イランとウクライナ、それぞれの戦場で示された無人機の脅威の大きさが、日本の危機意識を押し上げた
防衛装備庁は2026年8月25日、テラドローン株式会社(東京都渋谷区)と迎撃ドローンの量産調達契約を締結したと発表した。調達するのは同社の国産迎撃ドローン「Terra B1」。公募開始からわずか約3カ月というスピードでの契約締結は、通常数年から十数年を要する防衛装備調達としては異例だ。調達数量や契約金額、機体の具体的な性能はいずれも公表されていない。
なぜここまで急いだのか
背景にあるのは、離れた二つの戦場で確認された無人機の脅威の大きさだ。イラン製のシャヘド型無人機は、中東地域での攻撃に加え、ロシア由来の設計「Geran-2」としてウクライナへの侵攻でも大量投入されている。テラドローンは2026年3月にウクライナのAmazing Drones社(垂直発射型の「Terra A1」を開発)、4月にWinnyLab社(水平発射の固定翼型「Terra A2」を開発)に相次いで戦略的出資を行っており、両社ともに2026年春にシャヘド型UAVの迎撃に成功したと発表している。テラドローンはこの2社の異なる機体を組み合わせる体制を「多層型防衛」と呼んでいる。
日本国内でも脅威は具体化しつつある。防衛省「令和7年版防衛白書」によれば、中国の偵察・攻撃型無人機「WL-10」「GJ-2」が、2024年度の対領空侵犯措置において初めて確認された。中国は自爆型無人機「サンフラワー」を数万機規模で生産しているとみられ、ロシア、北朝鮮もそれぞれ無人機の量産体制構築を進めている。
もう一つの背景がコスト構造だ。従来型の対空ミサイルは1発あたり数千万円から数億円する一方、攻撃型の自爆ドローンは1機あたり数百万円程度とされる。高額なミサイルで安価なドローンを継続的に撃ち落とす構造は財政的に持続しにくく、低コストの迎撃ドローンが新たな防空手段として重視されるようになった。
公募から納入までの3カ月半
今回の契約に至る経緯は次の通りだ。
- 2026年5月下旬:防衛省が迎撃ドローンの早期取得に向けた入札を公示
- 6月5日:防衛装備庁が「迎撃ドローン早期取得プログラム」の実施を発表
- 6月29日:企業提案の締切(38社が提案)
- 7月15日:実証試験に使う4区分の機種を決定
- 7月15日〜8月6日:海上自衛隊が委託する形で実証試験を実施
- 8月25日:Terra B1が実証試験を単独で通過し、量産調達契約を締結
- 9月頃(予定):海上自衛隊への納入
38社の提案は、あらかじめ用意された4つのタイプ(区分)のいずれかに該当する形で出された。海上自衛隊補給本部が示した募集要項によれば、タイプ別の要件は次の通りだった。
| タイプ | 要件 |
|---|---|
| タイプ1 | 単一の管制装置から、機能拡張なしに複数機を同時管理・目標割当できること |
| タイプ2 | 最大射程が25マイル(約40km)以上であること |
| タイプ3 | 国産であり、国内生産基盤が整備されていること |
| タイプ4 | 最高速力が400km/h以上であること |
こうして並べると、タイプ3だけ性質が異なることが分かる。タイプ1・2・4は同時管制、射程、速度という機体の「機能」を基準にした要件だが、タイプ3だけは機体の性能ではなく「どこで、誰が作ったか」という属性を基準にした要件になっている。
防衛装備庁は7月15日、各タイプにつき1機種ずつ、計4機種を実証試験に進める機種として選定したと発表した。
| タイプ | 機種名 | 製造企業 | 契約相手方(国内窓口) |
|---|---|---|---|
| タイプ1 | BVQ404 | Beyond Vision(ポルトガル) | エアモビリティ株式会社 |
| タイプ2 | QS INTERCEPTOR | Quantum Systems(ドイツ) | 全日空商事株式会社 |
| タイプ3 | Terra B1 | Terra Drone (日本) | TerraDrone株式会社 |
| タイプ4 | IonStrike | DZYNE Technologies (米国) | 日本海洋株式会社 |
4つのタイプは異なる評価軸であり、38社は単純な順位づけで絞り込まれたのではなく、評価軸ごとに1社が選ばれる並行選抜の形を取っている。なお、38社のうち各タイプにそれぞれ何社が応募したかは公表されていない。
なお、防衛装備庁が6月5日付で示した提案要領では、迎撃ドローンの取得数量について「10機、20機、30機、40機、50機ごとに提案する」よう企業に求めていた。これは提案段階での目安であり、Terra B1について最終的に何機を調達するかは、契約締結後の今も公表されていない。
