アジア最大の3Dプリンティング展示会がフェスに見える理由
TCT Asia 2026は2026年3月17日〜19日、中国・上海の国家会展中心(NECC)で開催された。アジア最大の積層造形(AM)・3Dプリンティング専門展示会として知られるこのイベントに、AMIAはプレスメンバーとして参加した。第1回では、初日の印象と会場全体の雰囲気をお伝えする。

圧倒される規模、TCT Asia 2026の第一印象
会場に足を踏み入れた瞬間、その規模に圧倒される。展示面積55,000m²超、出展社数約550社。1月に東京で開催されたTCT Japanの約130ブースと比べると、4倍以上の規模だ。
会場はHall 7.1(金属AM)とHall 8.1(ポリマー・非金属)の2つに分かれており、レイアウトは非常に合理的だ。金属とポリマーを別ホールに分けることで、興味に応じた導線が明確になっている。ただし、どのホールにいるかはわかっても、広大なホール内のどこにいるかを把握するのはまた別の話だ。それほど広い。
ブースのサイズも印象的だった。小規模なブースは日本と大差ないが、大型ブースの数が圧倒的に多く、最大規模のものは日本の展示会の約4倍の広さ。大型産業機械をそのままフロアに展示するブースも珍しくなく、日本のイベントではほとんど見られない光景だった。

熱狂の正体、フェスのようなエネルギーが生まれる理由
規模に驚きながらフロアを歩いていると、もう一つのことに気づき始める。本物の興奮感だ。日本の展示会に漂う「商談を取れ」「名刺を集めろ」というプレッシャーが、ここにはない。代わりに会場全体を包む祭りのような熱気がある。

Hall 8.1(ポリマーゾーン)では、アジア各地や世界中のインフルエンサーがイベント期間中ずっとライブ配信や撮影を行っていた。企業はコンテンツクリエイターの起用に惜しみなく投資する。戦略は明快だ。展示会が終わった後も、動画やレポートがオンライン上で拡散し続けるようにする。事前のコミュニケーションも日本と比べて格段に積極的で、出展社と主催者が開幕前から来場者の期待を高める努力を惜しまなかった。

なぜ興奮するのか、日本の展示会との決定的な違い
TCT Asiaがなぜこれほど活気に満ちているのか。立ち止まって考えると、いくつかの要因が浮かぶ。
まず、展示スタイルの違いだ。説明パネルはほとんど見当たらない。代わりに主流なのが体験型のアプローチ。機械や製品を来場者の目の前でライブデモする。ウェブで調べればわかる情報を提示するのではなく、その場でしか得られない体験を届けることに徹している。パンフレットの配布もほぼなかった。「来場者が持ち歩かなければならない資料を印刷して配るより、情報はオンラインで見られる」という哲学が貫かれているように感じた。
営業スタイルも異なる。来場者はすぐに名刺交換を求められることなくブースを見て回ることができる。出展者はしっかりと製品説明をし、本当に互いに関心が生まれたときに自然な流れで名刺交換が行われる。より深い関係を築きたい場合はWeChatが使われる。
同じフロアに産業用と消費者向けの製品が混在しているのも興味深い。来場者層の幅広さがイベント全体の活気を生み出していた。

