Original

Global AM Summit 2026参加報告:「聞く場」ではなく「繋がる場」

10月 28, 2026

Signing of the memorandum of understanding between A*STAR's Additive Innovation Centre, ATC Globe Holdings, Forefront Additive Manufacturing and GD Precision | Photo: AM Insight Asia

世界はもう機械の話をしていない。航空、鉄道、医療の実運用者が語り合っていたのは、産業の現場でAMがどうあるべきかだった

AMのイベントといえば、装置や材料のブースを見て回る展示会を思い浮かべる人が多いだろう。筆者が初めて参加した、シンガポールのGlobal AM Summit 2026(10月22日開催)は、そうした展示会とは別物だった。主役は展示ではなく人のつながりであり、講演はその入口として設計されていた。

登壇者の持ち時間は原則10分。Airbus、Alstom、Siemensの担当者が、結論となる論点だけを示して次の登壇者に壇上を譲っていく。足りない部分は、セッション間の休憩、昼食、そして終了後に3時間半続いた夕食会で埋められた。パネル討論の質疑が時間切れになると、司会者は「質問は壇上を降りた登壇者に直接どうぞ」と会場に呼びかけた。

今年の議論が繰り返し指し示したのは、AMの次の段階を決めるのはプリンターの性能ではなく、認証、データ、そして誰と組むかだということだった。

本稿は、特にまだ参加したことのない人に向けて書いた。

筆者にとって、この1日は興奮と落胆が同居するものだった。なぜ相反する感情を抱いたのか。その答えは、最後の「AM Insight Asia の視点」で書きたい。

Global AM Summit 2026の基本情報

Global AM Summitを主催するのは、NAMIC(National Additive Manufacturing Innovation Cluster)だ。シンガポールの公的研究開発を担う科学技術研究庁(ASTAR)がホストする組織で、研究機関、企業、政府をつなぎ、AMの産業化、標準開発、人材育成、企業間連携を進めている。ASTARとNAMICがそれぞれどのような組織で、シンガポールのAM戦略がなぜ世界から注目されるのかについては、いずれ別途記事で詳しく取り上げたい。

Global AM Summitは、このNAMICが主催する、同国AM分野の旗艦的な対面ビジネスイベントだ。15回目の今年は「Building Resilient Industries with Additive Manufacturing and AI」をテーマに、Suntec Singapore Convention & Exhibition Centreで1日開催され、4つのトラックで構成された。

併催の産業技術展示会ITAP(Industrial Transformation Asia-Pacific)は10月21〜22日の2日間で、Global AM Summitはその2日目にあたる。今年のITAPは、Deutsche Messe傘下のHannover Fairs Asia-Pacificと、シンガポール製造業連盟(SMF)が新たに組んで主催した、リローンチ初年度だった。新体制への移行期ということもあり、カンファレンス中心に絞り込んだ小規模な編成で、会場も2024年と2025年のチャンギ空港近くのSingapore Expoから、都心のSuntecへ移っている。来年は規模を戻し、2027年7月20〜22日にMarina Bay Sandsで本格開催される予定だ。

短い講演、パネル討論、そして3時間半の対話

プログラムは、短い講演、複数の登壇者によるパネル討論、そしてネットワーキングの時間という3つの組み合わせで組まれていた。講演が短いのは、時間の制約というより設計思想だと感じた。登壇者は自社の技術紹介ではなく、「何が課題で、何を変えられるのか」だけを提示する。

講演の後は、登壇者が壇上に並んでパネル討論に移る。産業化をテーマにしたトラックでは、Siemens、Airbus、Alstom、医療分野の4人が10分ずつ話した後、同じ顔ぶれで認証、標準、AIの扱いを議論した。基調講演に続くパネルも、講演が投げかけた「誰と誰が組むべきか」という問いを引き取って掘り下げる構成だった。講演で示された論点を、立場の違う登壇者同士が突き合わせることで、業界をまたぐ共通の課題と、それぞれの違いが浮かび上がる。