Terra B1は、テラドローンが出資するウクライナのAmazing Drones社が開発し、すでに現地部隊で実運用されている迎撃ドローン「Terra A1」の日本向け派生機とされる。米Defense Newsはロケット発射型の迎撃ドローンと報じている。タイプ3が求めた「国産」とは、設計そのものを日本が生み出したという意味ではなく、国内に生産基盤があることを指す。機体の設計思想はウクライナでの実戦から生まれたものであり、日本が担っているのは主に量産・製造の拠点という部分になる。
「ミサイル型」と呼ばれる機体の実態
Terra A1は自動追尾で標的に体当たりする「ミサイル型」と呼ばれることが多いが、実態は電動プロペラ推進のUAVだ。ロケットやジェットエンジンで一気に加速し使い切るミサイルとは異なり、電動UAVは低速で長く飛び続けられる。Terra A1は最大300km/hで32kmの範囲をカバーし、15分間の飛行時間を持つ。電動ゆえの低騒音・低熱源という隠密性も特徴とされる。RBC UkraineやUAS Visionの報道によれば、価格は約3,000ドル(約45万円)からとされる。
この「体当たりして自爆するが、待機・捜索もできる」という性質を持つ兵器は、業界では「ロイタリング・ミュニション(徘徊型弾薬)」と呼ばれる。対レーダー用の「Harpy」などが代表例で、ミサイルとドローンの中間に位置するカテゴリとしてすでに確立している。
3Dプリントが支える短納期
契約締結(8月25日)から納入予定(9月頃)までは約1カ月しかない。テラドローンの徳重徹CEOはDefense Newsに対し、3Dプリンターの活用が設計・試作段階を簡略化・短縮すると説明しており、これが契約後の短い納期に対応する土台になっているという。3Dプリントによってコスト低減や生産の迅速化だけでなく、変化する脅威や技術動向に応じて機体を改修する時間的余裕も生まれるとしている。
テラドローンは生産拠点を複数箇所に分散し、将来的には現地でのプリンティングファームへの拡大も計画している。徳重氏は、シャヘド型のようなドローンによる攻撃で1拠点が被害を受けても、分散生産モデルによってサプライチェーン全体が寸断されるリスクを大きく減らせると説明している。
スピードの内訳、制度と技術それぞれの役割
今回のスケジュールは、性質の異なる二つの速さで構成されている。
一つは、公募から契約までの約3カ月という制度設計の速さだ。これは3Dプリントの有無とは関係なく、防衛装備庁が調達プロセスそのものを圧縮した結果である。防衛大臣が自らX上で企業への提案を「拡散希望」として呼びかけるなど、通常の防衛調達では見られない周知の仕方も取られた。
もう一つは、契約から納入までの約1カ月という生産の速さだ。新規に金型を起こす射出成形では、設計から製作までに数週間から数カ月を要することが一般的で、この期間内に対応するのは難しい。金型を必要としない3Dプリントであれば量産までの立ち上げを大幅に圧縮できるため、この1カ月という納期にはテラドローンの説明する3Dプリントの特性が寄与しているとみられる。ただし調達数量が非公表である以上、少量の初期納入であれば他の製法でも対応できた可能性は残る。
Terra B1が置かれている位置づけも見逃せない。ミサイルとドローンの境界は双方向から曖昧になりつつある。Harpyのような徘徊型弾薬はミサイルに滞空・捜索能力を持ち込み、逆にロシアが投入するジェットエンジン搭載のシャヘド派生型「Geran-3」「Geran-4」は時速350〜500km規模まで高速化し、ドローンの側からミサイルに近づいている。低速・安価・長時間滞空を特徴とする電動UAVでありながら「ミサイル型」と呼ばれるTerra B1もまた、この収斂の流れの中に位置する機体だ。
AM Insight Asia の視点
国産機であっても、タイプ1・2・4のような機能要件を満たせば選ばれた可能性はあったはずだ。それでもなお、機能を問わず国産という属性だけで入れる専用枠(タイプ3)をあらかじめ用意していたという事実は、今回の調達が機能面での優劣よりも、国産という実績そのものを優先していたことを意味する。この制度設計は政府の国産化への本気度も物語る。通常数年を要する調達プロセスを3カ月に圧縮し、防衛大臣自らが異例の呼びかけを行った速さとあわせて、対領空侵犯措置で中国機の飛来が現実に確認され始めたことへの強い危機感を映している。イランとウクライナという離れた戦場で無人機の脅威の規模が可視化されたことが、日本にとって「よその国の話」から「自国の防空の現実」への切り替えを迫ったのだろう。