ブーススタッフの気さくな雰囲気も印象に残った。ブースでランチを食べるスタッフ、断りもなくブースの椅子に座って休む来場者。この和やかさが会場全体の空気を柔らかくしていた。日本の展示会に漂う「売らなければ」というエネルギーや、見落とされがちな祝祭感との対比は鮮明だった。積極的な営業が前面に出ると、来場者は身構え、近づきにくくなる。出展者も無意識のうちに「この人は買うのか」という目線になり、会場全体のエネルギーが下がる。来場者はそれを敏感に感じ取る。TCT Asiaの空気は、誰もが自然に立ち止まって見ていけるものだった。
戦いは開幕前に始まる、事前認知とフロアでの勝負
とはいえ、すべてのブースが賑わっていたわけではない。これだけ多くの出展者が広大な会場に散らばっていると、来場者はすべてを詳しく回ることはできない。自然と足が向くのは、SNSや事前告知ですでに名前を目にしていた企業のブースだ。「LinkedInで見たことある名前だ、何を出してるんだろう」という感覚で引き寄せられる。
大手有名企業はブランド認知で来場者を集められる。中小企業にとっては、開幕前のSNS露出が集客の明暗を分ける。実際、見栄えのする展示をしていたにもかかわらず、事前プロモーション不足と思われる閑散としたブースもいくつか見られた。
当日の決め手は、通りすがりの来場者が思わず立ち止まるような「目玉」があるかどうかだ。賑わうブースの方程式は二段階。開幕前に認知を作り、フロアでインパクトを届ける。
TCT自身のコミュニケーション活動にも触れておきたい。TCT Magazineとウェブ・SNSでの継続的な発信を通じて、TCTはイベント直前だけでなく年間を通じてAM業界に存在感を示し続けている。日本のように直前だけコミュニケーションが活発化するスタイルとは異なり、TCTのアプローチにはAM産業全体を前進させたいという本物の情熱が感じられる。TCT Asiaがあれだけの集客力を持つのは、この継続的な取り組みの積み重ねによるところが大きい。
課題、ナビゲーションと情報アクセス
規模の大きさには課題も伴う。会場マップは入口にしかなく、公式アプリは動作が重く実用的とは言い難かった。特定のブースを探すのにしばしば手間取った。
中国のローカル企業は特に難しかった。社名だけでは何をしている会社かわからないことが多く、そのたびにスタッフに声をかけるのも気が引ける。
シンプルかつ低コストな解決策がある。各ブースにQRコードを設置し、企業プロフィールページにリンクするだけだ。来場者がスキャンすればブラウザでページが開き、ブラウザの翻訳機能が多言語対応を自動で処理してくれる。専用アプリの開発は不要で、コストはほぼゼロだ。
会場の端に位置するブースは来場者が少なくなりがちだ。一つのアイデアとして、そのエリアに意図的に休憩スペースを設け、足を休めたい来場者を誘導することで、自分では探さなかったかもしれない出展者との接点を生み出せるかもしれない。
知識豊富なボランティアガイドによる定時ガイドツアーも、特に海外からの来場者には大きな価値を持つだろう。日本の観光地でよく出会うボランティアガイドのように、自分では気づかなかった発見をもたらしてくれる存在だ。数百社が出展する会場ですべてを吸収することはできない。「この会社、実は面白いことをやっています」と教えてもらえるだけで、来場体験は劇的に豊かになる。
展示会場の外へ、アフターイベントで生まれる新たなつながり
TCT Asiaの魅力は展示そのものにとどまらない。最大の価値の一つは、LinkedInなどでオンラインでつながっていた人たちと対面で会い、画面越しでは難しい本物の会話ができることだ。TCT Asiaは単なる展示会ではなく、事前にSNSでの存在感を築いていれば、業界関係者も一般来場者も分け隔てなく意味あるつながりを見つけられる、巨大なネットワーキングハブだ。
初日の夜はインフルエンサー、出展者、メディア関係者など約40名が集まる懇親会に参加した。2日目の夜は韓国から取材に来たジャーナリストと夕食を共にし、AM業界が抱える課題について深く語り合った。

昼は最新技術を会場で体感し、夜は業界の仲間と関係を築き知見を交換する。このサイクルが、TCT Asiaを単なる展示会以上のものにしている。積極的にネットワークを広げるこの文化こそ、TCT Asiaの本質だ。
オンラインでは再現できない価値がここにある。アジアのAM業界で働く人、あるいはこれから関わりたい人にとって、この熱量を肌で感じることは強くおすすめしたい。TCT Asiaは参加して帰るだけの展示会ではない。何かが動き続ける場所だ。
もう一つ付け加えておきたいことがある。会場では、まだ公式発表されていない情報の断片に出会えることがある。展示内容をよく観察すると、開発中の製品や企業の今後の方向性を示すヒントが見えてくる。現地にいなければ気づけない発見だ。詳しくはPart 2でお伝えする。
AM Insight Asia の視点
TCT Asiaのエネルギーを肌で感じながら、一つの問いが自然と浮かんだ。これほどの投資を可能にするのは、単に市場規模の違いなのか。現地で観察した限り、答えはもう少し複雑だ。
TCTが優れているのはイベント運営だけではない。TCT Magazineとウェブ・SNSを通じた質の高い継続的な発信によって、常に業界に存在感を示し続けている。業界にとって魅力的な「場」を作る力と、AMエコシステム全体を活性化し続ける持続的な努力。この二つの力が自転車の両輪のように機能し、市場そのものを能動的に作り出しているように見えた。そしてその根底にあるのは、参加者だけでなく主催者自身の情熱だ。
日本のAM業界では「市場が小さすぎる」「需要がない」という声をよく耳にする。しかしTCT Asiaが示したのは、問題は市場の規模ではなく、市場を作ろうとする意志と行動があるかどうかかもしれないということだ。上海のTCT Asiaのフロアは、その問いへの一つの説得力ある答えを見せてくれた。
- TCT Asia 2026 Field Report [Part 1]: The Energy Of The 3D Printing Industry As Felt In Shanghai
- TCT Asia 2026 Field Report [Part 2]: Two Worlds Born From Diversity — Diverging Strategies In Copper Powder Additive Manufacturing
- TCT Asia 2026 Field Report [Part 3]: 7 Companies Worth Watching In TCT Asia 2026 Metal AM
- TCT Asia 2026 Field Report [Part 4]: My First TCT Asia Experience
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