The panel discussion The Factory of the Future: Connecting Intelligence, Agility & Innovation | Photo: AM Insight Asia
パネル討論「The Factory of the Future: Connecting Intelligence, Agility & Innovation」 | Photo: AM Insight Asia

設計、品質保証、調達、経営、政策、材料、サービス事業者。立場によってAMに求める答えは違い、講演が30分あっても全員の問いには答えられない。その差を埋めるのが対話の時間だ。セッション間の休憩は比較的長く、昼食でも参加者同士が話せる。終了後の夕食会は3時間半に及び、発表もあったが、大半は食事をしながらのネットワーキングだった。関心を持った相手とは、講演直後の休憩から夜まで、何度でも話を続けられる。

主催者自身も、この設計を隠していない。NAMICのHo Chaw Sing CEOは開会挨拶で、休憩時間に登壇者や他の参加者へ積極的に話しかけ、ブースも訪ねてほしいと呼びかけた。同じ挨拶では、その晩に、数百の組織を収録したAM企業・研究機関・公的機関の名簿「AM Industry Connect 2026-2027」を発表すると予告している。基調講演に立ったHeld Holding GmbH創業者兼マネージングディレクターのArno Held氏は冒頭、登壇者への配慮と運営の質において、この会議は世界でもほとんど比類がないと述べた。

会場の作りも、日本の講演会でよく見る、椅子を前に向けて並べただけのものとは違った。円卓が並ぶパーティー会場のような空間で、参加者はゆったりと講演を聞ける。着席規模は、筆者の目測で200〜300人程度だった。巨大な見本市ではないからこそ、参加者が互いの顔を覚え、講演で気になった相手とその日のうちに複数回話せる。Global AM Summitでは、講演は会話の入口であり、対話こそが本番だった。応用先、認証、データ、サプライチェーンが絡み合うAMという分野では、この設計は理にかなっている。

「レジリエンス」とは何か

テーマの「レジリエント」とは、供給網の途絶、災害、地政学的混乱、部品供給の停止に直面しても、生産と供給を維持・回復できる力を指す。来賓のShawn Huang財務省・人材省上級政務官は、コロナ禍で鼻咽頭スワブの在庫が不足した際、NAMICと組んで国内に製造能力を立ち上げた経験を振り返った。小国にとって技術力は競争力の問題である以前に、危機の局面では生き残りの問題だという。

このテーマの中で、AIとAMは役割を分け合う。AIは、設備のセンサーデータ、造形中の品質データ、在庫、受注、物流、サプライヤー情報をつなぎ、「何が止まり、どの代替策が最も早いか」を前倒しで判断する。AMは、その代替部品を必要な場所で作る手段になる。両者が揃って初めて、供給網の混乱に強い製造体制になる。

基調講演:「AIはAMを救わない。ふるい分ける」

議論の土台を据えたのは、Held氏による基調講演だった。同氏は11年にわたりAM分野のスタートアップに投資し、約3,000社を調査してきた。

Held氏は今年2月にニューヨークで、AM産業は投資資金が足りないのではなく、企業が多すぎるのだと主張していた。今回はその後の業界再編を、社名を挙げずに振り返り、これは技術の失敗ではなく市場の成熟だと位置づけた。ハードウェアがコモディティ化するほど、勝敗を決めるのは応用になる。実際、AMで成功している企業の多くはスポーツ用品、玩具、歯科などの本業を持ち、自らをAM企業とは名乗らない。

AIについての答えは短かった。AIはAMを救わない。ふるい分ける。この業界で最も高くつくのは装置ではなく、そのプロセスが確かに機能すると証明すること、つまりパラメータ開発、認定、認証だ。機械学習はこの期間を短縮しつつあり、認定のノウハウはデータになる。データは所有でき、移転でき、拡張できる。一方で、AIは顧客がいないという問題を解決しない。良い応用をより良くし、悪い応用をより早く失敗させるだけだという。