この危機感は、防衛産業の担い手そのものも変えつつある。Terra B1を手掛けるテラドローンは、もともと測量・点検・農業用ドローンやUTM(運航管理システム)を主力としてきた2016年設立のベンチャーであり、重工大手が占めてきた防衛装備の領域とは縁遠い企業だった。国産・国内生産基盤という条件のもとで速さと柔軟性が求められる調達枠組みは、大規模な生産設備投資を持たない企業でも量産段階まで到達できる余地を作った。3Dプリントによる分散生産や現地プリンティングファーム構想は、コスト削減の手段という位置づけを超えて、攻撃を受けても止まらない生産網という発想そのものを日本の防衛調達に持ち込みつつある。危機感に押されて始まった国産化の動きが、誰が防衛装備を作れるかという業界構造まで塗り替えていくのか、今後の展開を注視したい。
ただし、少数を国産で確保することと、それを大量に扱うことの間には断層がある。今回の契約が示したのは前者に過ぎず、数を増やした瞬間に必要になる二つの仕組み、すなわち大量のドローンを同時に制御する仕組みと、大量のドローンを生産する仕組みは、いずれもまだ日本の手元にない。
一つ目は制御の仕組みだ。ここで言う「大量の機体を制御する」とは、ドローンショーのようにあらかじめ決めた飛行経路を地上から一括送信する振付とは性質が異なる。迎撃は、どこから何機がどんな速度・軌道で飛来するか事前に分からない相手に対し、各機が自らセンサーで検知し自律的に目標を判断・追尾しながら、複数機が同じ目標に殺到したり逆に見逃したりしないよう連携もしなければならない、分散処理の問題だ。防衛装備庁自身、これをタイプ1として独立した評価軸に据えていたが、契約に至ったのは国産性を理由に選ばれたタイプ3のTerra B1であり、この機体が大量飛来への同時対処に必要なこうした分散処理をどこまで備えているかは、公表資料からは確認できない。テラドローンは出資先のウクライナ2社(Amazing Drones、WinnyLab)を組み合わせた体制を「多層型防衛」と説明しているが、これは射程や発射方式が異なる機体を組み合わせるという意味での多層性であり、この分散処理の能力を指したものかどうかは、これまでの発表内容からは判別できない。
二つ目は生産の仕組みだ。深圳の匯納科技(Winner Technology)は2025年11月時点で3Dプリンター5,000台を稼働させ、2026年3月までに1万5,000台体制へ拡張する計画を進めている。日本国内の分散型3Dプリンターファームの先行例は100台程度の規模にとどまり、しかも稼働はまだ始まったばかりだ。この程度の規模であれば、機体ごとの品質のばらつきを人の目でチェックする体制でも対応できてしまう。だが台数が数千、1万を超えてくると、人力での検品は現実的でなくなり、装置ごとの個体差を統計的・自動的に管理する仕組みが必須になる。この「数千台規模で均質な品質を保つ」ノウハウは、その規模で実際に稼働させた経験からしか蓄積されない性質のものであり、日本国内にはまだその実績がないとみられる。
つまり、ドローンという機体そのものを作ることは、実はハードルの高い部分ではない。本当に難しいのは、それを大量に制御し、大量に作り続けることだ。この二つの仕組みに比べれば、今回の契約は一見華々しく映るが、実際にはまだ最初の一歩を踏み出したに過ぎない。テラドローンが目指す分散生産構想や、防衛装備庁が別途タイプ1として評価軸に掲げた分散処理の能力が、実際にどう埋められていくのかが、今後この分野を見るうえでの焦点になる。
対象企業について
テラドローン株式会社は2016年2月設立、東京都渋谷区に本社を置く企業で、代表取締役は徳重徹氏。東京証券取引所に上場している(証券コード278A)。測量・点検・農業分野などでドローンサービスを提供し、これまでに3000件以上の実績を持つほか、安全な運航を支えるUTM(運航管理システム)を世界10カ国で導入してきた。Drone Industry Insightsが発表する産業用ドローンサービス企業の世界ランキングでは、2020年以降連続でトップ3にランクインしている。2026年、ウクライナの迎撃ドローン企業Amazing Drones社およびWinnyLab社への戦略的出資を通じて防衛事業に本格参入した。
Source
- 迎撃ドローン早期取得プログラムの実施について/実証機種の決定について/量産調達契約の締結について (via 防衛装備庁, 2026年6月5日・7月15日・8月25日)
- 令和8年度「迎撃ドローン早期取得プログラム実証試験業務委託」の契約希望者募集要項 (via 海上自衛隊補給本部, 2026年6月30日)
- Japan approves mass production of 3D-printed interceptor drones (via Defense News / C4ISRNet, 2026年8月27日)
- テラドローン、防衛装備庁の「迎撃ドローン早期取得プログラム」に採択 (via Terra Drone株式会社, 2026年7月15日)



