmaker U1で3色のフィラメントを使った印刷サンプル | Photo: Aceman11100 via Reddit

Ratdouxはこのアイデアを、RedditでユーザーAceman11100がBlenderでカラーミキシングを試みているのを見て着想した。「スライサーで直接できないか」という問いが出発点だった。Snapmaker U1のツールチェンジャーアーキテクチャがこの技術を現実のものにするのに十分な速度を持つ唯一のマシンだったと彼は言う。コミュニティの反応は予想を超え、そこからSnapmakerとの協業へと発展した。

Full SpectrumはAGPL-3.0ライセンスのもとで引き続きオープンに開発される。

Community tutorial videos showcasing Full Spectrum 3D printing on the Snapmaker U1, using just 3 or 4 filaments | Photo: WombleyWonders via YouTube
SnapmakerコミュニティによるFull Spectrum解説動画。3色または4色のフィラメントで実現する色彩表現 | Photo: WombleyWonders via YouTube

なぜSnapmakerだったのか、Daniel Chenという人物

この動きを偶然と見るのは難しい。

Snapmaker CEOのDaniel Chenは、Makeblock出身のエンジニアだ。MakeblockはArduinoベースのオープンソース教育ロボットプラットフォームを展開する深セン発の企業で、オープンソースコミュニティのど真ん中に位置する。Chenのキャリアはそこで形成された。

2016年6月1日、国際子どもの日にChenはSnapmakerを創業した。「常に好奇心を持ち、心の赴くままに行動する」という自分への戒めとしてその日を選んだという。創業以来、Snapmakerはオープンソースの基盤と独自開発を組み合わせるという方針を一貫して掲げてきた。

実は似たような動きは過去にもあった。かつてUltimakerがCuraの開発者David Braamを採用したように、コミュニティ発の開発者を企業が迎え入れるという共創モデル自体は新しくない。

ただし今回の動きをUltimakerの時代と同列には語れない。企業とコミュニティの関係が一部で崩れ始めているこのタイミングでの動きは重みが異なる。SnapmakerはRatdouxの採用とAGPL-3.0継続の明言を同時に行った。そしてDaniel Chenは公式コメントでこう述べた。「最も重要なイノベーションはMakerコミュニティから生まれると信じている」と。

Full Spectrum's slicer UI showing the Mixed Colors feature, generating intermediate colors from four filaments | Photo: beybladetable via Reddit
Full SpectrumのスライサーUI。4色のフィラメントから中間色を自動生成する「Mixed Colors」機能 | Photo: beybladetable via Reddit

AM Insight Asia の視点

SnapmakerがRatdouxを採用したのはビジネスとして合理的な判断だ。実証済みの技術と、コミュニティの信頼を持つ人材を同時に得た。

しかしAGPL-3.0の継続明言、Daniel Chenの公式コメント、そしてこのタイミング。そこには単なる人材獲得を超えたメッセージが込められているかもしれない。

コミュニティの固定観念にとらわれない自由な発想と熱意はこれまでも様々な技術的革新を生んできた。企業のロードマップでは生まれにくいアイデアも、コミュニティの中では可能だ。好きだから、やってみたいからという損得勘定ではない、単純だが強いパワーがそこにはあるからだ。

コミュニティと企業が対立するのではなく、共に良い関係を築いていく。AMIAはこのような流れを全面的に支持する。

Source:

・Snapmaker Newsletter (May 2026)