Arno Held of Held Holding GmbH delivering the keynote | Photo: AM Insight Asia
基調講演に立つHeld Holding GmbHのArno Held氏 | Photo: AM Insight Asia

そのうえで、Held氏は話を地政学へ広げた。関税、データにまで及び始めた輸出規制、調達先の国籍を問う動きの中で、装置と生産は顧客と国境に近い場所へ移っていく。国境を越えて広がるのは、どの応用に、どの材料とパラメータで、どの認定ルールを適用するかという知識だ。だからこそ、認定済みのプロセスデータをOEM、装置メーカー、サービス事業者、国家の誰が持つのかが、次の提携交渉の焦点になる。

規模とスピードを持つアジアと、20年以上の部品認定の蓄積を持つ欧州は、どちらも単独では勝てない。Held氏は、シンガポールがその協業の中立的な場を静かに築いてきたと述べ、「応用が生き残りを決め、国境が生産地を決め、提携が勝者を決める」と講演を締めくくった。

産業化を阻むのは、プリンターの「周辺」

産業化をテーマにしたトラックでも、4つの業界から聞こえてきたのは同じ話だった。造形そのものは機能している。止まっているのは、その周りだ。

Siemens Digital IndustriesのKarsten Heuser氏は、AMは過去10年「サプライチェーンを破壊する」と語られてきたが、実際にはそうならなかったと述べた。Heuser氏によれば、Airbusは航空機を、Adidasは靴を、AppleはiPhoneを売る会社であり、AM装置を持っているわけでも、粉末を買っているわけでもない。実際に機能したのは、鋳造や射出成形でもともとその業界に部品を納めてきた既存のサプライヤーが、自社の工程にAMを加える形だった。Appleの最大の生産委託先がFoxconnであるように、AMでもこの構図が変わる理由はないという。

Airbus Tech Hub SingaporeのJulian Rascol氏は、同社の飛行中の金属AM部品が約1万点、年間生産が約5,000点に達していると説明した。5年以内に年約2万点へ拡大したいが、障害はプリンターの能力ではない。認証部品には事業性が必要で、量産品か重要部品でなければならず、その重要部品こそ技術の成熟度が最も低い。さらに、装置同士が標準化されていないため、別の機で同じ造形をしても同じ部品になるとは限らない。

AlstomのLorenzo Gasparoni氏は、同社が約25万点の部品を印刷し、主にデジタル倉庫による在庫削減で4,600万ユーロ(約75億円)を節約し、25万日以上のリードタイムを短縮したと紹介した。部品表の20%を印刷可能にすることが目標だ。ただし鉄道には印刷部品を認証する標準がない。同社はISO/ASTM 52920でプロセスを管理したうえで、自社ルールで部品ごとに認証し、バッチごとに試験片を印刷している。金属の検証用試験片は1本あたり約1,000ユーロ(約16万円)かかるという。

医療分野を扱うMobility Goes AdditiveのNaomi L. Nathan氏は、障壁の一覧で技術を最下位に置いた。上位にあるのは規制認可、償還、ビジネスモデル、品質と人材だ。技術が成熟していても、誰に請求し、誰が費用を負担するのかが決まらなければ普及しない。

Speakers from Siemens, Airbus, Alstom and the healthcare field at the panel on industrializing AM | Photo: AM Insight Asia
産業化をテーマにしたパネル討論。Siemens、Airbus、Alstom、医療分野の登壇者が並んだ | Photo: AM Insight Asia

AIは、人の判断を前倒しする道具

SynaCoreのKitty Wang CEOは、ブレードを印刷する顧客の事例を紹介した。顧客はセンサー、設計データ、測定データ、そして棚に積まれた3年分の不良造形品を持っていたが、データを集めるだけでは変形の問題を解決できなかった。閉ループのデジタルツインにデータをつないだ結果、プリンターに手を触れることなく、3回の反復で変形を200ミクロン以内に抑えたという。同氏は、ソフトウェアとつながらないデータは資産ではなく、ただのコストになると指摘した。

