43台・8工程・年間1.9万個のAM専用施設を開設、アジア自動車大手の内製化競争が本格化
2026年8月21日、FAW(中国一汽)グループは「2026科技大会」の会場で、増材製造創新センター(Additive Manufacturing Innovation Center)を正式に開設した。8月5日にHyundai MotorとKiaが韓国でAMSC(Additive Manufacturing Solution Center)を開設してから16日後であり、アジアの自動車大手によるAM内製化競争が新たな段階に入ったことを示している。
8工程・43台で年産1.9万個、FAWの新AM拠点の全貌
FAWは2025年に新車販売台数330.2万台、営業収入5,415.5億元(2026年8月時点のレートで約12.9兆円)を計上した、中国国内販売台数でBYD・SAIC(上汽集団)・Geely(吉利控股)に次ぐ第4位の大手自動車グループだ。今回開設したのは、国内初となる、自動車応用を核心に据えたAM専門プラットフォームである。中国国内では「スーパー・プリンティング・ファクトリー」の愛称で呼ばれている。
センターには8種類の主流AM工法と、43台の産業用プリンターが導入されており、年間約1.9万個の部品を出力できる生産能力を持つ。対象範囲は研究開発時の検証、小ロット量産、治具の製造、アフターサービス用の補修部品、さらには個人向けカスタマイズまで、バリューチェーン全体に及ぶ。
FAWはAMの価値を「零零一(ゼロ・ゼロ・ワン)」という3つの言葉で説明している。設計構造の「零約束(ゼロ制約)」は、従来の加工法では難しかったトポロジー最適化や生物模倣構造を可能にし、設計自由度を広げる。検証反復の「零等待(ゼロ待ち)」は、金型の製作を待たずにデジタルモデルから直接出力できるため、研究開発のサイクルを大幅に圧縮する。構造統合の「一体化」は、複数部品を1つの形状にまとめることで、従来工法では届かない軽量化と製造効率を実現する。
具体的な成果もすでに出ている。FAWの高級車ブランド「紅旗(ホンチー)」(1958年発足、国家儀典用公用車としても知られる)の高級モデル「金葵花」や特種車では、3Dプリントで作った内装基材に本革の巻き付けやスチーム処理を組み合わせる工法で内装部品の量産を実現し、従来工法と比べて合計約3,059万元(2026年8月時点のレートで約7.3億円)のコスト削減につなげた。SLM工法で製造した単気筒エンジンのシリンダーヘッドや触媒コーンといった強度が求められる部品も、力学性能で従来の鋳造品と同等の水準に達しており、量産部品への置き換えが視野に入っている。このほか、建国後の中国で初の国産乗用車として1958年に試作された「東風小金龍(東風CA71型、車体前部の金龍装飾が名前の由来)」や紅旗のクラシックモデルの高精度な復刻にもAMが活用されている。
量産部品でのコスト実証、Hyundai/Kiaとの違い
トヨタやフォルクスワーゲンなど欧米・日系の大手自動車メーカーも、AM分野で20年以上の実績を持つ。ただしその用途は主に試作検証や小ロット部品の製造にとどまってきた。これに対しFAWの特徴は、AMを量産の内装部品に直接応用し、具体的なコスト削減額まで示した点にある。この種の量産適用は国際的に見ても珍しい部類に入る。
なお、FAWのAM投資は今回の開設でゼロから始まったわけではない。業界誌の報道によれば、FAWは2021年の時点ですでに金属AM装置メーカーのFarsoon Technologies製デュアルレーザー機「FS421M-2」を導入しており、社内でAM技術の蓄積を進めてきた経緯がある。今回の専用センターは、こうした既存の取り組みを一拠点に統合し、量産応用まで踏み込んだ形と位置づけられる。
Hyundai/KiaのAMSC(韓国・華城市の南陽R&Dセンター内)も、ポリマー系(DLP、SLA、ポリマーPBF)と金属系(LPBF、WAAMを含むDED)を合わせて6種類以上のAM工法を1拠点に統合しており、技術の幅ではFAWに劣らない。ただし公表されている用途は試作、治具、モータースポーツ部品、旧型車の復刻部品の逆設計といった領域が中心で、FAWのような量産部品でのコスト削減額は今のところ明らかにされていない。
一方で両社に共通する課題もある。AMの主要材料である金属粉末や光硬化樹脂の一部は輸入に依存しており、為替変動が調達コストに影響しうる点だ。設備の内製化を進めても、材料調達までは自己完結していない。
AM Insight Asia の視点
FAWとHyundai/Kiaがわずか16日差で相次いでAM専用拠点を開設した事実は、自動車業界におけるAMの位置づけが「部門ごとに散在する試作・治具用の設備」から「量産まで含めて一拠点に統合した常設インフラ」へと切り替わりつつある転換点を示している。試作品や治具の製造にAMを使うこと自体は、トヨタやフォルクスワーゲンの例が示す通り20年以上前から自動車業界に定着してきた。今回変わったのは用途の有無ではなく、その用途を一つの専用拠点に集約し、量産部品の製造まで対象を広げた点にある。言い換えれば、AMの位置づけが「各部門が便利に使う道具」から「会社全体の生産インフラ」へと格上げされたということだ。
この転換は、部品の内製化だけでは完結しない。FAWの場合、金属粉末や光硬化樹脂といった主要材料の一部を輸入に頼る構造は残ったままであり、施設という「箱」の内製化と、材料という「中身」の国産化は別の課題として進行している。中国政府が長年掲げてきたサプライチェーンの自律的制御という方針に照らせば、AM材料の国産化は次に手をつけるべき領域として浮上しやすい。
BYDやGeelyといった他の中国系メーカー、あるいはトヨタや日産など日系メーカーが、この2社に続いてAM専用拠点の設立に動くかどうかは、次に注目すべき点だ。AM専用施設を持つことそのものが、今後アジアの自動車メーカーにとって「あって当然」の設備になるのか、それとも一部の先行企業に限られた投資であり続けるのか、この先数年の動きが分かれ目になる。
対象企業について
中国第一汽車集団有限公司(英語表記:China FAW Group Co., Ltd.、通称:FAW、中国一汽)は、吉林省長春市に本社を置く国有大手自動車グループ。前身の第一汽車製造廠として1953年に建設が始まり、1956年に建国後の中国で初のトラック(解放ブランド)、1958年に建国後の中国で初の乗用車(東風ブランド)および初の高級乗用車(紅旗ブランド)を世に送り出した。現在は紅旗・解放・奔騰などの自社ブランドに加え、一汽フォルクスワーゲン、一汽アウディ、一汽トヨタといった合弁事業を展開しており、中国の四大自動車グループの一角を占める。
Source
- 国内首个以汽车应用为核心的增材制造创新平台揭牌 (via 国务院国有资产监督管理委员会, 2026年8月26日)
- Inside HMG’s Digital R&D Revolution ③: 3D Printing (via Hyundai Newsroom, 2026年7月31日)
- An inside perspective on China’s thriving metal additive manufacturing industry (via Metal AM magazine, 2025年1月)
- 一汽定调2026:销量354.6万,营收5700.4亿 (via 汽车公社, 2026年1月14日)



