Studio 3e8、焼結炉一体型のデスクトップ金属3Dプリンター「Mesa 1」を発表 3,500ドルからKickstarterへ

10月 30, 2026

The Mesa 1 with the slicer on a laptop, material cartridges and printed metal parts | Image: Studio 3e8

レーザーもバインダーも使わない「金属+スキャフォールド」方式。デスクトップ金属AMの競争が激化

米マサチューセッツ州サマービルのスタートアップStudio 3e8は2026年10月28日、焼結炉を内蔵したデスクトップ金属3Dプリンター「Mesa 1」を発表した。金属とスキャフォールドの2種類の粉末を層ごとに堆積し、造形した部品をそのまま炉内で焼結する。レーザーもバインダーも使わない。12月1日にKickstarterで、3,500ドル(約55万円、1ドル=158円換算)から販売を始める。

金属とスキャフォールドを層ごとに打ち分け、炉内で焼結する

Mesa 1のワークフローは、同社がSlice、Shape、Solidと呼ぶ3工程で構成される。ユーザーのノートPCで動く同社製スライサーが、3Dモデルを「金属」と「スキャフォールド」の2材料に振り分けた造形データを生成する。プリンターは完全密閉の粉末カートリッジから両方の材料を堆積し、金属が部品を形づくり、スキャフォールドがその形状を保持する。発表動画では、ノズルが白いスキャフォールドの粉末を線状に敷き、その間の部品にあたる部分に濃い灰色の金属粉末を置いていく様子が映っている。オーバーハングの下や空洞はスキャフォールドが埋めるため、サポート構造は必要ない。

部品は一体型炉の中のるつぼに直接造形され、造形が終わると炉が自動で緻密な金属へ焼結する。途中で部品を移動させたり手で扱ったりする工程はない。同社は、サポート除去も、ばらの金属粉末の取り扱いもないとしている。バインダーを使わないため、脱脂という工程自体が存在しない。

電源は標準的な120 Vのコンセントで、最初の対応金属は炭素鋼と銅。公式サイトはこれらと並べてスキャフォールドを材料ラインナップに挙げており、ユーザーは金属に加えてスキャフォールドのカートリッジも用意する必要がある。スキャフォールドを再利用できるかどうかは明らかにされていない。装置は特許出願中。

後工程と粉末設備を1台に収める設計

これまでの小型金属AMは、主に2つの系統に分かれてきた。1つは、金属粉末を樹脂のバインダーで固めた金属フィラメントを押し出して造形し、別の装置でバインダーを抜いて(脱脂)から焼結する方式だ。一般的な3Dプリンターでも造形できるのが利点だが、脱脂・焼結炉を別途用意する必要がある。もう1つはレーザー粉末床溶融結合(L-PBF)で、粉末の取り扱い設備と不活性ガスの供給が前提になる。中国・蘇州のSnowXが発表したデスクトップ機「SnowPod」もこの方式で、現在Kickstarterで早期予約を受け付けている。

SnowPodは40 μmのレーザースポットで細部の精度を狙い、粉末の供給と回収には密閉式の交換カートリッジを使う。造形には窒素の供給が必要で、空気から窒素を取り出す発生装置「NitroPod」とのセットの早期予約価格は5,599ドル(約88万円)で、希望小売価格は9,999ドル(約158万円)。Mesa 1の3,500ドルは、これより4割近く安い。いずれもキャンペーン価格で、Mesa 1の通常価格は公表されていない。Mesa 1は堆積と焼結を1台にまとめ、金属粉末を密閉カートリッジに収めることで、前者の脱脂・焼結炉も、後者の粉末設備も不要にしようとしている。オフィスで金属を造形するという同じ課題に対し、SnowPodはL-PBFの小型化で、Mesa 1は焼結系の工程統合で応えた形になる。

公表されていないスキャフォールドの中身

一方で、方式の核心にあたる情報の多くは公表されていない。スキャフォールドの組成、焼結後に部品から分離する方法、焼結温度と雰囲気、造形サイズ、積層厚、寸法公差、焼結収縮の補正方法はいずれも明らかにされていない。