Heuser氏はAIを「代替者」ではなく「同僚」と位置づけた。4日かかっていた原因究明を1時間に縮め、企業内で分断されたデータを横断して故障を予測する。ただし、部品を最終的に承認するのは人間だ。

一方でRascol氏は、より明確に線を引いた。Airbusは何らかの形で40年ほどAIを使ってきたが、大規模言語モデルは別物であり、安全性が重要な工程の生産には近づけないという。「そのようなAIを認証する道筋はない」という言葉は、AIをAMに組み込む際の現実的な壁を示していた。

AIへの依存そのものを問う場面もあった。Track 1のパネルでは、モデレーターのJoris Peels氏(AM Research)が、頼っているAIへのアクセスを失ったら事業はどうなるのかと問いかけた。Tulip InterfacesのMichael Agam氏は、AI利用の8割以上がオープンなモデルだとして、リスクは抑えられていると答えた(根拠は示されなかった)。Held氏は、依存の規模は大きくなっても、冗長なシステムを用意してリスクを管理するのは昔から起業家の責任だと述べた。

The Track 1 panel, AM Without Borders, moderated by Joris Peels of AM Research | Photo: AM Insight Asia
Track 1のパネル討論「AM Without Borders」。モデレーターはAM ResearchのJoris Peels氏 | Photo: AM Insight Asia

AMは中心ではなく、製造チェーンの一歩

この日最も耳の痛い言葉も、Heuser氏から出た。「自分を宇宙の中心に置くな。AMは大きな生産チェーンの一歩にすぎない」。AM部品は、切削、鋳造、射出成形、表面処理など、必ず他の工程とつながる。顧客に提案すべきは破壊的な新技術ではなく、顧客がもともと判断基準にしているコスト、価格、品質、リードタイムだという。

Agam氏も、AMと切削加工は常に共存し、互いを置き換えることはないと述べた。Moveon TechnologiesのCTOが紹介した射出成形用金型の事例は、その具体例だ。金型の大部分は精密加工で作り、従来のベント(ガス抜き溝)が詰まりやすい箇所には金属AMで造形した多孔質インサートをはめ込む。冷却路も、直線しか掘れない機械加工の代わりに、部品形状に沿う形状追従冷却路をAMで作る。同氏は、内視鏡用の微小な積層レンズを一体で印刷し、組み立ての歩留まりの問題を解いた事例も挙げ、協業の前提は互いに価値を持ち寄ることだと語った。

調印された3つの提携と、人材への投資

会期中、NAMICは3つの提携を発表した。どれも装置の購入ではなく、認定、供給網、標準、人材に関わるものだ。

  • Bavaria Makes:ドイツ・バイエルン州でAMの産業化を進める非営利団体との覚書。ITAP初日の10月21日に締結された。創設メンバーにはSiemens、EOS、Oerlikon、ミュンヘン工科大学などが名を連ね、両地域の知識と人材の交流を進める。
  • A*STAR Additive Innovation Centre(AIC)と地元企業3社:AICとATC Globe Holdings、Forefront Additive Manufacturing、GD Precisionの協業。公的研究機関の能力と地元企業の事業基盤をつなぎ、研究・材料開発から造形、精密加工、認定、量産までを一つの環境で扱う。
  • ASTM International:2018年に始まった戦略的提携の深化。標準、認定、信頼できるデジタルデータの枠組みを進めるもので、紹介映像では、AM、ロボティクス、AIによる次世代製造の普及を標準で後押しするとされた。これまでに国際標準4本と認定研修プログラム3本を生み、120人超が受講している。

人材面では、Huang上級政務官が、NAMICが2022年以降1,000人を超える専門人材を育成してきたと紹介した。NAMICは、AMの職務に必要な技能と研修を結びつける国家的な認定制度「NAAF(National Additive Manufacturing Jobs-Skills Accreditation Framework)」も整備しており、シンガポール軍は自前のAM能力を構築するにあたり、NAAF認定コースでエンジニアを育成しているという。ASTMとの研修プログラムもNAAFの認定対象になった。

参加して見えた、Global AM Summitの使い方

Global AM Summitで得られるものは、講演を聞くだけでは半分にとどまる。現地で感じたのは、次のような使い方をすると価値が大きく変わるということだ。

  • 話したい相手を決めつつ、偶然の出会いにも余地を残す:プログラムは公式サイトに登壇者と時刻まで掲載されるので、事前に話したい相手を決めておくと効率がいい。10分の講演で疑問を持ち帰るのではなく、休憩で本人に聞く前提で臨むと、講演の聞き方も変わる。一方で、休憩や夕食会でたまたま隣り合った相手との会話が、予期しない出会いになることもある。計画と偶然の両方を楽しめるのも、この規模の会議ならではだ。
  • 講演中は「誰に何を聞くか」をメモする:パネルの質疑は時間切れになることもある。今年も、残った質問は壇上を降りた登壇者に直接ぶつけるよう促された。
  • 夕食会まで残る:3時間半のネットワーキングは、昼間に話しきれなかった相手と腰を据えて話せる時間だ。会場の規模から見ても、筆者の印象では、関心のある登壇者と直接話せる機会は大規模展示会よりずっと多い。
  • LinkedInで前後をつなぐ:LinkedInは欠かせない。事前にLinkedInでつながっていた相手と会場で初めて顔を合わせ、会場で知り合った相手とはその場でつながる。オンラインと対面を行き来できることが、イベント後も続く関係をつくる鍵になる。

なお、Global AM Summit 2027の日程は、執筆時点では発表されていない。

誰に向いている会か

Global AM Summitは、設計や造形の現場担当者向けの技術研修会というより、AMを組織や地域の製造体制に組み込む仕組みをつくる人のための会議だ。問われるのは「この部品をどう造形するか」よりも、「どの業務・製品・供給網にAMを組み込み、誰がデータと認証を管理し、どう事業化するか」だった。

  • 政府関係者、官公庁、自治体:AMによる産業育成、人材、地域製造基盤、供給網の強靭性を政策として設計したい人
  • 企業のAM戦略・技術経営担当:導入判断、応用領域、投資対効果、認証・データ戦略を検討している人
  • 装置メーカー:エンドユーザーの要求、応用トレンド、AI・ソフトウェアとの接続ニーズを把握したい人
  • 材料メーカー:応用先ごとの材料要件、認証、量産化への壁を知りたい人
  • 販売店・代理店:顧客課題の言語化、提案軸、エコシステムパートナーを探したい人
  • サービスビューロ:品質保証、デジタル在庫、部品供給ビジネスの方向性を探りたい人
  • 研究機関・大学:産業課題との接点や、共同研究・人材育成の相手を見つけたい人

逆に、特定装置の操作教育、材料データの詳細取得、造形ノウハウの研修だけが目的なら、Global AM Summit単体では物足りないかもしれない。そうした深掘りは、講演後の対話や個別面談、別の技術研修で補う必要がある。

AM Insight Asia の視点

Global AM Summitの価値は「何が語られたか」よりも、「AMの競争力がどこを流れるか」をそのまま会議の形にしている点にある。

Held氏の整理に従えば、これからのAMで国境を越えて価値を持つのは、装置ではなく、認定済みのプロセスデータと応用の知識だ。Airbusが語った装置間の非標準化も、Alstomが部品ごとに払う試験片のコストも、Nathan氏が挙げた償還の壁も、論文や展示ブースでは解決策が手に入らない種類の課題である。誰がどの認証ルートを通したか、どの規制当局とどう話したか。こうした知識は、人と人の関係を通じてしか流れない。壇上では表立って話せない内容でも、休憩や夕食の席でなら、オフレコで聞ける話がある。