手がかりは同社の商標出願にある。指定商品には3Dプリンター用の金属粉末と並んで、3Dプリンター用のセラミック粉末が含まれている。スキャフォールドにセラミック系の材料を使っている可能性があるが、同社はスキャフォールドの材料を公表していない。

AM Insight Asia の視点

Mesa 1はバインダーをなくした代わりに、焼結後にスキャフォールドを部品から分離するという新たな課題を抱えることになった。バインダーは部品の内部から熱や溶媒で抜く材料だが、スキャフォールドは部品の外側や空洞に物理的に存在し、最後は機械的に引き離すしかない。高温で部品表面とわずかでも結合すれば、分離跡や表面の荒れが残る。

形状の自由度にも影響が及ぶ。材料を必要な場所にだけ置くフィラメント方式なら空洞を空のまま閉じられるが、層の全面を粉末で埋める方式では、空洞はスキャフォールドで満たされるとみられる。完全に閉じた空洞を持つ部品は中の粉を取り出せないため、そうした形状は事実上作れない。出口のある内部流路であっても、細く長い流路や曲がりの多い流路では、焼結後のスキャフォールドを残さず抜き出せるかが課題になる。L-PBFの脱粉と同じ構図だ。

細部の表現にも限界があるとみられる。発表動画では、ノズルの描画パスが粉末面に目で追えるほどの幅で残っており、再現できる細さはこの吐出幅に縛られる。公開されている造形サンプルにも、AMIAがTCTで取材したSnowPodの作例に見られたような微細な表現のものはない。焼結時の収縮も、細い形状ほど影響が大きい。ジュエリーや小型の精密部品より、治具やブラケットのような機能部品に向いた機械と考えるのが妥当だろう。

一方で、焼結温度の高いセラミックで金属を支え、焼結後に外すという発想自体は新しいものではない。材料の選択だけで、他社の参入を特許で縛るのは難しいはずだ。では、同社は何を出願しているのか。バインダーを使わずに、乾いた2種類の粉末をどうやって層ごとに崩さず打ち分けているのか。金属とスキャフォールドの境界はどこまで混ざらずに保たれ、焼結後に部品をきれいに外せるのか。技術の中心は材料そのものより、堆積と焼結を1台にまとめたこの方式にあるとみられるが、現時点では判断する材料がない。詳細な発表が待ち遠しい。

金属だけでなくスキャフォールドも専用カートリッジで供給される限り、Mesa 1の収益の柱は装置の販売ではなく、消耗品の継続販売になりうる。3,500ドルという装置価格は、その入口と読むこともできる。

焼結後のスキャフォールドを回収して再利用できれば、ランニングコストは下がる。ただし、部品との境界付近のスキャフォールドには金属粒子が混じり込むとみられ、それを分離して品質を保てるかには疑問が残る。Kickstarterの詳細な情報で説明がある可能性もあるが、再利用が難しければ、スキャフォールドは造形のたびに使い切る消耗品となり、カートリッジ販売の比重はさらに高まる。

12月1日のKickstarter開始時にもう1つ注目したいのは、造形サイズや精度の数値よりも、焼結後の作業がどこまで自動化されているかだ。粉自体はカートリッジに収められ、造形時にユーザーが直接触れることはないかもしれないが、スキャフォールドの除去は装置内で完結するのか、それとも取り出した後にユーザーが手作業で落とすのか。除去した粉はどう回収し、捨てるのか、再びカートリッジに戻せるのか。「ばらの金属粉末を扱わない」ことと「粉末を一切扱わない」ことは同じではない。オフィスで使える金属プリンターという主張が成り立つかどうかは、粉の後始末の煩わしさがどこまで消えているかにかかっている。

対象企業について

Studio 3e8は、米マサチューセッツ州サマービルに拠点を置く、デスクトップ向け金属3Dプリンティングの開発企業。2023年にCasey Johnson氏(共同創業者兼CEO)が創業し、共同創業者兼CPOのCassie Lowell氏が参画した。屋根裏、ガレージを経て、現在はサマービルのGreentown Labsに拠点を置く。Harvard Innovation LabsのアクセラレーターLaunch Lab Xに選ばれている。最初の製品であるMesa 1は、新しい造形技術とソフトウェア、ハードウェア、材料を統合したエコシステムとして開発された。