シンガポールは、その流通経路を国家として設計している。講演を10分に絞り、休憩と夕食に時間を割き、会期中にバイエルンやASTMとの提携を結ぶ。会議の運営と産業政策が、同じ方向を向いている。そうである以上、この場は国を越えた政策や共同プロジェクト、新たな取り組みを仕込む場にもなるはずだ。日本のAMイベントの多くは講演を中心に組まれ、聞いて終わりになる。議論する場がない。

シンガポールの設計は、人材にも及んでいる。翻ってAM業界全体を見ると、力が装置の販売に偏り、教育や知識を広げる取り組みがあまりにも少ない。日本も例外ではない。AMを体系的に教えられる教育者が少なければ、学ぶ学生も増えず、現場に出てくる技術者も増えない。確かに、装置を操作するだけなら、導入した企業の中で身につけることもできるだろう。だがその技術者も、いずれはAMを事業や組織の中でどう使うかを戦略的に考える立場になる。そのとき、操作の延長だけで戦略を教え、語れるだろうか。このままでは、装置が一時的に広まっても、AMが正しく理解されて根付いていく産業にはならない。有用性を語るのが一部の専門家にとどまる状況も変わらないだろう。シンガポールが研修を国の認定制度で職務と結びつけ、軍までがその制度でエンジニアを育てているのは、業界が抱えるこの課題への一つの答えだ。

その差は、会場の顔ぶれにも表れていた。筆者は、日本からも政府関係者や官公庁、自治体、企業でAM戦略を担う人たちが相応に来ているものと考えていた。だが、会場で日本人は筆者一人だった。正直に言えば、失望した。航空、鉄道、医療の実運用者が認証とデータの課題を率直に語り、政策担当者と企業がその場で提携を結ぶ会議に、日本の当事者がいない。この不在は、そのまま認証やデータをめぐる情報へのアクセスの差になりうる。

だから日本企業がGlobal AM Summitに参加する意味は、最新の装置や材料を見ることにはない。問うべきは「何を見に行くか」ではなく、「誰と、何を話しに行くか」だ。材料メーカーなら、認証で詰まっている航空・鉄道の担当者と。サービスビューロなら、デジタル倉庫を運用する側と。自治体や政策担当なら、NAAFのような人材制度を設計した側と。話す相手と問いを決めてから乗り込めば、10分の講演は入口として十分に機能する。しかも、つながりはその日限りで終わらない。開幕時に司会者が「見慣れた顔が多い」と語ったように、毎年この場に戻ってくる参加者は少なくない。一度の名刺交換ではなく、年ごとに再会し、関係を深めていける。この会議の本当の価値は、そうした継続的な関係を築く機会にある。

次の注目点は、ITAPが2027年7月にMarina Bay Sandsで本格開催へ移るとき、Global AM Summitがどのような形で併催されるかだ。そしてHeld氏の問いは、日本企業にもそのまま向けられている。2031年に、あなたは誰とAMの事業を組んでいるだろうか。

対象企業について

A*STAR(Agency for Science, Technology and Research) シンガポールの公的研究開発を担う政府機関。傘下のAdditive Innovation Centre(AIC)はNAMICの支援を受け、AMのプロセス開発や研修を手がける。Global AM Summit 2026では、AICが地元企業3社との協業を発表した。

NAMIC(National Additive Manufacturing Innovation Cluster) ASTARがホストするAM推進組織。AMの産業化、標準開発、人材育成、企業間連携を進める。2015年9月に設立が発表された。CEOのHo Chaw Sing氏は、ASTAR科学工学研究評議会(SERC)のエグゼクティブディレクターを兼ねる。Global AM Summitのほか、AMスタートアップのピッチイベント「NAMIC Start-up Innovation Forum」も主催している。